作為的な運命の出会い
22/1/27 後書きの選択肢がしっくりこなかった為、訂正いたしました。
「よきにはからえ」は、思ったよりはさくっと終わった。
何となく偉い人のお話って前世で言う学校の校長だのPTA会長だのの無駄に長ったらしいだけで実もない薄っぺら~な時間潰し対策みたいなヤツを連想してたんだけどな?
やっぱり「よきにはからえ」の後で貴族のお子さん方々のデビュタントが控えているからだろうか。予定が押しているっぽい空気をうっすら漂わせながら、真っ当に簡潔な薫陶のお言葉で終わった。
立ったまま寝る技能を全力で駆使するつもりだったが、所要時間三分じゃな。
まあ、早く終わる分には有難い。
要点のみをわかりやすく、無駄を省いて簡潔に。
他の世の権力者さん達にもこうあってほしいもんである。
そして「よきにはからえ」が終われば、後はアレである。
貴族としてのデビュー戦が始まった……。
貴族としての身分を持たない魔法学園の一年生達は会場に放流され、貴族としてデビューが必要な奴らはいったん会場を出た後に、改めて入場という無駄を重ねて舞踏会の会場へ。
私は次兄にエスコートされて、貴族社会に一歩を踏み出した。
うちは子爵家なんで、順番は後の方。
あー、面倒。
入場待ちをしているところに、同じような位置取りで順番を待っている男達が寄ってくる。
みんな見た顔、知った顔。
それも当然か。魔法騎士コースのクラスメイト達だもん。
本来、入場前に他家の子息令嬢に声をかけるのはマナー違反なんだけど……元からの知り合いとの雑談なら許容範囲かな? まあ、話に夢中になって順番が回って来たのに気付かなかったーなんて事態にならなければ、だけど。
しかしクラスメイト共よ、どうしたの。
何故、私を中心にして寄ってくるの……?
「ミシェル、後でで良いからさ、俺と一曲踊らないか」
「あ、俺も俺もー! ミシェル、な、踊ろうぜ!」
「え?」
おや、なんだか今、とっても意外なセリフを耳にしたような……?
幻聴かしら、疲れてるのかな。
すっとぼけた顔で、なんてない事のように平然とダンスに誘ってきたクラスメイトの顔を見る。
……うん、女性を踊りに誘おうって顔ではないな。熱意が皆無だ。
むしろ、前世の私がクラスメイトの男の子に「なー、今日の放課後ゲーセン行こうぜー!」と誘われた時に見たような表情だ。
舞踏会のダンスと言えば、紳士淑女の格闘技。気になる相手を見定める、技と話術の総合力を判定する為の試しの場だ。相手を落とした者が勝者の栄冠を得る。
みんな結婚相手や家と関係を持つ相手の有利不利を判断する為に、それこそ必死だ。
ダンスはその最たるものなのに、何故、私に……?
思いっきり怪訝げな顔をしたせいか、男子の一人が若干焦ったような口調で言ったことには。
「実は実家から、最低でも御令嬢と一回は踊りなさいって……」
「あ、俺も」
「俺もだよ……でもさ、ほら、な?」
「そうそう。俺達って普段から男所帯の魔法騎士コースでさ……御令嬢との接点なんて、ほぼ皆無だろ?」
「つまり私を頭数稼ぎに使おうと……? 将来が賭かってるんだから真っ当に好ましいご令嬢を誘えばよろしいじゃありませんの」
「ダンスに誘うってどうすれば良いんだよ! 会話って……!? 何話せば良いのっ」
「誘い方も、令嬢とどう接して良いかもわからないんだよ!」
「そこにきて、お前だよ。幸い、今日は見た目だけならばっちり御令嬢! ミシェルとなら気軽に踊れるし、踊りさえすれば実家からも口煩い説教はなくなる!」
「とにかく、俺らは!」
「ご令嬢と交流するにも!」
「もっと時間的猶予と余裕が持てるまでの学習機会が欲しいんだ……!!」
という訳で踊ってください、と。
真面目な顔でクラスメイト共は言う訳だが。
その顔面、殴ったろか。真正面からの正拳突きでな!
割と失礼な話だと思う。
私の方にはそんな便利に使われてやる義理はないし。
私はわざとらしく両手で頬を抑え、上目遣いで言ってやった。
「そんなこと言ってる間は一人だって誘えやしねえっつの。出直して来い、根性なし共が」
ズバッと言ってやった私の前で、「そんな御令嬢っぽく見える姿で言わなくても……」と一斉に項垂れる学友達。
そして「物言い」と一言注意を入れながら私の額にチョップを入れる兄様。
令嬢として相応しくない発言だと教育的指導だ。
ちょ、兄! 髪が崩れる、髪が!
舞踏会も参加する前から我が家のメイドさん達による力作が崩壊しようもんなら、姉達に笑顔で詰め寄られてしまう。
目線で兄に抗議を入れると、兄は兄でじぃっと項垂れる学友達を見ていた。
……仕方ない。救済をやるか。
「……少なくとも、挑戦なくして最初から逃げ腰の野郎どもと踊るなんて、お断りですわ。どうせならまっとうに挑戦して、玉砕してから来てくださいな」
「玉砕……っ!」
「そうですわね、少なくとも五人。五人の御令嬢に声をかけて、全滅した方とでしたら踊って差し上げてもよろしくてよ。仕方ねーから。うん、仕方ねーから。誰も踊ってくれなかった可哀想な奴となら踊ってやらぁ。お情けでな!」
「ミシェル、口調」
「頭は止めて下さいませ、兄様……ってまさかのデコピン!」
「ご、五人か……やべぇ挑戦する前から惨憺たる未来しか見えないぜ」
「くっ……ミシェルのヤツ、なんて酷い物言いだ。可憐なお嬢様です☆みたいな恰好してんのに、いつも以上に口調が鋭い」
「あれ絶対八つ当たり入ってるって。ドレス着せられた鬱憤擦り付けられてるって」
「まあ、なんてことを仰いますの? 私はただ……そう、発破をかけて差し上げただけですのに。お前らみたいな腰抜けでも奮起できるよう、敢えてだよ。敢・え・て」
「奮起する前に心折れるわ!!」
「情けないですわねぇ、それでも魔法騎士コースのエリートですの?」
「いや、今それ関係ないし……」
「何を仰るのやら、大いに関係ありますわよ! ここは紳士淑女の婚活市場。その肩書は将来性の保証ですわ。青田買いってお言葉、御存知? 肩書と将来性だけで、需要の合致する相手を選べば初っ端から無下に断られる事はございませんわよ!」
「予想外に計算高い事を……夢も希望もないな!」
「夢と希望ばかりですわよ! 確実性の高い出会いを見つけやすくなりますでしょう? 何事も計画性と下準備、大事!」
「なんか知らんが、謎の説得力があるな。お前の言葉」
「でもいきなりそんなこと言われてもさぁ、需要の合致する相手って?」
「そうそう。俺達そんなのわからないし、傍目に魔法騎士コース生の肩書で釣れるのがどの子かなんてわからないだろう?」
「っていうか一目でわかるんならミシェルを誘う前に特攻するっての」
「あらあら、仕方ありませんわね。これも武士の情け……私が教授してやろうではないか」
「「「「「お願いします、ミシェル先生!」」」」」
ほんっと、しょーがねえな。こいつら。
仕方ないから私が手堅く、断られる確率の低いご令嬢を教えてやろう。
大丈夫だ。魔法騎士コース生であることを示す徽章を外しさえしなけりゃ、まずもって断られることのない相手を選んでやる。
いまこそ、学園のお茶会でご令嬢達から仕入れた情報活用の時……!
「まずはあちらをご覧くださ~い? 窓際、後方だ。黄色いドレスに赤いリボンのお嬢様がいるだろう?」
「ミシェル、テンション乱高下させるのやめてくれ。こっちまで混乱する」
「あのお嬢様の家は軍閥の名家ってやつでな。代々騎士を輩出してきたゴリゴリの軍人家系だ。……が、今代は男子に恵まれなかったそうでな。あそこのお宅、子供は四人姉妹がいるばかりなんだ」
「ほー……つまり?」
「入り婿募集中だそうだ。それも騎士限定で。家を継いでくれる上に、家門を代表する騎士として戦働き可能なお婿さんを探してるんだと」
私の話を狼狽えつつも拝聴する野郎どもに、私は言ってやった。
「お前ら、次男とか三男とか、四男とかばっかりでしたわよね? 入り婿の条件満たしてるじゃん?」
いきなり結婚とか言われて、狼狽える野郎共。
しかし結婚問題が絡むからこそ、婿候補という意識が働いて踊ってもらえるはず。
似たような騎士のお婿さん募集中☆なお嬢さんを何人かピックアップして野郎共に更に発破をかけてやった。
特にお勧めなのは藤色のドレスのミランダ様(19)! 代々の騎士家系で父親も祖父も親族の野郎は全部ゴリッゴリの筋肉ばかりという呪われた家系のお嬢様だ。愛情表現が暑苦しくてデカくて筋肉な野郎どもに幼少期から構い倒されたせいか、彼女の好みは『細身の年下男子』。騎士の婿を取らないといけない事は理解しているが、なるべく筋肉量の低くて可愛い年下男子が良いとのことでして。純粋な物理特化の騎士に対して比較的筋肉少な目の魔法騎士との出会いを求めておいでだそうだ。
頑張って鍛えても筋肉がつきにくいって悩んでいた魔法騎士コースの若干名にとっては願ってもない相手じゃない?
そんなこんなで私のオススメにより、舞踏会が始まるなり示し合わせて三々五々散っていくクラスメイト達。
うん、そんな不安いっぱいって顔で誘っても、踊れるもんも踊れなくなりそうだ。大丈夫か。
とりあえずエスコート役の次兄と音楽に合わせてステップなど踏みつつ。
るんたったーるんたったーと踊っていれば、兄からは何やら呆れた視線。なにか物言いたげだ。
うん、なんぞ?
首を傾げる私に、兄様は微妙そうな声音でボソッと言った。
「やけに、親切だな……?」
「なにが?」
「お前はそんな、他人の恋愛沙汰に首を突っ込む方じゃないだろう」
「あー……そこはそれ、ちょっとした打算がありますの」
「ほう?」
「だってこれが縁でお付き合いが始まったり、果ては結婚にまで繋がる事になろうものなら……私が仲人と言っても過言ではございませんでしょう? くくく……っ一生私に頭が上がらなくなった時の、彼らの顔が見物だと思いません?」
「ミシェル、それは令嬢の笑い方じゃない」
踊っている最中であれば、兄の教育的指導も無理だろう!
私は気分よ~く、兄のリードに合わせて踊る。るんたったー☆
そうして、本当に気分よく、踊っている最中に。
私は見てしまった。
見つけてしまった。
一度目にしたら、もうきっと目を離すことなんて出来ない。
銀とも灰色ともつかない髪を靡かせる、そんなあの方を。
ここでクエスチョン!
ミシェル嬢が見つけてしまった、『あの方』とは——!?
a.未来の師匠
b.未来の旦那様
c.未来の仇敵
d.未来の下僕




