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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
ごにんめの変質者アイビー・グリーン ~難易度★☆☆☆☆~
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もう一人の転生者は詰問する

↓は前話の後書きに書こうとしていて、書き忘れたモノです。ちょっとここに書いておきます。


美貌 高←→低

青汁・青次郎・黄三郎・桃介・赤太郎

男前 高←→低

赤太郎・黄三郎・青次郎・青汁・桃介

可愛い 高←→低

桃介・黄三郎・赤太郎・青次郎・青汁


綺麗系 青汁・青次郎

格好いい系 赤太郎・黄三郎

可愛い系 桃介


※青汁は「イケメン無罪」の悪しき例。

 乙女ゲームのプレイヤー達に「くそう、くそう……! 変人の癖に! 無駄に綺麗な顔しやがって!!」「マッドな癖に、マッドな癖に……だが顔が良い!」と悔しがらせていたらしい。アウトな言動を美貌でカバーしているキャラだったそうな……。



 青汁を夜空の輝ける☆一等星にしてやってから、明けて翌日。

 私の目の前に、青汁がいる。

 

 え、っていうか平気な顔で、よく面出せたな?

 昨日あんなに凹ってお星さまにまでして差し上げたのに。

 この上、私に一体どんな用がおありで……?

 出方を窺う第一歩として、青汁の顔色を確認してみるんだけど……チッ飄々とした顔しやがって。

 無駄にお綺麗に整った顔面は、私を前にしてゆったりと微笑んでいる。あー……これはなんか、見たことある顔だな? 乙女ゲームの、デフォルト立ち絵の顔だ。殴りてぇ。

 そしてその背後に、シトラス先輩。

 なんだ、謝罪か? 謝罪に来たのか? そんな、良いんだぞ? 私は後腐れなく、昨日の百十五発でチャラにしてやるつもりだったんだから。罠の件だけな。

 それとも全く凝りてなくて、謝罪とかそんなん意にも留めずにやって来たのか。

 私がじぃっと見上げる前で、青汁が顔を合わせた私へと、キラリと目を輝かせてぺらぺらどうでも良いことを(のたま)いだした。


「やあやあご機嫌麗しゅう、お嬢さん! 絶好の実験日和、観察日和を迎えて今日という日がやって来た訳だけれどもね! ところでとある筋より聞いたのだがね!? なんでもお嬢さんは子亀をたくさんお持ちだとか! 是非とも君の亀を観察させていただきたい! どうだろう、オレっちに一匹融通してはくれんかね!?」

 

 どうやら、全く凝りていない方だったらしい。

 よーし、いい度胸だ。


 我が家の可愛い亀さんを、一匹融通しろとかよく平然と言えたもんだ。

 つまりアレだな? 昨日の殴り方じゃ、全然足りてなかったって事だな?

 暗におかわりを要求しに来たものと勝手に判断してやんぞ、オラ。

 よりはっきり、簡潔明瞭に言うと——


「昨日のアレで凝りてねぇっつうんなら、今日もどつき回すぞ。この変質者が」

「抑えろミシェル、亀が欲しいと言われただけじゃ罪には問えない!」

「放してくださいまし、オリバー! お前も昨日の青汁がなんてほざいたか聞いてたろ!? 発言繋げて考えろよ、絶対、実験動物扱いだ!!」

「欲しがる用途を明言させるまでは踏みとどまろうか! もしかしたら改心したかもしれないだろう、昨日のミシェルの、あの連撃で!」

「そうだぜミシェル、今の段階じゃ青z……アイビー先輩もただいっぱいいるペットを一匹、譲って欲しいって言っただけだ! マジで可愛がる気かもだろ!? かなり低確率だろうけれども!」


 今にも私が殴りかかりそうとでも思ったのか。

 後ろからオリバーが私を羽交い締めにし、エドガーとマティアスが左右から私の腕を抑え、フランツが私の腰にしがみついている。そしてナイジェル君は日向で本を読んでいた。

 お前ら、うら若き乙女の身体に、よくもそんな遠慮なくしがみつけるな!?

 不満げに唸る私に、何故か焦った感じでフランツが声を上げた。


「青じ……アイビー先輩っ! どうなんすか!? ミシェルの亀が、なんで欲しいんすか!」

「え、それは勿論モルm……ペットとしてだよ! 最近、動物愛護に目覚めたような、そうでもないような心境でね!!」

「よし、有罪(ギルティ)!!」

 

 有罪が確定した瞬間、我が友人達は諦めの顔でパッと私を開放した。君らのそういう、理解度の高さ好きだよ。


 我が家の亀さんを実験台にしようだなんて、許さん!

 そんな気持ちで、青汁の前に立ちはだかる私。

 だけど青汁は、なんだか私の予想した反応とは違った。

 

 目をキラーっと光らせて、ヤツは言った。

 そりゃもう、喜色満面って面で。


「なんと! これは願ってもないねぇ、殴ってくれるのかい!?」

「え」

「昨日のアレコレを受けて、思っていたのだよ! 君の拳は痛すぎると。これはもう、異常なくらいに痛すぎると! だからこそ! 君の拳に宿る精霊力を是非とも測定したいと思っていたのだよ……!!」


 あ、そっちか。


 一瞬、真正のやべぇ奴かと思ってびっくりしたじゃねーか!

 いや、青汁がやべぇ奴な事に変わりはないんだけどな!?

 また別種のヤバさを内包していたのかと、思考が一瞬停止したわ!

 っつうか、人がこれから殴るぞって時に、人のパンチについて測定したいだと? 殴られる事について、嫌がることも無く? なんで殴られると思ってるんだ。舐めてんのか、てめぇは。

 

 青汁が本当に嬉しそうに、楽しそうに言うから。

 私はもう、なんか、滅茶苦茶むかついた。


 素直に殴ってやるのが、癪に障るくらい。


「……よーし、わかった」

「ん?」

「青汁、てめぇのお望み通り、我が家の亀さんに会わせて差し上げようじゃねーの。ただし、やらん。一匹たりとも分けてやらんけどな!」

「おお、会わせてくれるとな! 今はそれで充b……」


 ヤツはまたもやなんかごちゃごちゃ言おうとしていたけれども。

 私はその発言をぶった切るように、遮るように。

 懐から取り出した笛を、力いっぱい吹いていた。


「な、アレは亀臭い笛……!?」

「お待ちなさい、オリバー! 例の笛とはデザインが微妙に異なりますわ!?」

「そう言えば新しい笛を貰ったとか言ってたな」


 私が危機に陥った時、悠長に笛なんぞ吹けないかもしれない。

 だから最初に貰った笛は、前と変わらずなんかサブマリンが私の周囲に配置しているらしい、見守り担当の子亀がいざって時に使うように渡している。

 私自身はサブマリンに新しい笛を貰ったので、亀臭くなる前に回収していた訳だけれども。

 

 まさか最初の使用が、こんな場面になろうとは。


 私は笛を吹いた。

 一回、二回、三回と。


 空の彼方から、飛来する気配を感じる。


 一回吹けば、サブマリン。

 二回吹けば、サブマリンの嫁……パライバトルマリン、略して嫁マリン。

 三回吹けば、その時手が空いていて出動可能な子サブマリン。


 それがやってくる事になっているんだけれども。

 凄いな、空の一角が空飛ぶ亀さんで占拠されたぞ?


 異様な光景に、学園のあちこちがざわざわしている。

 本格的な騒ぎになる前に、片を付けよう。

 とりあえず破壊光線は、青汁が木っ端みじんになる可能性があるので……


「我が家の亀さん達に告ぐ! 総員、あの薄ら笑い浮かべた片眼鏡(モノクル)野郎に甲羅で体当たりだ! 突撃ー!!」


 青汁に一撃ぶち当てた亀さんから、お家に帰宅して良し!


「え、ちょ、待って……!? お嬢さんのパンチ測定の道具しか今、持ってない! 亀の攻撃については想定外ー!! ちょっと待って、測定器を取り換えっ」

「そんな猶予を許すかよ!! 第一波、行け!」

「「「――――!!」」」


 そして亀達による、体当たりオンリーの波状攻撃が始まった。

 成仏しろ、青汁。


 しかし、どうしてだろうか。

 前世の『乙女ゲーム』では、青汁ってもうちょーっとマイルドなキャラだった気がするんだが。

 少なくとも、ここまでキてなかったような……アレか? 私達がヒロインじゃないからか? 相手が違うから、単純に見せる側面が違うってだけか?

 なんとなく釈然としないモノを感じつつ、まあ、奇天烈な分には攻撃するのに胸が欠片も痛まないからいっかぁ!! という結論に達した。際どい方向に乙女ゲームとは差異があったが、これでゲームのキャラよりまともな人間として現実に降臨していたら、殴るのもちょっとは躊躇しちゃったかもしれないからな!

 少なくとも私の亀を実験の餌食にしようと狙ってくる分には、殴るにも一切の情けをかけずに思いっきりやれるので。

 

「っつうか、誰だよ。うちにサブマリンの子亀達が沢山いるなんて情報漏らしたヤツ」

「それについては、弁明させていただきたいのだが……」

「うん? あ、シトラス先輩。ごきげんよう?」

「うん、御機嫌よう。それで子亀の情報なのだが、ソルフェリノ殿下がな」

「桃介か。後で殴っておこう」

「いやいや、だからな? そうではなく、ソルフェリノ殿下はうちの殿下を諫めようとなさったんだ。その、物言いが酷かったので伝えづらいんだが、曰く『あの女は化物だけど、亀も大概化物だから。しかもそのミニマム版がうじゃうじゃいるって話だよ? 手を出さない方が賢い選択だと思うけど? 身の程を知るのも大事だと思うよ』——と」

「それは諫めるというより、煽ってるように聞こえますわね。私と青汁、それぞれを」

「ソルフェリノ殿下は……素直な時は、皮肉めいた物言いをなさる方だからな」


 というか、桃介の野郎ってば猫被りの癖に、緑の主従の前じゃ猫を剥ぐのか。

 ……いや、アレだな、きっと。青汁の勢いやら奇行を目のあたりにしたら、猫を被っていられる感じじゃなくなって、そのまま済し崩しに……とかそんな感じだろう。多分。

 なんとなく、その場面が目に浮かぶようだ。

 

 私がそんなことを考えている横で、シトラス先輩が妙に真剣な顔をしている。

 緊迫した雰囲気すら、伝播してくるほど。

 なんだ、亀さん波状攻撃(体当たり編)には、流石に物申したいのか?

 でも止めなかったよな、この護衛。


 今も、離れたところで。

 青汁が子亀達の体当たりで錐揉み回転している。

 アレで懲りねぇんだろうなー……すげぇよな、青汁の根性。

 あまりの錐揉み具合に、オリバーとエドガーがそれぞれ別の方向へ駆け去って行く。

 あれは桃介でも探しに行ったな? 人数がいると思ったのか、フランツとマティアスも動員するようだ。なお、ナイジェル君は日向で『呪殺』って文字が表紙にチラ見えする本を読んでいる。ナニその本、後で貸してもらおうかな。

 

 青汁への攻撃を亀さん達に任せたので、正直に言うと私はちょっと手持無沙汰だった。

 一応、青汁が亀さん達に妙な真似をしでかさないか、目を離さず見ている必要はあるんだけれども。

 自分が攻撃せず、誰かに任せっぱなしっていうのも、ちょっと落ち着かないんだね。

 真剣な顔でこちらを見てくるのに、なかなか話を切り出さないシトラス先輩。

 何も言ってこないので、私はぼーっと縦回転して吹っ飛ぶ青汁を見ていた。


 だけどようよう、シトラス先輩も腹をくくった様子で。

 硬い声で、私に問いかけてきた。

 ちょっと意味の分からない問を。


「――君は、何者だ?」

「本校の魔法騎士コース一年、ミシェル・グロリアスですが」

「いやそういう意味ではなく」


 じゃあどういう意味だよ。

 何者って問がそもそも漠然としすぎだろ。

 そんな聞き方されても、所属と名前以外に何を言えと?

 

 胡乱な目で見てやると、シトラス先輩の眉間に皺が刻まれる。


「聞き方を変えよう。君の存在は、どう考えてもイレギュラーだ。あの『ゲーム』に、君みたいに存在感がデカくて灰汁の強い『キャラ』はいなかったはずなんだ」

「え、灰汁の強いって酷……」

「そこに反応してほしかった訳じゃないんだが……はぐらかしているのか? それとも本当にわからないのか。『ゲーム』と、『キャラ』。この単語に思い当るものがあるんじゃないのか。もしくは『前世の記憶』と言った方がわかるか?」

「先輩、真顔で何を仰いますの? その……発言が、頭が痛い人に聞こえますわよ」

「中二病じゃないからな!? 君の発言はそもそも色々おかしいんだ、青汁とか、桃介とか、どう考えても『日本人』の発想だろ単語のチョイスが——っ!! というか言おう言おうと思っていたけれども、なんでうちの殿下を青汁呼び!?」

「だって葉緑素がたっぷり詰まっていそうな色をしているんですもの。髪が」

「ほら、そこ! ほらぁ!! 葉緑素ってこっちの世界じゃまだ認知されてないからな!?」

「ミドリムシでもよろしくてよ」

「顕微鏡で見なくちゃわからん微生物——!!」

 

 とりあえず、シトラス先輩の発言に思ったまま、素直に返しているだけなんだが。

 シトラス先輩は、はぐらかしていると感じたらしく。

 業を煮やした感じに、こう言った。


「俺の前世の名前は『阿久比(あぐい) (のぞむ)』。君にも前世の記憶があるんじゃないか? 君の前世の名前は?」

「『水森 栄』ですが」

「そこは素直に答えるのかよ!」

 

 本当に、具体的な問いかけをいただいたので、ご返答しただけなんだけれども。

 何故かシトラス先輩は疲れ果てた様子で、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。



フランツが「アイビー先輩」と青汁に叫んだ瞬間。

ナイジェル君の鞄から、「呼んだ?」と小聖獣(アイビー)が顔を出した。

そしてすかさず、本を読みながらナイジェル君が鞄に詰め戻していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後ろからオリバーが私を羽交い締めにし、 エドガーとマティアスが左右から私の腕を抑え、 フランツが私の腰にしがみついている。 女一人抑えるためだけに男四人居るって大概やな。 流石、攻略キ…
[一言] これでついに恋愛フラグが!?………たたないよねぇ
[一言] あれ?じゃ先輩がナイジェルくん(使い魔含む)をみたらヒロインと勘違いしてラブロマンスが始まったり……しなさそうだなー……
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