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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
山だ! 悪魔だ! 聖獣だ!?
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躾は飼い主の責任です。



 なんか、ヤバ気。


 この場の雰囲気を言い表すなら、その一言だ。

 だってサブマリンを見なよ。

 空なんて飛んじゃってるんだけどさ、アイツの目のあたり……チュインチュインって不気味な音を立てて、光が集束している。徐々に光が、大きくなる。

 そしてサブマリンの目線は、何故か真っすぐ私の側の青びょうたん、もとい青次郎に注がれていた。そりゃもう、ガン見としか言いようがないくらいに。

 こりゃ、マズイ。

 流石にヤバいなって私は思った。だってもしサブマリンが青次郎相手に傷害とか……あいつ、加減とかしそうにないし。取り返しのつかない大怪我、とか。下手したら死、とか。

 そんなことになったら、飼い主である私や養っている我がグロリアス子爵家の責任になるよね。間違いなく。ペットが事故って大怪我させるのは、授業の一環(に、かこつけて)でボコって医務室送りにするのとは事情が変わる。

 授業の一環なら怪我をさせても不可抗力だが、ペットが怪我をさせたらそれは単に躾ができてないだけだ!

 え、王子相手に慰謝料とか払い切れる気がしないんだが。治療費とか、うちの父が治療したらまけてくれるかな。まけてくれない、だろうなぁ……。


 だから私は、サブマリンの暴挙を防がねばなるまい。

 それが飼い主の責任ってヤツだもの!


 サブマリンの噛みつきっぷりを目の当たりにした時、上のお兄様が言ったんだ。

 ペットが誰かを傷つけたら、それは飼い主の責任になる。だからミシェルは、サブマリンが誰かを傷つけたりしないように気を配ってあげるんだよって。そうじゃないと飼っちゃ駄目って。

 私がサブマリンを拾ったっていう時の記憶はないけど、私の両肩に手を置いて真剣な顔で言い含めてきたお兄様のお顔は覚えている。普段はお優しくって優柔不断気味なお兄様が、断固とした態度で厳しい物言いをしていたから、幼い私にとっては余程印象に残ったんだろう。

 お兄様、私、お兄様とのお約束は守ります!

 何しろ普段から苦労かけてるし、こんな時くらいはね。それにサブマリンが他国の王子に洒落にならねえ怪我を負わせたとかなったら、今度こそ長兄の胃が心労で駄目になりかねん。

 サブマリンは、今にも青次郎を殺しそうな目つきをしている。

 私はじぃっと目を凝らして、一瞬たりとも兆候を見逃すことのないよう務めた。

 その間、青次郎は私に顔面掴まれたまま、涙目になっていた。

 あ、ホイッスル。青次郎の口に突っ込んだままだわ。

 すまんな、亀臭かろう。だけど不用意に動きを見せて、サブマリンを刺激する訳にはいかんのだ。


 そして、光が弾けた。


 相手は光、まさにそれ相応の速度で走る。

 私は孔雀明王様の助力(※身体強化)全開で、即座に動いた。

 青次郎の片腕を引っ張り、体勢を崩したところで肩に担ぎ上げる。

 その勢いのまま、倒れ込むような前傾姿勢で横っ飛び!


 サブマリンの目から放たれたビーム的な怪光線は、空を切り裂いて青次郎のいた場所へ迫る。


 だけど聖獣(小)の結界に阻まれ、減衰。

 威力と速度を弱め、結界の光壁とせめぎ合って。

 じりじりと音を立てながらも……間を置いて、光壁を貫通した。


『いぃやぁぁああああああっ!! こわいこわいこわい! 何あの威力! 張った結界破られたんだけどぉ!?』

 

 聖獣(小)様、涙目で絶叫。


 一方、光壁に阻まれている間に、青次郎は私に身体を搔っ攫われて移動している。

 時間稼ぎ御苦労、聖獣(小)の結界!

 光は、誰もいない場所の地面に二つの穴を空けた。

 ……穴の淵が、溶けとる。

 これは当たったら、マジで洒落にならんな。

 

 一方、お空の上では。 

 唐突にサブマリンが地上の人の子……青次郎を狙い撃ちしたことで、温厚で人に友好的なゴ・リラ様が静かにぶち切れていた。


『暴虐の王よ——貴方は、もっと誇り高く、そのような亀ではないと思っていましたのに……自分より遥かにか弱い、この場で二人目にか弱い人の子を狙うなど! どのような料簡かは知りませんが、我が目の前での暴挙……許せるものではない!』

 

 炸裂する、ゴ・リラ様の怒り!

 背後に背負う元●玉的な大きな光から、サブマリンに向けて光の束が放たれる。

 それを迎え撃つサブマリン!

 そして放置され気味で置いて行かれた感満載に戸惑う様子を見せる蟹!


「青次郎、この場で二番目にか弱いって聖獣様に思われてますわよ」

「それより、今すぐ下ろせ」


 下ろせと言われてもな……この後衛職らしく鈍臭そうな青次郎を放流して、またサブマリンに狙われた時に自力で回避できる気がしないんだよなぁ。仕方がないから無視しよう。私が担いでないと、サブマリンが傷害の罪を背負ってしまう。それを未然に防いでこそ、飼い主の責任なんで。

 なんか青次郎がじたばたしていたが、知った事じゃない。

 青次郎程度の抵抗なんぞ、大したものじゃないしな。

 まあ、私より手足も体も長いし大きいしで、嵩張る分ちょっと邪魔いけど。

 しかし、このままじゃジリ貧だ。

 空を縦横無尽に移動しながら、ゴ・リラ様や蟹の攻撃をかわしながらもサブマリンはこっちを狙い撃ちし放題の状態で。こちら側は青次郎という、狙い撃ちされまくりな荷物を抱えて逃げ回るだけとか。

 荷物(あおじろう)がすっげぇ鈍臭い分、いつ当たってもおかしくない。

 だけど青次郎がサブマリンの攻撃に当たる=賠償責任問題である。

 私っていうかグロリアス子爵家っていうかの進退が窮まる。そうなったら流石に普段から心労与えまくりな父や兄に合わす顔がない。お姉様方からも、笑顔で滾々と叱られる未来しか見えない。そんな未来、嫌だ。回避だ回避!

 そうだ。そもそも、なんでサブマリンは青次郎なんて狙うんだ。こんなに手応えなさそうな物理的弱者なのに。常に大物狙いで獲物に食らいつくサブマリンらしからぬ人選じゃないか。

 そもそも見知らぬ人にいきなり攻撃を加える時点で、ペットとしてはアウトだ。私の躾が行き渡ってないってことじゃん。特に躾をした覚えはないけど。躾をした覚えはないが、サブマリンは妙に賢い亀だった。面と向かって一回口で言えば、言葉理解してんの?ってレベルでいう事聞いてくれてたのに。

 それがここにきて、この暴挙。

 あ、なんか腹が立ってきた。


 そうよね。うん、そうよ。

 さっきから、私はしきりと『飼い主の責任』について考えている。


 だけどさ、飼い主の責任って言うんなら……悪さしたペットを、時に拳で従わせるのもまた、飼い主の責任よね。


 そう……私は殴りに行かねばならない。

 あの空の上、ビュンビュン高速で飛び回る、我が家の庭池の主たる亀さんを。

 そして青次郎に攻撃してくるのを止めさせないと。


 でも、相手は空の上。

 空を飛べない矮小な人間たる私が、どうやって殴りに行けるだろうか。


 考えても、答えなんぞ出ない。

 そんな時は、アレだ。私の指導者……師父に相談だ!

 私は青次郎を抱えたまま、聖獣(小)の結界からひょっこりと半分はみ出てみた。

 背後でなんか複数名の、危ないから戻れ戻れっていう悲鳴が聞こえた気がするけど気のせいだろう。うん、気のせいって事にしておきたい。


「ミシェル! 何をやってるんだ、危ないだろう! 今お前達、あの亀に狙われてるんだぞ!?」

「ええい、お離しオリバー! 身体引っ張らないで! そんなもん言われなくともわかっとるわ! わかってるから、師父に相談するんじゃないの」

「老師に、相談? えー……老師に? なんだ、このそこはかとなく湧き上がる不安な予感」

「人の師を相手に失礼でしてよ、オリバー」

「おい、人を担いだまま平然と会話するな。いい加減に俺を下ろせ!」

「青次郎は黙ってろ」


 なんか頭上から青次郎の声がかかって五月蠅かった。

 ので、適当にシャッフルしてみたら黙った。静かになってよし!

 そんなことをしている間に、私の呼びかけに応えて師父が接近する。

 その手に鷲掴まれたカブトガニを、リンゴみたいに一瞬で握り潰しながらの登場だ。


「どうした、弟子よ。呼んだか」

「お呼びしましたよ、我が師。実はご相談が……」


 私は率直に、師父に相談していた。

 つまり、空を我が物顔で飛び回る(サブマリン)をちょっくら殴りに行きたいんです。

 その為に空に飛びだす為のお知恵をお貸しください、と。


「あの亀、やっぱりお前のペットだったのか……」


 なんか側からボソッと聞こえた気がするが、無視だ無視!


 師父は私の相談に鷹揚に頷き、私の顔をじっと見る。

 その御顔は、無理難題を吹っ掛けられたと悩むようなものではなく。

 これは好感触かとにわかに期待する私に、師父は選択肢を提示してくれた。


「選択肢は、四つある」

「四つも! 流石です、師父。是非ともその手段についてお伺いしたい」

「うむ。儂がお前を投げるか、お前が儂を踏み台に跳ぶか、その背負っている男を踏み台に跳ぶか……あるいはその合わせ技となろう」

「なんですと?」

「おい待て、今何か常軌を逸した言葉が聞こえてきたんだが……!」

 

 なんか頭上の青次郎がまた、口を挟んできたので揺さぶってみる。

 青次郎を静かにさせつつ詳しく話を聞いてみると、こんな感じだった。


 選択肢一、師父が私を背負って大ジャンプ。

  ⇒一番高い位置で私を更にサブマリンに向かって投げつける。

 選択肢二、師父と私がタイミングを合わせて大ジャンプ。

  ⇒空中で合流し、私が師父を足場に更なる大ジャンプ。

 選択肢三、私が大ジャンプ。

  ⇒空中で担いだ青次郎を投げて、その身体を足場に更なる大ジャンプ。

 選択肢四、選択肢一~三の合わせ技。


 ……師に期待されるのは、弟子としては誇らしい限りだけど。

 師父のような偉大な武人と異なり、私はまだ人間の範疇なんだけどな?

 師からの期待が大きすぎるような気がして、ちょっと困った。

 お前ならできるって太鼓判を押してくださったんだけど、果たして本当に、私に期待通りの動きができるだろうか……


 私に担がれた青次郎が、なんかギャーギャー五月蠅かったけれど。

 例によって例の如く、シャッフルしたら静かになった。

 どうでも良いけど、青次郎(コイツ)って根性ねぇよなあ。いや、何度も同じ目に遭いつつ騒ぐんだから、あるのか根性……?


 青次郎に根性があるんなら、こいつを踏み台に跳んでも良いかなってちょっと思った。

 ちょっとだけだがな!






次回、ミシェルが空に……?

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― 新着の感想 ―
[一言] ) ペットが事故って大怪我させるのは、授業の一環(に、かこつけて)でボコって医務室送りにするのとは事情が変わる。  授業の一環なら怪我をさせても不可抗力だが、ペットが怪我をさせたらそれ…
[気になる点] 暴走サブマリンは止まるのか……?青次郎の扱いがどんどん悪化してますが、黄三郎に至っては空気になってますね。 黄三郎のヘルプ期待して選択技3!
2022/07/29 12:29 退会済み
管理
[良い点] Zガンダムと百式の連携を思い出しますね。 軽く人間は辞めていますから、安心してくださいね。
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