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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
山だ! 悪魔だ! 聖獣だ!?
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それぞれの使い魔……?



「まさかナイジェル君が最後に残ろうとは……」

「予想していませんでしたけれど、こうなるとナニが出てくるか……空恐ろしいものがありますわね」

「ええ、聖獣様曰く、本人と相性のいい魔物か幻獣が出てくるという触れ込みですもの」


 最後に残ったナイジェル君。

 そんな彼を後目に、魔法騎士コースの一年三人で仲良く肩を寄せ合いでこそこそ。ひそひそ。畏れ混じりにナイジェル君を見ていた。

 小柄なのに、なんか今は巨人並の存在感があるわー。

 そんな私達の大トリに対するちょっとズレた注目の仕方に、ナイジェル君との接点が薄い王子共は困惑気味だ。いや、一度ナイジェル君の一端に触れた……触れさせられたことのある黄三郎は微妙そうな顔をしておったが。


「なに? あの一年、何かあるの?」

「世の中、関わらずに済むならそれで良いこともあるんだよ……」

「な、なんだシャルトリューズ。その濁って曇った眼差しはっ? 一体ナニを見たと言うんだ」

「だから関わらない方が良いんだってば、ディース」


 途中から、なんか王子共の注意が黄三郎に向いていたけれども。


「好き勝手な言い草だね」


 肩をひょいっと竦めてみせる、黄三郎に幼少からのお漏らしネタ暴露というトラウマ攻撃で、かつてヤツの精神面(メンタル)にクリティカル攻撃を命中させたナイジェル君十五歳。

 彼が他国の王族の、プライベート極まりないネタをどこから入手したのか……今持って謎である。


『小さな人の子よ。最後は貴方ですね』

「あ、人のこと小さいとか言うと相手によっては失礼だよ。僕にとっては単なる事実だけど」

「ナイジェル君!」

「あと、人間の呼称が一律『人の子』って安易過ぎない? 老いも若きも人の子って呼ぶからややこしいんだけど。誰を指していってるのか、文脈と視線からこっちで勝手に読み取れってこと?」

「ナイジェル君……!!」

「なに、オリバー? やけに必死な顔して」

「相手は聖獣……! 聖なる獣! もうちょっと、口を慎もう!?」

「僕、相手によって態度は変えない主義なんだよね。明らかな損得が絡む時以外は」

「その主義は立派だ。主義自体は立派なんだ、が……!」

「じゃあ問題ないね」

「問題だらけなんだよ……! わかってて言ってるだろ? わかってるだろナイジェル君も!」


 おお、おお、凄い凄い。

 いつもはナイジェル君のすることに、オリバーもあそこまで滾々とは言わない。だってナイジェル君がわかってないはずないから。そう、彼はわかって気にせずやっちゃってるタイプだ。

 だけど相対するのが聖獣ともなると、流石に黙っていられないらしい。頑張るなぁ、オリバー。来期の学級委員には、ヤツを推薦しておこう。今の学級委員(眼鏡)が来期は絶対にやらないって言ってたから良いだろう。


 なお、一連のやり取りでは結局オリバーがナイジェル君に競り負けた。

 自分の前に出てきて以降の流れを見ていて、何故かゴ·リラ様が感心している。


『随分と、自分に素直な方ですね』


 その意見には、異論を差し挟む余地もない。


『よろしければ、貴方のような方に是非とも紹介したい者がいるのですが』

「詐欺の前フリみたいな口上だね」

「ナイジェル君っ 本当にもう、ちょっとは控えよう? なっ?」

「僕の方としては折角紹介してくれるっていうのに善意を無下にして心苦しいんだけどね。実は使い魔の紹介をお断りさせてもらおうと思ってるんだけど」

「えっ!?」

『なんと……』

「敢えてわざわざ他人に紹介されるまでもないよ。自分の使い魔にする魔物はもう捕まえてあるから」


 心苦しいと言いつつ、全くそんなことはなさそうな顔で。

 飄々とナイジェル君が掲げた右手。

 そこには力なく、だら~んぷら~んとぶら下がる暗褐色のナニか。

 どことなく小さな人型にも見えるけど、太い尻尾を有している。

 陽の光に、ぬめりと体表が光って見える、それは。


「山椒魚……!? それも、オオサンショウウオだと!?」


 あの姿、前世で見たことあるー。

 日本の絶滅危惧種か何かを紹介する動物番組で、見たことあるわー。


 オオサンショウウオ(それ)そのものにしか見えないナマモノが、首元を鷲掴みにされる形でナイジェル君の手からぶら下がっている。え? ちょ、それ首しまってない? ナイジェル君、持ち方持ち方! それイキモノの持ち方じゃないよ!

 オオサンショウウオは時折うごうごと身をくねらせるものの、基本的にぐったりしている。


「ナイジェル君、それなんなんだ?」

「ミシェルが言っていたでしょ? オオサンショウウオだけど」

「やたらとぐったりしているが……生きてる?」

「生きてるよ。そもそも魔物だよ? ちょっとくらい乱暴に扱っても死にはしないよ」

「首を掴んで宙吊りにするのは大体のイキモノにとって『ちょっとくらい』じゃないからな?」

「犬とか猫とか、親が子を運ぶ時って首を噛んでぶら下げるよね」

「アレとナイジェル君のそれは似て非なるモノだからな!? 全然違うからな!」


 イキモノの扱いとしてあまりにもツッコミどころがあったせいか、オリバーが再び顔を引き攣らせてナイジェル君にあわあわと言い募っている。そして私もオリバーに同感だ。

 そう言えばナイジェル君の家って、ペットとかいないもんなぁ。昔から。

 アレが生物と接する機会なく育った、扱い下手の典型だろうか。


 一体いつの間にナイジェル君がオオサンショウウオをゲットしていたのか。

 話を聞いてみると、どうやら桃介に滝行させるべく滝壺にぶっ込んだあたりで生け捕りにしたらしい。ナイジェル君が何をしているのかとか、そういえばあまり気にしていなかったけど手早く見つけて捕獲していたようだ。というかナイジェル君が、わざわざ、そんなアグレッシブに捕まえにかかるなんて。ゴ・リラ様の紹介を断っちゃうくらい、山椒魚が気に入ったの?


「ナイジェル君、そんなにオオサンショウウオが良いの?」

「ミシェル、知ってる?」

「……ん?」

「オオサンショウウオってね、とある界隈では珍味として有名なんだよ。それに貴重な薬の原料にもなるらしい」

「んん?」

「珍重なイキモノって、良いよね。それだけで価値が跳ね上がる」


 ナイジェル君のいつもは落ち着き払った瞳。

 今、私はその瞳の奥にキラキラした光を見出した気がした。

 光の加減とかじゃない……アレは、金貨の輝きだ。


「ナイジェル君、それ絶対に使い魔の用法として正しくありませんわよ!?」


 私と同じく、金貨の輝きをナイジェル君の眼差しの奥に幻視したのか。

 ついにエドガーまで耐えきれないといった様子でナイジェル君に詰め寄り始める。

 オリバーと二人がかりで、ナイジェル君を左右から挟み込むような構図だ。


「というかそれ、使い魔といって良いのか!? 意図的に使い魔を害すような使い方を考えてないか、なあ!?」

「使い魔との関係は人それぞれだって先生が言ってたよ」

「使い魔という名称からして正しくないからな!? 本当にそれ、ただの生け捕りじゃないか! しかも利用価値が下がるから生かしているだけだろう!?」

「絶対に素材として使う……売りさばくつもりですわよね、ナイジェル君!」

「あ、そっか。私、わかったよナイジェル君。この山って学園管理だけど国有地だもんね。使い魔の取得って理由で探索が許可されてるだけだから、イキモノは『使い魔』って名目がないと持って帰れないんだ」

「その通りだよ。わかってるね、ミシェル」

「わかっちゃ駄目ですわよ!! ナイジェル君、なんて邪道な活用法を実行しようとしていますの!? 使い魔取得実習の機会を設けて下さった先生方にも顔向けできませんわよ!」

「ナイジェル君が意欲的にこの手の実習に参加する、という時点で若干の違和感はあったんだ……あったんだが、そんな目的で参加していたのか……!」


 エドガーとオリバーが二人がかりで言い聞かせるものの、ナイジェル君は凪いだ表情で聞き流している。平然と、背負ったリュックにいつの間にか括り付けられていた……アレは魚籠? なんかそんな感じの捕獲籠にオオサンショウウオをぐいぐいと詰め込んでいる。扱いが完全に『釣果』なんんだけど。

 ぎゃいぎゃいナイジェル君の(よこしま)な実習参加目的に言い募る野郎二人。

 騒がしい彼らを、王子達もドン引きの顔で見ている。流石に彼らにとっても、ナイジェル君の実習参加目的はアレだったのだろう。

 一方、自分の守護する山にそんな目的に分け入られた挙句、そんな目的を優先する為に使い魔の斡旋を断られたゴ・リラ様は。


『……』


 凪いだ眼差しをしている。

 アレは一体どんな感情だ……?

 正負どちらの感情があるのかもわからない。

 しかしどうやら、体面を気にする我々人間とは違うようで。

 物理的にも心理的にもおおらかな聖獣様は、ナイジェル君の失礼極まりない言動への怒りを示さなかった。

 むしろ、ぐいぐいと迫ってきた。

 使い魔の斡旋を。


『先程から貴方を見ていて、ますます確信しました。やはり、貴方にこそ、()を任せる資格がある』

「刺客?」

「いや、ミシェル……? 資格だよ、資格」


 持って回った仰々しい物言いに、なんだなんだと私達の注意がゴ・リラ様に殺到する。

 集まる視線をものともせず、聖獣様はナイジェル君へ向かって、そっと差し出した。


 びくびくと怯える、小聖獣を。


「……」

『……』


 両者見合って、一言も話さない。

 おい、小聖獣の尻尾、股の間に入り込んでんぞ。


 どういう意図があって、何がどうして、小聖獣をおススメしてくるのか。

 さっきからのナイジェル君の言動は、中々に酷かったと思う。私は気にしないけど。だってそれがナイジェル君だし。

 だけどそれでどうして、ゴ・リラ様がナイジェル君にこそ(・・・・・・・・・)なんて言って小聖獣を託そうとするのか。

 確かそいつ、地上に顕現したばかりでまだ未熟。

 ゴ・リラ様の下に師事して修行中の身じゃん?

 『乙女ゲーム』では主人公(ヒロイン)の心根を気に入って、修行の一環としてその使い魔になる——って展開だったけれども。


 ……ん? そういえば確か、ゲームではチラッと『聖獣を使い魔にするには資格がいる』って言ってたな。割とありがちな、主人公に特別感を持たせる系の理由付けだと思ってたけども。

 確か聖獣を使い魔にする条件が……


 ……………………『純粋で、裏表のない素直な心の持ち主である事』。


 おい、聖獣。


 どういうことだと、流石にこれは喉元まで詰め寄って揺さぶりたい衝動にかられた。




『純粋で裏表のない素直な心』……疑問しかないその意味については、次回にて!


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― 新着の感想 ―
[一言] >  ……………………『純粋で、裏表のない素直な心の持ち主である事』。  ……。(目が虚ろ)
[一言] ナイジェル君が……ヒロインだった!?
[一言] まあ、言葉の意味としては、間違ってはいない 間違っては、いないんだけど… (ó﹏ò)
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