それを生贄と人は言う
独裁政権ナイジェル君。
22/12/28 役者一名、名前を間違えていたので訂正しました。
若干名から抵抗はあったものの、物の数ではなく。
無事にクラスメイト達からの同意も得られ、私達は『芝居小屋』の実施を見据えて準備を始める事となった。
まずは色々と決めなきゃいけないことが多すぎる。
だけどこういう準備も、なんだか学生っぽい感じがしてちょっと楽しい。
前世の世界の、学園祭ってやつの準備とかこんな感じなのかもしれない。そう思うと感慨深い。学内チャリティは『乙女ゲーム』では学園祭ポジションのイベントだったから、そう遠くないと思うんだよね。素直に『学園祭』というイベント名にしなかったのは何故なのか微妙に謎だけど。
なお、『乙女ゲーム』ではヒロインと攻略対象が色々な企画を見て回るってイベントだった。彼らが各クラスで何を企画していたのかは明言されていないが、確か条件を満たしていたら攻略対象+ヒロインが有志で企画を開催ってイベントが発生していた気がする。特に何かを準備する描写もなく、突然発生してたな、あのイベント。
しかし王子共を五人集めて、何かを企画、ねえ……晒しくb、じゃないない晒しもn、でもなかった、えっと、うん。あいつらのがん首並べて何かをやるってなったら集客効果だけは素晴らしいものがあるだろうな。それこそ面だけ並べた状態でも、学園ぶっちぎりで人を集めるだろうし、その分、荒稼ぎのチャンスだろう。
でも私の発想力が乏しいので、奴らを並べるとなると何故か思い浮かぶのが横一列に並べて沢山のクリームパイを用意し、一回1,000Gで好きに投げつけて良いよ! とかそんなんばっかだった。やっぱりこういう企画立案はナイジェル君の秀逸な意見を聞いて考えた方が良いな。ナイジェル君の意見って、なんか光るモノがあるんだよなぁ。多分、あの光は金貨の輝きだろう。
「それじゃあ、レギュラーメンバーの配役はこんなところですわね」
話し合いは、続行している。
先日はナイジェル君へ無駄な抵抗を繰り広げて赤太郎が紛糾した為、企画を認めさせて半ば無理矢理納得させるのに時間を使ってしまった。
今日は、学内チャリティの企画に関する二回目の話合いを行っていた。
芝居小屋をやるに当たって、まず何より重要で、真っ先に決めるべきこと。
そりゃもちろん、芝居をするのだから配役を決めるのが先決だ。
勿論クラス一丸となって準備を進める為には劇の内容への理解度だって高くないと。当日、お客に聞かれるかもしれんしな。
私はクラスに脚本と計画書等の資料を配った上で、黒板に目立った役柄について書き出してクラスメイト達に提示する。
・主役 老将軍ミット ……赤太郎、ハインリッヒ
・老将軍ミットの右腕 ……マティアス、サイザー
・老将軍ミットの左腕 ……リンドール、ロディクス
・レディ・シルバー ……エドガー、ヒューゴ
・うっかりマイケル ……ルーカス、セディ
・風車のセブン ……エディット、スベン
・両親を殺された少年 ……ナイジェル君、ノキア
・ナレーション ……オリバー、イアン
書ききったぜ、そんな気持ちでかいてもいない額の汗を拭う私。
学校側から休憩時間は各自しっかり取るよう指導されているので、働き通しは無理らしい。なので交代要員含め、一役につき二名ずつの抜擢である。
なお、役柄の名前は適当に決めた。右腕・左腕に関してはまだ決まってないけど。むしろもう、ライトとレフトで良いような気もしているけれど。だって本来の名称をもじろうとしたら、片方についてスーザンとしか思いつかなかったんだ。女名は流石にマズイ。
あとは細々、第一部から第三部でそれぞれの脇役や悪役とか決めないとな。
そっちも書いとこうかな、とチョークを持って考えていると、そこにそろそろと手を挙げて、控えめに発言する声が。
「あの、ミシェル……?」
「どうしましたの、マティアス」
「配役を決めるって、言ったよね……決めるまでもなく、黒板に既にほとんど名前が書きこまれてるんだけど」
「ええ、ですから皆の追認をいただけば、名前が書きこまれている配役については確定ですわ」
「配役決めるとか言っときながら、選ばせる余地もなく既に決まってんじゃねーか!!」
「フランツ、急に叫ばないでくださいまし。皆の承認を得てから決定、なのでまだ決まってはいませんわ。これから承認していただくのですもの」
「決めるって、選ぶとこからじゃなくって承認待ちって意味かよ!」
「あの、主役の右腕に俺の名前があるんだけど……これ、ちなみに選考基準は?」
再び不安と疑問に満ちた声で、マティアスが聞いてきた。私は覆さないぞ、と強い気持ちと圧を込めてお答えしてやった。
「一に顔、二に声、三に所作。四はなくて五に他コースの令嬢人気、ですわ」
なお、顔に関する評価基準はお茶会で耳にしたお嬢様方の辛口選評を参照した。
喜べ、マティアス。
お嬢様達の正直なぶっちゃけ話によると、君の顔は魔法騎士コースどころか一年男子全体でもダントツらしいぞ。綺麗系で赤太郎と系統も異なるし、隣に並ぶと絵になるってお嬢様達からは高評価をいただいている。
無造作に伸ばした髪で顔を半ば隠しているスタイルについては、賛否両論あるけどな。中には影があって素敵って喜んでいる層もいるが、お芝居中は鬱陶しいので顔を曝け出していただく予定だ。
他の面々も、一度となくお嬢様方の話題に上った我がクラス渾身のイケメン共である。
赤太郎と並べる我がクラスの主力商品なのだから、当然である。赤太郎に見劣りする奴を選んだら売上に関わる。一緒に陳列するなら、稼げる奴を並べるべきだ。
ただし、エドガーだけはビジュアル的にはミスマッチなんだが。奴に関しては、出来心でお色気担当の女役にしてみた。
なお、ナイジェル君がやる役に限っては、第一、二部では悪役に狙われた被害者だけど、第三部でラスボスに進化を遂げる難しくも存在感がある役なので、これだけは演技力とか舞台度胸を理由に選んでいる。
あとアレだ、ナレーション役はとにかく声。声がよく通り、聞き取りやすく、発音がハッキリしている人間を選んでいる。耳にすっと入るんだよね、オリバーの声って。現場指揮官向きの能力だと思うので、若干羨ましい。
「聞くんじゃなかった……!」
頭を抱える、役者(暫定)の皆さん。
彼らには頑張ってお客の心を掴んでほしい。個々人のグッズ売上が伸びるように。
それに最終日には、役者の衣装を剥いで競りにかける予定だ。きっと素敵なお芝居の思い出に、紳士淑女から血相を変えた役者のご家族までふるってご参加いただけることだろう。そこでも、役者に人気があるかどうかで売上が大きく変わってしまうだろうし?
「役者以外を担当する人についても、やることは色々あるよ。軽食を準備して給仕したり、お客様の支払いを会計したりもそうだけど、物販コーナーや役者のサービスタイムでは混雑するかもしれない列の整理とか、本当に色々」
「あ、それなんですけれど、ナイジェル君」
「どうしたの、ミシェル」
「私、思いましたの。一定の金額以上のご購入があった方、全員にサービス券を発行していては際限がなくなってしまいませんこと? それこそ役者の身体が足りず、時間を押して延々とサービスする事になりません? 劇の上演時間に差し障るのではないかしら」
「――うん、一理あるね」
私の言葉に、地獄で仏を見た……! って感じの顔をする役者の皆さん。
こんなに感謝の眼差しを注がれるのも初めてのような気がするよ。存分に崇め讃えよ。
「だからね、メニュー表に書く文章に、この単語を付けるべきだと思いますの」
ナイジェル君やクラスのみんなに見えやすいよう、私は黒板に大きく板書する。
赤太郎だけでも賑わいそうだけど、令嬢人気の高い評判の美男(笑)共を役者にするなら、それぞれ目当てで来るお客様もいるだろうし。
富裕層の多い人間が本気で金を払えば、赤太郎とか劇をする時間も無くなりそうだし。
それを解決する、素敵な一文をご披露してやろう。
『注文料金 合計****G以上のお客様には豪華特典プレゼント!』
→ 『注文料金 合計****G以上のお客様には抽選で豪華特典プレゼント!』
うむ、素敵な解決法だ。
規定料金以上のお買い上げがあったお客様には、ただサービス券をお渡しするんじゃなく、会計時に籤箱に手を突っ込んで自力でサービス券をゲットしていただこう。
私の書いた文章をじっと見上げて、ナイジェル君が私に確認を取ってくる。
「ミシェル、空クジは?」
「完全に空クジだと、お客様には憤慨する人もいそうだし。空クジって言葉は避けて、『記念品引換券』とか。会計カウンターの奥に専用の記念品を準備しておいて、それと交換とかどうかしら」
「うん、良いんじゃない? 記念品は多めに準備しておこう」
「つまり、クジは『記念品引換券』を多めにって事ですわね」
悪い奴だなー、ナイジェル君!
だけど簡単に手に入ってしまったら、価値も下がっちゃうしね。
少し手に入る難易度が上がった方が、お客様の熱意を盛り上げる事だろう。
結果、サービス券欲しさに来店を繰り返すお客様が沢山現れるかもしれないが、それはお客様の自由意思だし、私達の関知するところじゃない。リピーター有難うございます、って感じだ。
「あいつら……マジで搾り取る気だ」
「シッ……聞こえますわよ、フランツ!」
「聞こえるように言ってんだ」
私達がお送りする芝居『老将軍ミットの冒険』は三部構成。
第一部から第三部まで、各四十五分くらいを想定して脚本を作っている。
午前と午後で役者を変え、各一回ずつの上演予定。
合間に設けた空白時間で、役者たちのサービスタイムを開催する。
ここでどれだけお客様の心を掴めるかが、勝負所だと思うんだよ。
なので役者の皆さんには芝居の練習は勿論だが、別途サービスタイムでの振る舞いについてもナイジェル君から直々に指導予定である。
頑張れ、役者の皆さん。
君らにもきっと良いことあるよ。
いや、合法的に可愛い女の子の手を握ったり、ハグしたりできる可能性があるんだから、これは彼らにとってもご褒美足り得るんじゃないか……?
「ミシェル……貴女、思春期男子の心がわかっていませんわ。そんなに堂々と、喜べる程、みんな大人じゃありませんの」
「わかってたまるかよ。エドガー、忘れているかもしれませんけれど、私、女子なの」
「知っていますわ。というか、わたくしも物申したいことがありましてよ」
「?」
「どうして、わたくしが、『レディ』と書かれている役柄に抜擢されていますの」
「いや、そこ納得しかないわ」
真剣な顔で疑問をぶつけてきた、エドガーの背後。
通りがかりのフランツが擦れ違いざまに口を挟んだ。
去って行くその背中を見送るエドガーの顔は、物凄く「釈然としない」って書いてあったよ。
というかエドガー、君さ。
普段その言動なのに、女役に振られたことが納得できないのかい……?
その内、クラス名簿とか作るかもしれません。
需要はあるでしょうか……?




