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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
山だ! 悪魔だ! 聖獣だ!?
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それぞれの使い魔2



 オリバーが海月に絡まれて、ぐったりする様を見て。

 誰からともなく、固唾を呑む音。

 どうやら初っ端でオリバーが見舞われた使い魔との触れ合いに、班員達は妙な覚悟を決める必要に迫られたらしい。

 次は誰が行く、と無言の牽制の結果、弾き出されたのは黃三郎だった。

 ……王子が競り負けるなよ。いや、エドガーもナイジェル君も言い様のない圧があるけどさぁ。


「よ、よろしくお願いします!」


 そして騎士の国で礼儀を叩き込まれた黄三郎の、直角お辞儀。

 黄三郎の礼に対し、鷹揚に頷いて返すゴ・リラ様。

 相対する人が違うだけで、随分と態度も差が出るなぁ……と、そんなことを横目にチラリとサブマリンを見つつ、私は思った。

 

 相性が良いのか、黄三郎とゴ・リラ様のやり取りは穏やかに進む。

 若干、黄三郎がビビっている節はある。

 だけどそれを内に押し込めて、表面上は穏やかに振る舞える程度に黄三郎は大人らしい。

 大人っていうか、ハプニング耐性の賜物のような気もしなくはないが。

 しかしそうやって平常心で臨めるかどうかって、割と大事かもしれない。

 その平常心の勝利、だろうか。


 結論から言うと、黄三郎が得た使い魔はそう悪くはなさそうだった。

 海月にもぎゅもぎゅされるのに比べたら。


 黄三郎がゲットしたのは、黄色いヒヨコだった。


 お前……こんな場面でまで、得るのはヒヨコとか。

 役に立つのかわからない使い魔の降臨である。

 班員達の顔が、更に引き攣るのが見て取れた。

 でも黄三郎的には悪くなかったらしい。

 そう、海月にもぐっとされるのに比べれば。


「親鳥から引き離すのは心苦しいけど……雛鳥なら、これから育てれば良いしね。伸びしろしかないよ。もしかしたら成鳥になれば強いかもしれないし?」


 黄三郎……こういう時はめっちゃポジティブだな。

 災難馴れしているせいか、大体の事に対する期待値は低めのようだ。

 それが何か起きた際の心の防御線になってんだろうなぁ。

 

 黄三郎は嬉しそうな笑みで、地面からぴよぴよぴよぴよと自分を見上げてくるヒヨコに手を伸ばし。


 そして感電した。


「!!???」


 びりっとな。

 

 ヒヨコの和毛に触れた瞬間、明らかにビリビリきている。

 バチッて音がして、黄三郎の全身がびくりと震えた。


『その鳥は雷鳴鳥という鳥の雛ですね。雛の時は森で暮らし、成鳥となれば自在に雷を操り、雷雲に紛れて狩りをします。雛の頃も防衛手段として微弱な雷を操りますが、成鳥までは調節が上手くいかず常に電気を帯びる性質が……』


 ゴ・リラ様、それ早く言ってやって。


 なお、雷鳴鳥とやらの雛は見た目完全にヒヨコって感じだけど、現時点で抱き人形くらいのサイズがあった。全長、三十㎝くらい? お手軽サイズのテディベアくらいかな。

 雛でコレ。

 成鳥、サイズどんだけだよ。

 それが雷雲に紛れて空を飛んでいるとか、私が知らないだけで世界は神秘に満ちてんなぁ。


「……雷の気を通さない衣類なり何か用意してもらうまで、抱き上げるのは諦めるとするよ。雛鳥の体力的に申し訳ないけど、彼には自力で移動してもらおう」


 感電した体をなんとか回復させて、黄三郎は強張った顔でそう宣った。

 わざわざ抱っこせんでも、台車かなんかで運べば良くない?

 ……ああ、金属製品はダメなのか?

 運ぶだけで、色々と気を遣いそうな雛鳥ですな。


 するとその他様……いや、あの精霊様はもう黄三郎を選んだんだ。

 私がつけた仮の名で呼ぶのは失礼ですわね。

 黄三郎と一緒にいる黄色い精霊様が、ぽわっと光る。


 どうやら雛鳥の周囲に、布一枚程度の厚みの、風の膜みたいなものを作ったらしい。

 ああ、直接触るとマズいから?

 今なら触れても大丈夫だとゴ・リラ様に促され、恐る恐ると抱き上げる黄三郎。

 その腰は、どうみても本気で引けていた。

 

 黄三郎の使い魔となった、幼い雷鳴鳥。

 性別は雌だそうで、黄三郎から『ルーシー』と名付けられていた。 


 あ、ちなみにクラゲはオリバーによって投げやりに『ジェリー』って名付けられてたよ。

 性別不明な為、地味に名づけに頭を悩ませた結果の命名である。


 こうして私を除外した班員六名の内、オリバーと黄三郎の二人が使い魔をゲットした。

 残りはエドガー・ナイジェル君・青次郎・桃介の四人。

 面子の三分の一が現時点で役に立つのかよくわからん使い魔と遭遇している。

 慎重になろうが何だろうが、ゴ・リラ様の仲介では避けようもない。

 何しろ、個人の相性優先で召喚しているっつってるし。


 自分と相性がいいって言われて呼ばれるイキモノが微妙だと、困惑も一入(ひとしお)だよな。


 さて、黄三郎の次にこの試練に挑戦する羽目となったのは、エドガーだ。

 どうやら青次郎がぷるぷる震えて精神的に追い詰められてそうなのを目に留めて、青次郎への同情から自分が先に挑戦する事にしたらしい。

 多分いくら待っても青次郎が覚悟を決めるのは大分先だろうから、挑戦先延ばしにしてやってもあまり効果はないと思うけども。


 ゴ・リラ様の目の前に立つ、エドガー。

 こうして対比するとやっぱゴ・リラ様のが大きいけど、エドガーもまた背が伸びたんじゃないかしら。前々から私よりずっと背が高いんで、どんだけ伸びたとかよくわからないけど。

 今、百八十㎝近くあるんじゃない? 少なくとも百七十㎝は越してると思う。

 まだ十五歳なのに、やっぱり大きいよね?

 現時点でこれなら、最終フェーズはどんだけデカくなるんだろうか。


 立派な体格のエドガー。

 そんな彼を見て取り、ゴ・リラ様は一つ頷いて。

 エドガーと相性ピッタリな使い魔とやらを召喚する。


「あら、可愛らしい!!」


 その姿を見て、エドガーは喜色を浮かべた。一瞬。

 そう、一瞬な。


 出てきたのは、それこそ抱き人形サイズの熊だった。

 コロンとした丸みのあるフォルムは、確かにそれだけで可愛いね?

 でも野生の熊って、やっぱワイルドな獣みあると思うんだよ。

 そこはぬいぐるみみたいにいかないのが、実際ってヤツだと思う。


 そう、サイズはテディベアでも……熊だからってビジュアルまでテディベアな訳じゃない。


 まあ、イキモノとぬいぐるみって相違があるし、当然だよね。

 テディベアはただでさえ、愛らしさ極振りでデフォルメされたデザインだし。


 抱き人形サイズの、のっそりとした。

 ワイルドな顔つきの、超小型灰色熊(グリズリー)

 ついでに顔には、額から左目を遮って頬にまで到達するような、立派な向こう傷。

 相手は熊だけど、こう、なんていうか。

 ヤクザ映画に出てくる、兄貴感がある。

 ドスとか持たせたら超似合いそう。そして凶悪さが増すだろう。

 私、この熊のこと今後は『若頭』って呼ぼ。そうしよう。


 しかし、不思議だね。

 サイズはともかく、ごつくてワイルドな小型熊。

 それと一緒に佇むエドガー。

 ……外見上はごつくてワイルドな者同士、不思議としっくりくるような。

 女子力の高いエドガーだけど、こうやって客観的に見るとそう言えばごついんだったな。


「……この子、わたくしの外見で選んだ訳じゃありませんわよね?」


 懐疑的な色を乗せて呟くエドガー。

 私も同じこと思いましたわよ!


 外見は凶悪だけど、小型熊は割と大人しい……いや、大人しいって言うのとは少し違うな。場を弁えている感じ? なんか大人しいっていうより『大人の渋み』を纏って佇んでいる。

 なんか背中に哀愁があるんだよなぁ……二本足で立ってるし。

 煙草とか持たせたらめっちゃ似合いそう。

 

「………………少なくとも、状況を読めずに暴れ出すような子ではなさそうですわね」

「エドガー、この熊さんを『この子』って表現できるのは君だけじゃないかしら」

「ああ、そうですわね。使い魔契約ですもの。お名前を決めて差し上げなくては」

「エドガー、私が言いたかったのは、ちょっとそういう感じじゃない」

「お名前、お名前……それじゃあ『セオドア』にしようかしら」

「つまり『テディ』ですの?」


 あの熊を『テディベア』と呼称するのは、中々抵抗があるんだが……。

 だけど主になるエドガー本人がそれで、というなら致し方あるまい。

 『若頭』の方がずっと、それっぽいと思うんだけど。まあ、それは私の意見だし。


 エドガーは若頭に声をかけて、そっと触れ……ようとして、手を叩き落とされている。 

 どうやら無用なお触りは厳禁らしい。

 小型熊は一言も鳴いてないけど、副音声で「気安く触れるな」って聞こえた気がした。

 鋭い爪を使ってザシュッてやんないだけ、まだ受け入れている方なのかしら。


 こうして、新たに使い魔の三体が私達の一行に加わった。

 ちなみに精霊様達に属性診断をしてもらったところ、結果は下記の通り。

 

 海月のジェリー⇒属性:風・雷

 お前、水属性じゃねーのかよ。


 雷鳴鳥のルーシー⇒属性:雷・天

 『天』って属性初めて聞いたんですけど、どんな属性?

 精霊様達に聞いたけど要領を得なかったので、詳細は不明……でも『天候』とかそんな感じの分類らしい。なにそれ、めっちゃ強そう。


 灰色熊のセオドア⇒属性:土

 むしろこの外見で水とか使いだしたら、そっちの方がおかしいので納得した。

 エドガーは水属性が得意だった気がするけど、相性とは一体。

 まあ、主人とは別の属性が得意って方が戦術幅が出来て良いよね!


 なお、海月が雷属性とか言いだすんで確認したら、案の定。

 こいつ、電気海月だった……オリバー、頑張れ!

 ……もぎゅっとやられた拍子にビリッとされないことを祈るばかりである。


 さて、班員も三名が使い魔を手に入れた。

 残りは半分……誰がどんな使い魔を引くのか。

 ゴ・リラ様の斡旋開始前よりも、博打感をより強く感じる。

 若干名腰が引けてるし、遠慮したそうな顔をしているが……まあ、折角の機会だし!

 もしかしたら、とてもいい使い魔に当たるかもしれないし?

 頑張って試練を受けてくれ。


 最初っから除外されていて、私はある意味で気楽な立場だ。

 だからもう見物感覚の他人事全開で班員達を見守るのだった。




 

 

オリバー⇒ジェリーフィッシュ的なナニか。

黄三郎 ⇒サンダーバード

エドガー⇒森のくまさん

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― 新着の感想 ―
[一言] 森のくまさん、賛美歌13番をリクエストしたくなる系なんですねーw 後ろに立ったり右手をポケットに入れたりしたら襲われそうwww 葉巻とか似合いそうだなー。
[一言] 斡旋開始時より覚悟が必要でワロタ( つ'ワ'C) こういう奴は早めに行ったほうが気が楽なんだよねぇ〜
[一言] ミシェル:こいつらならい(らな)いや って思ってそう。
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