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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
よにんめの加害者ソルフェリノ・ピンク ~難易度★★☆☆☆~
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飛び散るピンク五秒前



 桃介に振り回される公爵令嬢、コーラル様に拳で桃介の平和ボケした性根を叩き直したってとお誘いいただいて翌日。

 とりあえず、一先ずは桃介を実際に見てみるか、となった。

 ようは偵察だ。うん。


「という訳ですので、今日の放課後自主練は不参加で。桃介先輩の面ぁ拝みに総合コースの校舎まで行く予定ですの」


 放課後の自主練メニューについて、オリバーから質問があったので笑顔でそう返してやった。

 いつもは仲良く、一緒に訓練してるもんね。

 でも今日は、私はご一緒できないのだよ。

 だからそう伝えたんだが。

 すると何故だろう?

 私のお友達さん達が、揃ってなんか微妙な顔をした。

 ちょっと離れたところで一塊になって、なんかひそひそ言ってるな?


「……遠征か……とうとう……」

「今までは向こうから来るのを、迎え撃つ形だったってのに……一応」

「ついに、ミシェルの方から殴りに行くんですのね……」

「こっちから殴りに……通り魔……」

「別学科の、それも他国の王族になんつうアプローチ(笑)を……」

「……流石、ジャイアント・キリング(※身分的な意味で)……」

「あいつは学内王族コンプリートでも自分に課してるのか……?」


 なんか愉快気な事を好きに囀ってる気配がしたんで、とりあえず一人ひとりに『ご挨拶』をしてから待ち合わせの場所へと向か……う前に、私は更衣室のロッカーに寄った。

 そうだよね。これから桃介のご尊顔拝みに行くんだもの。

 顔を合わせるかもしれないんだから、準備(・・)をしておかないと。

 私は前世で見た、『乙女ゲーム』でのヒロインと桃介出会いの一幕を思い出し、念の為に準備を整えてから待ち合わせに向かった。

 念には念を、って大事だよね。

 ヒロインの出会いと同じことが起きるとは限らないけどね。

 ロッカーに入れておいて良かったな。鎖帷子。


 魔法学園の入学祝に下の兄がくれたのは、鎖帷子だった。

 進路は戦闘職志望の私にとって、とても有難い実用品(・・・)です。

 それは小柄で体力に不足の有る女性が着用することを考えて作られた、身軽さや持久力に障りの少ない鎖帷子だった。

 まるでベストみたいな形状の、身体にぴったりフィットして胴体だけを守る袖なしタイプ。

 肩回りの動きを極力阻害しないし、守るのは胴体部分だけなので金属の塊である鎖帷子でも重みは少ない方。余分な体力を削られることも無いし、俊敏性への影響も少ない、私の為に誂えてくれたんだと一発でわかる品だ。兄様、有難う。

 まだ魔法騎士コースの訓練で鎖帷子みたいな本格的な装備は必要なかったので、ロッカーに入れっぱなしだったんだけど。

 どうやら今日が、初めての装備となりそうだ。

 服の下にこれ一枚着用しているだけで、大きく違う。

 兄の真心が籠った鎖帷子、その働きに期待大である。



 そんな訳で私はコーラル様と落ち合った上で、普段滅多に立ち入らない『総合コース』の棟に足を運んでいる。

 私達の学校は全学科共通の基礎科目を受講する為の本校舎を中心に、東西南北に分かれて棟がある。専門コースごとに違う棟を使っているんだけど、魔法騎士コースが使っているのは北棟で総合コースが使っているのは南棟……となれば、本当に、全く足を踏み入れる機会がない。

 そして黄三郎と桃介は総合コース生だ。

 『乙女ゲーム』では攻略進むと黄三郎が『魔法騎士コース』に転科したりするらしいけど。

 うん、なんかイベントを経て心の成長した黄三郎が、自分を見つめ直して真に騎士を目指す云々って感じのシナリオが展開されるらしいよ。黄三郎ルートやってないから詳しく知らんけど。

 

 使う生徒の気質が違うせいか、棟によっても雰囲気がガラッと変わるらしい。

 脳筋エリートが集う魔法騎士コースは、思い余って力が入り過ぎた! 備品破壊! とかが多いせいか、なんだか質実剛健!って感じ。まず最初に頑丈さと実用性が求められる。

 だけど、とりあえず魔法学園の卒業証書が欲しい箔付け目的なお貴族様の多い総合コースはこう、なんっつうか……まあ、うん、華やかだね? 無駄に。

 魔法騎士コースに置いたらたちまち三時間くらいで破損しそうな、繊細なつくりの花瓶とか飾ってあるし。等間隔で花やら絵画やらが飾ってある校舎って、前世の記憶のせいか何か違和感があるなぁ。

 

「サロンには……いませんわね。だとしたら中庭かしら」

「桃すk……ピンク先輩は普段サロンか中庭にいる事が多いんですの?」

「そうですわねぇ。お猫さんのような気質もある方ですけれど、寂しがりでもありますから。基本的には人の気配があるところを好みますわね。サロンか、カフェか……社交的な場にいる事が多いのですけれど、一人になりたい時や構われたくない時は中庭の方ですわね」


 猫、猫か……良い年した野郎を相手に、猫っぽいっていうのはアレだな?

 だけどなんとなく、そう評されるのもわかる。

 私はまだ『乙女ゲーム』での桃介しか知らないんだけど……そうか、やっぱりそういう性格なのか。

 桃介については、前世の『お姉ちゃん』がそういえばなんか言ってたっけ。

 確か、『合法しょた』……?

 しょた、ってなんだろう。前世の私が知らない単語なんだよね。

 お姉ちゃんに「しょたってなーに?」って聞いたんだけど、あの時は「栄、あんたはまだ若いわ……あんたがそれを知るのは、早すぎるのよ」とか何とか言って、意味教えてくれなかったんだよね。

 しかし小学生に教えるのが憚られる言葉ってなんだ。卑猥(えっち)な言葉の類だろうか。

 こう……学校の学習用辞書に、誰かがアンダーライン引いてる系の。

 でもゲームのパッケージには『全年齢対象』って書いてあったのに。


 全年齢対象とは一体。

 そんなことを考えながら、中庭を捜索すること暫し。

 ついに我々は、ピンク色の物体を発見した。

 

 中庭にある、白い石造りの東屋。まあ、絡んだ蔓薔薇が花盛り。とても素敵ね?

 だが、東屋の内部にあるのは、違和感のある光景だ。

 うふふふふ……淑やかな笑い声が、微かに聞こえる。

 和やかに備え付けの卓を囲むのは、嫋やかで麗しの淑女たち+α。

 一人一人が綺麗に整えられた身なりで、一分の乱れもない。

 華奢な手にそれぞれ繊細な白磁のティーカップ。

 卓の上には可憐に彩りを添える小ぶりな花々と、お茶会セット。

 どこからどう見ても、可憐なお嬢様達のお茶会風景。

 キラキラした乙女の社交場だ。

 ……+αの存在さえ、なければ。


 うん、なんで乙女の園に野郎が一人混ざってんだよ。


 小柄で、細身。

 女の子みたいに線の細い少年が混ざってるように見えるんだけど。

 どれだけ繊細な面していようが、細身だろうが、髪は短いし着ているのは総合コースの男子制服だ。つまり、野郎だ。アレで制服が女子の物だったら違和感もなかっただろうが、細くとも男であることを疑いようのない骨格してるんで違和感しかない。


 違和感の原因(たね)

 つまりそれはお前のことだよ、桃介。

 そこにいるのは、確かな存在感のある……ストロベリーブロンドというにしてもピンク過ぎる毛髪を持つ、王子。

 私が桃介って呼んでいる、第四の攻略対象(ターゲット)だ。殴りたいって意味で。


 っていうか髪の毛ピンクって、存在からしてなんかもう存在がファンキーだよな。

 目立つ目立つ、あの頭。遠くからでも目に付くんだよ。


 何食わぬ顔で、ナチュラルに混ざってやがる……少女たちに囲まれて、気後れの欠片も見えない顔でクッキー齧ってんな、おい。

 あれって、ハーレム? 世に聞くハーレムってヤツ?

 なんてこった、真のトドはここにいたのか……?

 いやでも桃介って女侍らせてコロニー形成とか、そういうキャラだったっけ?

 ……ああ、でも、よくよく観察してみるとハーレムって語感とはなんか違うね?

 

 その姿は、決して周囲に女を侍らせているのではなく。

 あくまで、己が『女の間に混じっている』。そんな感じ。

 強いて言えば、女友達のお喋りの場に、その一員(おともだち)として入り込んでいる感。

 ちらりと同じ光景を見ているだろう、隣のコーラル様に視線を向ける。

 そこには「嘆かわしい!」って感じではなく、あくまで「呆れた……」って感じの顔。

 ああ、うん。つまり本当にアレは誰に憚ることも無い健全なお喋りの場って事ですね?

 桃介よ……『乙女ゲーム』でも社交が得意なキャラではあったけれど、女の井戸端会議にするりと混じり込むって社交スキル高すぎじゃあるまいか。

 お前はお嬢様達に男として意識されていないのか? 常識的に考えて、どれだけ男を感じさせない外見だったとしても、男は男。野郎は少女たちの社交場じゃ出禁だろ。お嬢様達のお喋りに参戦させてもらえるなんて、余程の特殊事例だぞ? そこを参加させてもらえてるって、男扱いされてなくないか。

 そんな疑いが芽生えるが、そんなことはない……はず。アレはむしろ顔が良いヤツの特権と見た。桃介は線の細い美少年、つまりアレは前世で聞く『ただしイケメンに限る』ってヤツと見た! 凄いな、初めて見たよ『イケメン無罪』の現場!

 何しろ一番身近にいる攻略対象・赤太郎は女っ気がほぼ皆無な魔法騎士コースに棲息しているからな……顔を免罪符に女性たちに優遇される現場を直に見るのは初めてだった。

 『イケメンに限る』って本当にあるんだね。なんかちょっと感動した。


「コーラル様、私の目には彼の方……ピンク先輩、が、淑女の中に混じっているように見えます」

「わたくしの目にもそう見えますわ」

「今日は偵察だけ、ではありましたけれど。淑女の皆様の前で過激な振る舞いは躊躇われますものね。少しだけ様子を窺ってから、今日は場を改めましょうか」

「それがよろしいですわね。はしたないですけれど、どこか一定距離を置いて隠れられる場所から様子を窺ってみましょう」


 私とコーラル様は微妙な心持になりながら、観察の算段を整え始めた。

 ああ、コーラル様を見て思う。

 こういう顔を、チベットスナギツネみたいな顔って言うのかしら。


 ああでもない、こうでもない。

 丁度いい観察ポイント(隠れ場所)を探す私達。

 あれこれ吟味しすぎて、少し注意力が散漫になっていた。それは認めよう。

 でもまさかさ、あんな躊躇いなく来るとは思わないよね。

 平和な学園内で、初対面の相手がさ。


 ピンク頭の桃介から、視線と注意を逸らしていたのはそんなに長い時間じゃなかった。

 だけどどうやらその短い時間で、私達は知らぬ間に見つかっていたらしい。

 誰にって、私達が観察する筈の桃介に。

 そしてヤツは、ほんの少しも足踏みってヤツがなかった。


「コーラル、こんなとこでどーうしったのっ?」


 甘めの、高い声だった。ボーイソプラノってヤツですね。

 うん、でも何故。

 コーラル様に呼びかけている癖に、私の背後から聞こえるんでしょうね?

 次いで、衝撃。

 比喩じゃなく、重い物がぶつかってくる衝撃が背中に!

 手加減はされていたんだろうけど、それでも十分に思いっきりと。


 本当に、何故か私に。


 背後から桃介の野郎が抱き着いてきやがった!!


 

 何となく、こんな展開になることもあるかもしれないって。

 それを見越してはいたんだけどね。

 着用していて良かった、鎖帷子。

 




よゐこのみんなに問題です。

無意味にミシェル嬢へと飛びついてきた、桃介。

彼がミシェル嬢に殴られた場合の、飛距離は?


a.5m

b.15m

c.25m

d.30m

e.真上に3m

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャイアント・キリング。 殴り乙女に付ける二つ名かいW
[一言] e.真上に3m 打ち上げ花火は上にあげるものですし。
[一言] eですね 落下中に追撃を!
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