VS牛&山羊 2
始まりの鐘を鳴らすが如く。
サブマリンの放った一撃……嫁と合わせて連撃……は、そのままVS牛&山羊戦を告げるものとなった。
開始の時点で、牛ふっ飛ばされとるが。
亀の甲羅による往復ビンタっていう強烈な攻撃で、容赦なく吹っ飛ばされとるが。
どうやらサブマリンの攻撃は、見事に牛からダウンを取ったらしい。
……なんか動かないんだけど、あの牛、大丈夫か?
いや、襲撃してきたからには敵なんだし、心配する筋合いなんぞないんだが。
うちのペットがなんかスマン、と思ってしまう部分があるせいか、敵だというのに微妙に案じてしまう。これは甘さだ。私ってば、まだまだ甘いな。戦闘職を志す身として、こんな甘さは削ぎ落さねえとなぁ。今後の課題だ。
やたら頑丈そうな牛からダウン一本とれたってだけ、儲けもんと思っておこう。うん。
さて、牛はサブマリンによって沈んだが、敵は牛だけじゃねえんだよな。
案の定、牛に代わって進み出る……山羊。
今までは牛の斜め後ろにいたせいか、牛の分厚い体に半分くらい隠れていたんだが、前に進み出てくるとその全容が白日の下にハッキリと晒された。
……直視が辛ぁい! マジで貴様はなんなんだ。
なんでビキニ着用なんだよ! どこで手に入れたんだよ、そのビキニ!
犬の首輪とビキニ装備の山羊のクリーチャーとか、どこに需要があるんだよ!
我が頼もしき仲間達から「う……っ」と呻く声が聞こえる。チラリと横目に見ると、吐き気を催したような顔で思わず視線を逸らしちゃってる奴が若干名。おい、敵前だぞ。目を逸らすな! しっかり見つめろ。直視が軽く精神攻撃だけれども!!
私の手元、サブマリンが前脚をしゅっしゅっと動かしている。見えない何かをビンタするような動きで、じたじたと。なんかもどかしそう……っつうか山羊を殴りたそうにしてるなぁ、おい。なんでお前はそう好戦的なんだ……。
頼む。頼むから、サブマリン。
さっきみたいにいきなり攻撃にすっ飛んでいくのは勘弁してほしい。自分の意図しない動きで急に物理的に振り回されるみたいになって、対応すんの大変だから。
どうしたもんか。
本来なら何も考えずに戦いたいところなんだが、手元に掴んだペット達の行動が危険すぎてヤバイ。戦闘不参加のつもりだったのに、気を抜くと亀が率先して乱入しよる。
うちの亀が暴走する前に、仲間達が牛と山羊を仕留めてくれないものだろうか。
難しいか。魔法騎士の見習いになったばかりの少年達には、やっぱ難しいよな。
だけど頑張れ。頼むから。
「マジなんなんだよ、あの山羊……」
「出方を窺う、というのは……山羊の得体が知れなさ過ぎて、ちょっと怖いな」
「あの恰好だけでヤベェ気しかしねえもんな」
「まずはなんでも、やってみるか。ちょっと、試しに殴ってくる。フォローは頼んだ!」
「え、ちょ、ノキアー! いきなりだな、おい!?」
「頼むだけ頼んで、先走るのやめぇー!」
打ち合わせらしい打ち合わせもなしに、一番に飛び出していったのはノキアだった。
ノキア、度胸はかなりあるもんな。素早さもかなりのもんだし、身軽で手数もある。
戦い方も、騎士というには邪道寄りだ。
あいつ、元裏稼業だもんなぁ。正攻法で戦われたら逆に驚くわ。
「全く、仕方ないな」
「ノキア、先行しすぎだ。フォローを頼むからには、少しは周りと息を合わせろ」
そして何の作戦もなく無謀に突貫したノキアをフォローすべく、すかさず後に続くオリバーとヒューゴ。オリバーは元々気が利くし、ヒューゴは常に周りをよく見ているから戦闘時も他人に呼吸を合わせるのが上手いんだよな。
ノキアの袖口から二本、三本とマジックみたいに飛び出したのは投げナイフ。筋肉分厚い山羊やら牛やらにとっては当たっても威力はなさそうだが、牽制にはなるだろうか。それが、まさに山羊の眼球直撃コースで放たれる。わあ、えげつなぁい! そら眼球に命中したら投げナイフでも威力ばっちりだよな!
素直に当たってくれる気はないらしく、山羊は腕の一振りで飛来するナイフを払う。だけどそうしている内に、ノキアはもう山羊へ攻撃が届く距離まで接近している。小柄さを活かして、一瞬山羊の死角に沈み込むような動きを見せたかと思うと、背後から山羊の背中を駆け上がるようにして延髄狙いの一撃! お前はわざわざ急所を狙わなければ気が済まないのか!
小回りの利き過ぎるノキアの動きは、山羊の予想より早かったんだろう。対応しようと身を捻るものの、山羊の動作は僅かに遅い。更には山羊の背後を位置取るノキアの攻撃を助成するように、オリバーとヒューゴがそれぞれ左右から、山羊に斬りつける。オリバーの剣は低い位置……山羊の脛を刈り取らんと走り、ヒューゴは逆に高い位置……山羊の肩へと刃を向ける。
また、ノキアの動きに呼応して、別の方向から動いたのはセディとアドラスだ。
セディは野生児の肩書にたがわぬ、獣のような俊敏さで放置されていた牛へとトドメを刺しに走っていた。その動きに引っ張られるように、常人より反射神経良さげなアドラスも自力飛行で追従する。牛のダウンが長引いていれば、セディだけでも良かったかもしれない。だけど牛のあからさまに頑丈そうな肉体を見よ! ちょっと時間が経っているし、回復していてもおかしくはない。セディ一人で手に余る場合、加勢が必要と考えてアドラスは牛の方へ行ったんだろう。
咄嗟に反応できず、一歩出遅れた形で取り残された者達もいる。
マティアス、セリト、レイヴン。お前達については……もう少し頑張りましょうというところか?
だけど出遅れたなら、遅れたなりにやれることがある。状況を確認して、本当に数を必要としている方へ追加戦力として参加すれば良いんだ。それに一旦は戦闘の様相を確認する事で、何かしらの気付きもあるだろう。
ちゃんと備えて、自分のやるべき言事を判断して、迷いなく動けるならそれでいいんじゃないかな。
まだまだ元気な山羊だけど、えげつない攻撃をするノキアを軸にした三方攻撃が良い具合に山羊の動きを封じている。だって山羊、腕二本しかねぇもんな。
こんな半分観光みたいな仕入れ旅行でもしっかりちゃんと武器を携帯している時点で、皆には花丸をくれてやろう。
ただし、シモンにラインハルト。
お前らは別だ。
さっきからなんか微妙におたおたと、様子がおかしいと思ったら……人員がそれぞれの戦場へと散って、ばらけて、奴らの様子に気付いた。待て待て、この状況で、手元に武器がないだと?
武器置いてきちゃったとか吐かして、あたふたしてんじゃねーよ!
魔法騎士志望だろう? なんでテメェら武器持ち歩いてねーんだよ。常在戦場の心得はどうした。ナイジェル君でさえ、護身用に短剣持ち歩いてんだぞ。恨まれる心当たりがあるからってな!
なんにせよ、お前ら弛んでるぞー! ほら見ろ、師父がお前らの顔凝視してんじゃねーか!!
ついさっき、私自身が甘さを捨てきれていないと自省したばかりだ。
だけど私よりずっとシモンとラインハルトの奴等が甘い……!
そんなんで修羅場を潜り抜けつつ生きていけると思っているのか!?
「不測の事態を考慮して備えを怠らないのが騎士というものでしょう。ですのに、手ぶらで移動とかどういう料簡だよ!」
「むしろ逆に問いたいんだけど、こんな平和で牧歌的な村なのに、なんでみんなヒカリモノ持ち歩いてんの!?」
「あはははは……えー? 武器を持ってこなかった、私達がおかしいんですか…?」
「その平和で牧歌的な筈の村で魔物の襲撃喰らっておいて何をほざいていやがる。それこそまさに、こういう事態に備えて、武器の携行は必須だろ!?」
「ミシェルはともかく、他の皆は修羅の世界の住人じゃないと思っていたのに!」
「おいこら、それは暗に私が修羅の世界の住民だと言ってるな……?」
「俺達、芝居の稽古用に雑~に作った木刀しか持ってねえ!」
「じゃあもう、その木刀でも良いから。体の前で構えて突貫して来い!」
「軽く自殺行為!!」
「木刀で魔物を圧倒できる程、俺達上級者じゃねえよ!?」
見苦しくも、ぎゃいぎゃい騒いできやがる……。
しかし武器が不十分だと、こいつらの力量じゃマジで戦闘に混ぜても力不足というか不安要素しかないというか……一緒に戦う、他の面子の足を引っ張りかねん。
そう思ったのは私だけじゃないらしく、やがて二人はしゅぴっと手を挙げて元気に宣言した。
「とにかく俺ら、えっと、そうだ避難誘導! この惨劇に居合わせた牧場の人たちや、牛の避難誘導してくるから!」
「ほーぅ?」
「逃げ遅れる人がいたら大変だもんな! ちょっと行ってくる!」
「あ、こら一方的に宣言して、すっ飛んでいくのはちょい待てー!」
こうして、私達魔法騎士コースの生徒は分けられた。
山羊を相手取る奴等、牛の首を狙う奴等、牧場の人たちや牛さんの避難誘導をする二人。
そして見物姿勢のナイジェル君と私。
私に至っては、手元の亀が暴走しないように抑えるという難しい仕事まで追加だけれども!
しかし戦えないとなると、より一層、こう、なんというか……むずむずしてくる。
あ、間違った。うずうずしてくる。
亀達という不安要素はあるけれど、なんとか参加できないものか……
考えて、考えて……ハッと気づいた。
固定砲台になるという選択肢を。
そうだ、私には頼もしき精霊様方がいるじゃん!
彼らの力を借りて、我ながら珍しい事態だが、後衛としてなら参加できるかも!
そうと気付くと、ちょっとだけうきうきした気分にもなってくる。
……問題は、戦闘中の奴らが標的と近い事かな!
接近戦しとるんだから仕方がないが、それにしてもこのまま魔法攻撃に切り替えたら、近くにいる味方を巻き込んで吹っ飛ばしかねん。
なかなか思い通りにはいかないな、難しいなぁと。
困った顔で天を仰いだ、次の瞬間。
今日、何度か聞いた声が。
何故か後方から聞こえてきた。
「なっ——なんだこの状況! 山羊が暴れてるって聞いたから来たのに……っなんなんだ!」
え、ちょ——避難誘導グループ!! シモン、ラインハルト、お前ら何やってるの!
民間人が現場に増えちゃってるんだけど——!?
避難誘導の見落としじゃん、これー!!
心の中で叫ぶも、最早どうしようもなく。
危険な現場から順次、人を逃がしている筈の牧場へやってきてしまった、その姿。
まずいなぁと思いながらも、逃げるよう促そうとしたんだが……
事態は、私の思ってもみない方向へと転がるのだった。
実はコレ、覚醒イベントだったりするんですよね……。
・誰が、何に……?
a.チーズの売人が、聖女に
b.仲間達の誰かが、勇者に
c.チーズの売人が、魔法少女に
d.バスク少年が、中二病に
e.バスク少年が、闇の王に
f.ミシェル嬢が、亀の王に
g.バスク少年が、魔法少年に




