がぁるずとーく(※急募ツッコミ)
皆様、三月ですね。
年度末デスね。
……職場の繁忙シーズンにつき、3月後半は小林が忙殺される予定となっております。
投稿に滞りが出る可能性が高くなっておりますので、先んじて予告させていただきます。
特に20日以降が忙しくなっておりますので、投稿が出来なかったら申し訳ございません。
頭の中を、いろんな情報が錯綜しているせいか。
それとも感情がいっぱいいっぱいになってしまったのか。
ヒロイン(仮)は苦悩の表情で頭を抱えてしまっている!
交渉相手のヒロイン(仮)が硬直している間、ナイジェル君もその様子を窺いながら……何事か、手元の手帳に書きつけている様子なのがちょいと引っかかりはしたけれど。
動揺する女性が平静を取り戻すのを静かに待つのは、多分紳士の振る舞い……だよね? 多分。
ナイジェル君に致命的なナニかを掴まれる前に、ヒロイン(仮)は現実に戻ってきた方が良いと思う。
だけどやがては折り合いもつくというもの。
こちらがちょっとハラハラしちゃったけれども、数分の時を経てヒロインは私達の待つ現実へと帰ってきた。お帰りなさいませー。
しかし、なんだろうか。
気のせいじゃなければ、ちょっと様子がおかしいというか……目が据わってない?
うん、気のせいじゃなかった。
暫し私達の間で目をうろうろと彷徨わせた後、何か思い至ったのか。
何故かロックオン! とばかりに私へ視線を固定させて、据わった目でじっと見てくる。
『乙女ゲーム』の可憐さなんぞどこにもないな! それ『ヒロイン』がして良い目つきじゃなくね?
というか、何故に私を見る。
「脚本に、演出を担当されている、でしたよね……」
「うん? ああ、学内チャリティのお芝居ならその通りだよ」
「脚本、脚本……ちなみに原案などは、どなたが?」
「それも私だけど」
「そう……お前かぁぁぁあ!!」
「うわぁ!?」
ちょ、びっくりした!
至近距離でいきなり叫ばれて、めっちゃびっくりした!
ちょっとちょっと、顔。顔。ヒロイン(仮)のしていい顔じゃねーよ!?
なんか放して堪るかって感じにガッチリ私の両腕掴んでいらっしゃるし!? 振り解くのは簡単だが、それをやっちゃいけないような気にさせる鬼気迫るお顔でにじり寄って来る。うん、そんなに寄ろうとしなくても良かろ。椅子から落ちるぞ。
だが、ヒロイン(仮)はそんなこと構っちゃいられねえって感じで、めっちゃ爛々とした目で私を凝視しているんだけれども。ついには私の腕を掴んだまま、ガタッと強い音を響かせて立ち上がった!
卒業式の練習で、先生に「一同、起立!」って言われた時みたいな鋭く素早い立ち上がり方だったわ。あの練習ん時って、ちょっと独特の空気感あるよね。
なんとなく他所事を考える私の様子など、お構いなしに。
ヒロイン(仮)は私の腕を掴んだまま、ナイジェル君の方へ顔を向けて宣言しおった。
「申し訳ありません、少々急用ができてしまいまして……商談開始早々、失礼は承知しておりますが、どうしても、ど・う・し・て・も、見過ごせない事態がございまして……!! 本当に申し訳ありませんが、ちょっと中座させてください!!」
直角、九十度に折られるヒロイン(仮)の腰。
しかし私の腕を掴んだままだ。
どんな個人の事情があるのかは知らんが、何らかの理由で中座するのは仕方ないかもしれないけどさ……これ、もしや、私も一緒に連れていかれる流れか? そんな流れなのか? つまり、私に用があるのか! え? 何用ですか??? 私達、出会ったばかりなのに。
「どうやら当方の脚本担当に何かしら用があるようですが……一体、どのようなご用件で?」
「乙女の事情ですわ!!」
「いってらっしゃいませ」
うわ、出たよ。伝家の宝刀『乙女の諸事情』。
その言葉を出されたら、野郎にゃ反論の余地がねえって前世で近所の兄ちゃん(大学生)が言ってたわ……今も、あのナイジェル君が引き留めることなく、するっと免じたし。どうやら、現世でもそういった暗黙の了解は共通のようだ。あれか、『乙女の~』って万国共通の免罪符なんか?
「大事な商談中ですのに、本当に申し訳ございません。三十分で戻りますので、どうかお体を休めていてくださいませ! バスク、ごめんね、後は任せた!!」
「ちょ、ミリエルーー!?」
そうして、ヒロイン(仮)……ミリエル・アーデルハイド嬢は走った。
私の腕を、がっちりと掴んだまま。
つまり必然的に、私も強制連行である。
さっきも言ったが、振りほどくのは難しくなさそうなんだよな。ヒロイン(仮)はクラスメイトのセディみたく外見不相応に握力ゴリラって訳でもないし。うん、十代の女の子なら、このくらいの力が相応かな? 学園のお嬢様方は育ちが良いのでもっと力が弱いけど、田舎で牧歌的に逞しく生きてる女子ならこのくらいの握力はあるだろうって感じの力具合です。
それでも魔法騎士コースで日夜サンドバッグを殴打している私に比べたら、彼女の握力は可愛いものだ。振りほどくのは、実際に何の難もなくやれそうだ……けど、何となく空気を読んでみた。なんか今は振りほどいちゃいけない気がするんだよな。それやったら、ヒロイン(仮)に泣くか非難されるかしそうなんで、大人しく連行されてみよう。面倒な事態になりそうだったら離脱も検討するけれども。
そうしてヒロイン(仮)は、私を引きずるようにして突っ走っていく。
さっきから見ていて思ったんだけれども、どうもこのお嬢さんは理性やらよりも感情に突き動かされて行動してしまう面があるようだ。まあ、十五の若さならそれも致し方なし、ってヤツかもしれんが。あ、そういえば私も十五歳だわ。やだな、客観的に見たら私もこんな感じになってる時がありそう。ちょっとだけ、本当~にちょっとだけ、なんか身につまされた。他人のふり見て我がふり直せってこういうことか。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
~チーズの売人&ミシェル嬢の去った応接室にて~
少女たちの消えたドアを、暫し眺めた後。
徐に視線を戻すと、斜め対面に座るバスク……アラバスター・ホワイト少年へとナイジェル君は目を向けた。
「それじゃあ商談を始めましょうか」
「え゛っ!!?」
村興し実行委員会側の責任者(※チーズの売人)不在の応接室で、重要な話し合いが始まろうとしていた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
私がヒロイン(仮)に引っ張られるまま、連れ込まれたのは建物の外。
外というか、裏口出てすぐの……建物裏の、人気のない日陰。雰囲気的に『校舎裏』とか『体育館裏』を連想する日陰具合だ。
そこで、ようやっとヒロイン(仮)はずっとぎゅっと握っていた私の手を放す。
しかし私を開放する意思は、無いらしい。
「――ねえ」
呼びかけというにも端的過ぎる、声の後。
私は何故か、彼女に建物の壁際へと追い詰められて……壁に背中を付けた私の両脇に、ヒロイン(仮)の両腕が。壁に手をつき、私を腕の中へ囲うように立つ、私とあまり背丈の変わらない少女。
……あれじゃん? この構図、前世で見たことあるー。
小四の時だっけ。学校帰りの通学路、一学年上の知り合いが中学生にやられてマジ泣き寸前になってたから、背後に忍び寄って中学生の尻を蹴り上げてやったことがあるわ。カツアゲ、カッコ悪い。というか犯罪だわ、犯罪者にくれてやる慈悲はないんで抉り込むように蹴り上げて悶絶させたったなあ。ああ、なんだったっけ、あの構図。壁ドン? 目に見えてわかりやすい恐喝姿勢だよな。
そんな壁ドンが、今ここに再現されている訳だが。
……なんか可哀想になってきた。頑張って虚勢はってる、みたいに見えてきてさ。
でも悲しいくらいに、迫力がない。全っ然、怖くねーわ。
ヒロイン(推定)なんで、顔はとってもよろしいんだけど、可愛い系美少女だから凄まれても背伸びして威嚇するヒヨコのように見えてくる不思議。これなら桃介の使い魔の方が迫力ある。いや、比べる対象が悪いな……暗黒街の首領みたいな妖精と比べちゃ駄目か。
それでも精一杯に凄んでくる様子に、なんかいっそ和んできたわ。
なんかそれを態度に出したら収拾がつかなくなりそうなんで、きゅっとお口を閉じて表情を引き締めた。それが傍目には、ちょっと強張って怖がってるように見えていたなんぞ、私は知らない。
「あなた、一体どういうつもりなの?」
「どう、とは……?」
「どんな魂胆かって聞いているのよ! あなた、なんでしょう?」
「いや、魂胆って、なんの? この村に来た魂胆なら、よくご存じの通りチーズですが……?」
「チーズじゃないわよ! あなたの素性に関する事よ、わかるでしょう!?」
「素性……? 私が何者かということなら、グロリアス子爵家三女、ミシェルですわ。あ、あと魔法学園魔法騎士コース一年生ですわね」
「そういう事じゃなくて……! ああ、もう、まだるっこしいわね! チャイナに水戸黄門、この世界にはない概念ばっかりよ! もうわかってるから、あなた、転生者なんでしょう!?」
「そうですね」
「そうよね、そう簡単に認めるはずg……簡単に認めた!?」
どうしたことだろう。
聞いてきたから、答えただけなんだが……何故か、ヒロイン(仮)が目を白黒させている。
ヒロインの目は青いんで、白黒という表現で合っているのか謎だが、白黒させている。
ちゃんと答えたのになぁ。
「あ、水戸のご老公様はともかく、チャイナ的な概念はこっちの世界にもありましてよ。あの芝居衣装、異国の古着をリメイクしただけですもの」
「チャイナあるの!? ゲームの世界観にそんな説明あった!?」
「いやですわ、世界観の説明なんて。ここは現実ですのよ、世界は広いんです。そして世界には不思議がいっぱい☆ ですもの。人の口では説明できない事ばっかりですわよ」
「って、ああん、もう! そういうことじゃなくって……!! 単刀直入に、ハッキリ言うわ! あなた、ここが乙女ゲームの世界だって知ってるんじゃないの!?」
「乙女ゲームが先か、世界が先か、それが問題ですね」
「今はそんな哲学聞いてないわよ!! でも乙女ゲームの事は知ってるってことよね!? じゃあ、じゃあ……あなた、何が目的なの!?」
「主語お願いします」
「一々腹の立つ返ししてくるんじゃないわよ! シナリオが破綻してる……私が村にいて、魔法学園に編入できてない原因も、あなた知ってるんじゃないのかって聞いてるの!」
「あ、はいはい。原因、私です」
「だからなんで、そこあっさり認めちゃうの!?」
「認めたらいけなかった……?」
何故か段々、ヒートアップするヒロイン(仮)。
ちょっと顔も興奮から赤くなってきていて、そろそろお湯が沸かせそうな温度感になりつつある。
言葉もそれに応じて、荒くなってきているというか。語彙力が弱ってきているというか。
「あなた、何の魂胆があるのよ!! 目的は!?」
「王子を殴る事ですが」
一瞬、風が止んだ気がした。
風だけでなく、空気も停止した気がした。
そんな感想を持つくらい、音が消えたなぁ。一気に静かになった。
ヒロイン(仮)が口を閉ざしただけだが。
「……え?」
「私の目的は、王子を殴る事ですが。合法的に」
「え、ええ??? わ、ヒロインに成り代わりたい、とかでなく……? 自分がヒロインになって、逆ハーレム、とか、そういうアレでなく?」
「ははは、なんだその苦行。勘弁してくれ。拷問されたって嫌ですわよ」
「え? 私のポジションって拷問されても勘弁してほしい感じのヤツなの……?」
「私の目的は単純明快、ただ一つ。王子を殴る、これに帰結します」
「そんなもんに帰結させないで!? 相手、王子、王族よ!? は、反逆罪……っ」
「罪に問われない為だけに、魔法騎士目指して魔法学園に入りました☆ ほら、同級生なら殴っても問題なし。学外でやったら問題だけど」
「その為だけに学園入ったの!? どんだけ王子を殴りたいのよ!! ちょ、結構な問題発言してるけど、もしかして、あなた危険な人!?」
おっと、どうしたんだろうか。
ヒロイン(仮)にちょっと凄い物を見る目で見られてるぞ?
ついでに一歩、二歩とヒロインが後ずさったので物理的な距離ができた。これがそのまま心の距離の離れ具合も表しているかのようだ。
「うそ……絶対に、あなたがシナリオを歪めたんだと思ったのに」
「そこは否定しませんが」
「自分がヒロインにとって代わって、五人の王子をコンプリートする為にって」
「それだけは絶対にない。そこだけは強く否定させろ」
「そんな、そんな……十代の、女の子なのよ? 女の子、でしょ? なのに目的が、暴力……? イケメンとのいちゃ甘学園生活よりも、暴力……??? 乙女の発想として、それってどうなの……?」
「なお、学園に入った意義を遺憾なく発揮した結果、五人の王子は撃破済みです。物理的に」
「コンプリート済なの!? わずか数か月で!? というか今、なんか過激な言葉を当ててコンプリートって表現しなかった!!?」
やべぇヤツだわ、こいつ……。
なんかヒロイン(仮)が、そんな事を呟きながら、更に数歩距離を取る。
その顔はなんだか若干、青褪めているようにも見えて……え? そんなショック受けるような事?
私の発言に、衝撃を受けるヒロイン(仮)。
その様子に、こっちもちょっと思うところがないでもない私。
互いになんとなく、相容れないものを感じつつ。
これが私とヒロイン(仮)の、個人的なファーストコンタクトとなった。
なお、私達がこんなことをしている間に。
「それじゃあ、チーズの手配については、今のお話通りに準備させていただきますね」
「はい、有難うございます。有意義な時間をいただけたこと、感謝します」
「こちらこそ、良いお話を有難うございます」
「貴方に商売の神のご加護があらんことを」
「ナイジェルさんにも、商売神のご加護がありますように!」
チーズに関する商談自体は、ナイジェル君とアラバスター・ホワイト氏の間で着々と纏まりつつあった。




