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王子様を合法的に殴りたい 連載版  作者: 小林晴幸
さんにんめの挑戦者シャルトルーズ・イエロー ~難易度★★★☆☆~
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VS黄三郎 ~黄色いひよこ~



 試合場の上には、私と黃三郎の二人だけ。

 対峙し、その時を緊張と共に今か今かと待ち続ける。


「それでは第八試合――始め!」


 エリザベス様の号令で、時が走り始めた。


 私の今日の装備は、ある意味いつも通り。

 右手に訓練用の木剣、左手にはタコ殴り用の革手袋(グローブ)

 そうとは見えないけれど、右手も左手も攻撃手段だ。気分的には変則的な二刀流といってもいい。

 防御は最初から捨てている。

 そもそも私の体重と肉体強度的に、攻撃を食らうのは負担が大きい。

 攻撃された時には可能な限り全力で回避の一択だ。

 だから身軽さは重視している。

 防具も出来れば最低限にしたい。

 トーナメントはしっかり試合に備えて装備してくるよう推奨されているけれど、私は最低限の部分しか防具で保護する気がない。なので革の胴着……と言っていいんだろうか。

 わかりやすく言うと、いつもの服装の上に防具仕様のビスチェを付けただけだったりする。

 女性の体形に合わせた防具って、あんまりないんだよね。

 危ないことを繰り返す私の為にって、コレはお姉様達が誕生日プレゼントに特注してくれた逸品だったりする。肩回りの動きは阻害しないけど何せ締め付けきっついんでここぞって時しか着けないし、姉達には「普段から使わないと意味がない!」って嘆かれてるが!

 そんないつもとあまり変わらない、私。

 でもここぞで力を発揮できるのは、やっぱり『普段通り』ってヤツだと思う。


 一方、黄三郎の方はと言えば。

 普段はちゃらちゃらヒラヒラな感じ、というかまあフリルやらレースやらのついたドレスシャツに伊達男気取ってんのか色男目指してんのか、アレな感じのキラキラした格好してる野郎だが。

 今日はトーナメントだからね、うん。

 そりゃ気合の入った白のジャケットなんて着てきた日には、地べたにはっ倒して土塗れにしてやる気満々だったんだが……奴もトーナメントだって事を意識したんだろう。まともな武装で来やがった。

 その手に持っているのは、反りのある刀剣を模した木剣。

 左手には訓練用の小盾。

 私とは違って、ちゃんとした革製の防具を身に着けていらっしゃる。

 訓練用の軽鎧でパーツは少な目だが、見るからに使い馴染んでいる……丁寧に手入れと補修を繰り返した形跡があるし、恐らく昔から使っている品なんだろう。

 正統派の片手剣士って感じの出で立ちですね。

 使い込んだ訓練用の武具一式に、『騎士の国』出身者だなってこんなところで感じたわ。

 武具の形、前世の絵本で見た『騎士』とはちょっと趣が違うけど。

 

 さて、そんな黄三郎との試合である。

 いつも試合と言えば、私の方が速攻をかける側ってパターンが多いんだけど……


「てぇっ」

「そいとぉっ!?」


 今回は違ったようですねー!?


 試合開始の宣言があるや否や、速攻をかけたのは黄三郎の方。

 爛々とした眼差しには、強い意志が感じられる。

 この試合を一刻も早く終わらせたいという、確固たる意志が。

 一息で距離を詰めてきたかと思うと、盾と体を使って作られた死角から繰り出される鋭い一閃。

 咄嗟に避ける事が出来たのは、我ながらよく体が動いたなという感じで。

 死角を使うとか不意を突くとか姑息な手段を織り交ぜるとか、弱いなりにそういう搦手を駆使して技術面で戦力差を埋めようとするナイジェル君との模擬試合の経験が活きた形だ。有難うナイジェル君! 君との試合は少なからずもどかしかったりイラッとしたりするけど、そういう手を使う相手との予行練習と考えればかなり有用だったことが今、証明されたよ!


 私と相対する黄三郎には、残念ながら思ったより油断が少ない。

 これは普段の身のこなしで少なからず実力に当たりを付けられていたか?

 流石は同盟国一、女騎士の多い修羅の国出身……相手が女だからという侮りはないようだ。

 初見で女への侮りがない相手とは、何気に初めて戦う気がする。

 少しやりづらいかもしれない。

 そう思うと同時に、面白いと感じる自分もいる。

 赤太郎とは歯応え……じゃねえ、手応えが違うという事ね!

 今も奴は、最初の一撃が空振ったからと動きを止めることも無く、準備していたかのように正確な二手・三手と剣の軌道を変えて斬りかかってくる。木剣とは思えない鋭さ。これ、木剣で藁束とか切れる類の人種だったりしない?

 当たったら痛いと確信が持てる。

 だからやっぱり、当たらない方向で避け続けるしかない。


 だけど黄三郎のヤツ、マジで攻撃鋭いね!? 本当に先日のヘタレと同一人物なのか。

 単純な一振りでも、速度と鋭さが半端なかった一撃。

 こいつ、攻撃手段は剣だけじゃないんだよ。

 盾も使えば、隙をついて蹴りまで入れてくる。

 今も、ステップ踏んで避けたところ狙いで、足払いがー!


 これは、いけない。

 どうも身のこなしの軽さや速度では私の方が若干有利みたいだけど、その差は本当に若干。

 戦闘訓練をみっちり仕込まれて育った『騎士の国』の王子(サラブレット)とは、どうも技術面における年季が違う。練度も違う。速度で先を行ってるお陰でギリギリ避けられるけど、その速度の差をコイツ技術使って追っかけてくる。

 まともに戦っても、私の勝機は薄い気がしてきた。

 つまり、アレだ。


 まともに戦うなってことですね?


 相手は技術と場数で上を行く相手だ。

 相手の上をいく為には『私だけの手段()』を上手く使わないと。

 肉弾戦最強!みたいな主張で生きている騎士の国になくて、我が国が前面に押し出している特色『魔法』。こっちの面なら確実に、黄三郎に勝る自信がある。

 先日、師父からは精霊術(まほう)に頼りすぎって言われちゃったけれども。

 それが勝負の世界の話なら、持てる手段は全身全霊全てを使ってでも勝ちに行くのが礼儀だもの。

 ただ延々と攻撃を避け続けているだけじゃ、反撃の糸口がないともいう。

 これ、身体能力(じりき)だけで流れを変えるの難しいわ。

 

 黄三郎の回し蹴りを、後方に飛んでかわしながら。

 私はそっと、小さな声で囁いた。


「マゼンタ様、GO!」

『がってーん!』


 瞬間、空気が凝って燃え上がる。

 黄三郎の足捌きが、速度で勝るはずの私にぐいぐい距離を詰めさせるのなら。

 まずはその機動力を封じたい。

 この時の私は、本当に。

 ただ純粋に、そう思っただけだった。

 ええ、本当よ?

 ——決して、黄三郎を辱めようとか過剰に動揺させようとか。

 そんな意図はなかった。


 私のお願いに応じて、炎の針を飛ばすマゼンタ様。

 短く、小さく、故に鋭い。避け辛い。

 それが黄三郎の足を封じようと——奴の下半身を重点的に狙う軌道でまっしぐら。


 ……半分以上、避けるか盾で払って防ぐかされた中で。

 一本だけ。


 たった一本の炎の針が。


 意図せず、黄三郎の腰骨のあたりを掠った。ように見えた。

 実際に当たったのか、外れたのか。

 当たったとして、どこに当たったのか。

 私は一切関与していない。


 そんなまさか、ねえ?

 こっちが気まずくなるような当たり方をしているとか、思いもよらない。


 これは事故だった。


 私は全力で、そう主張したい。


 だって、炎の針は。

 黄三郎の——……ベルトを、一瞬で焼き切ってしまったのだから。


 マジごめん。


 今日は私達、武装しているの。

 黄三郎も、武装しているの。

 ……今日のベルトは剣帯っつうな? 剣を吊り下げる為の便利ベルトを着用していた訳だが。

 剣の鞘に始まって、色々ごちゃごちゃついている訳で。

 つまり何が言いたかったかというと。


 ごろごろパーツがついているせいで、割と重い。


 そんなベルトさんが焼き切れたってさー!

 ズボンにくっついた、ままー!


 そうして、事故は発生した。


 折しもそれは、炎の針を粗方(・・)防いだ黄三郎が攻撃に転じようとした瞬間。

 攻勢に転じる為、足腰が荒々しくも大きく動いたタイミングで。


 ベルトの重みに負けて、ズボンが、ずり落ちた。


 膝までは、行かなかった。

 太腿の半ばに、防具の一部を留める為のベルトが回っていたから、そこで止まった。


 だがパンツを履いた尻は丸出しだった。

 ……パンツごとずり落ちなくて、良かったね……?

 私からは、そんな慰めの言葉しか言いようがない。

 いや、そんな言葉すら言えないな。

 だって今口を開いたら……爆笑しちゃいそうなんだもの。


 誉れ高き『騎士の国』。

 近接戦闘最強の名を欲しいままとする、屈強な騎士達の存在が謳われる国。

 名誉を重んじ、武勲を貴び、騎士の誓いを至上とする、アルストロメリア王国。

 特に持って生まれた武芸の才能(センス)は当代一と囁かれるそこの第二王子の! パンツが今! 試合会場のど真ん中で衆目の前に、思いっきり晒されている……!!


 ちなみにパンツは黄色のひよこさん柄だった。


 色男系の顔の割に可愛いパンツ履いてんね、黄三郎さん。




 その時、確かに。

 会場の空気は凍結していた。


 誰も身動き出来る者はいなかった。


 突如発生したまさかの事態に、黄三郎の脳は完璧にフリーズしていた。


 そんな黄三郎の真正面で、固まる奴を見ながら私はこんなことを考えていた。

 え? これ、もしかして、黄三郎の脳がフリーズしている間に殴りにいって良い感じ?

 しかしそれをやったら審判(エリザベス様)に咎められそうな気がする。どうしよう?

 殴りに行くべきか、行かざるべきか。それが問題だ。


ハプニングのお約束、パンチラ。

※ただしチラリするのは黄三郎の方。


まず真っ先に黄三郎が動いてパンツ隠さないと、誰も動き出せないヤツ。


ちなみに観客席では声にならない黄色い悲鳴を上げる淑女が多数。

何人か、気絶しそうになっちゃっている模様。

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― 新着の感想 ―
[一言] 殴りに行ったら怒られそうって。 ここの試合は決闘方式であって、仮想戦場じゃないんかい。戦場ルールになれとかんとあかんのでは? と思うと同時に。あくまで「貴族」の場。社交なんかも兼ねてると言わ…
[良い点] パンチラキタ〜〜ッ! 黄三郎の名に違わぬ黄色いヒヨコ柄ダ〜〜っッ! リングアナも絶叫! [一言] 青汁をブッ飛ばすまで頑張ってください
[一言] 嬉しくないパンチラっす(泣)しかもひよこ……
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