定期イベント:悪夢の寝起き☆ドッキリ大作戦 〜青二郎編3〜
前回の後書きに対して「童話のお姫様コーデ」との感想がありまして。
そこでちょっと王子どもを昔話のお姫様に例えたら……と考えたら楽しくなりまして。
小林が独断と偏見で考えた例えが下記となります。
赤太郎
→『野の白鳥』
理由 ただひたすら無言の行を続けながら数年がかりで兄たち11人分の帷子(刺草製)を素手で編み続けるという忍耐と根性に脳筋と通じるものを感じたため。とりあえず軟弱者にはできそうにない。
青二郎
→『竹取物語』
物凄くプライド高そうに見えるところがそれっぽいな、と。特に求婚者に対する試練の課し方に陰険さを感じる。
黄三郎
→『シンデレラ』
元祖ドアマットヒロイン。不憫ってだけで何故か黄三郎を連想する……根が真面目な気遣い屋なので、継母に言いつけられたら素直に掃除しそう。(他の王子は継母には従わなさそう)
桃介
→『白雪姫』
何度死んでも必ず蘇る。殺しても殺しきれないしぶとさと回復力。そしてどこに行っても味方を作り上げるあざとさに、普段は猫かぶってるらしい桃介と重なるものを感じた。
青汁
→『黒いお姫様』
ガチョウ番の娘と迷った(あっちのヒロインもアレ絶対魔女)が、より得体が知れない魔物っぽさがあるので。あと、相手役に勇気と高度な機転が必要とされるため。
こういうの、ちょっと考え始めると楽しいですよね。
私が青二郎へ差し向けようとしているもの。
それは今日の朝、というか丑三つ時に目星をつけていた樟の木から捕獲してきたばかりの捕れたて新鮮☆ピッチピチの黒い甲虫どもだった。
主にカブトムシとかクワガタと呼ばれるヤツである。見事に育っていて角も立派、その身もニスを塗ったかのような見事な艶である。うむ。
昨日、夕方にワクワクしながら罠を張っておいて良かった。大きく活きもよく、期待以上の収穫だ。
「み、ミシェル……それは?」
中で何かが蠢く布袋を、何故か皆が強張った顔で遠巻きに見ている。何をそんなに警戒しているんだい?
「ただの虫だよ?」
ずざざざざっ
私が告げた瞬間、何故か顔を青ざめさせて、より一層の距離を取る皆の衆。えー、何その反応。露骨に避けられて、ミシェル困っちゃう。反応が面白すぎて、前世の小学校で悪友クラスメイト達(主に男子)と培った悪戯心が疼くじゃん。布袋けしかけちゃうぞー……って、いけないいけない。今のターゲットは青二郎。あくまでも、青二郎だ。
私はそっと綺麗にメイクアップした青二郎に忍び寄る。音をなるべく殺すのは、なんとなくそんな気分だから。
そうして僅かに口を緩ませた布袋に手を突っ込み、最初に掴んだ虫を引っ張り出す。
わあ、立派なオオカブト。
形状はアトラスオオカブトに似ていた。私の手のひらよりちょっと大きいくらいのサイズ感。
誰かの小さく押し殺した悲鳴が聞こえる。そんな、オオカブトに悲鳴を上げることなんてある? 目からビームなんて出ないし、いきなり巨大化とかもしないよ。退避した連中に目をやると……うん、フランツとマティアスは僅かに頬を緩ませて目ぇキラキラさせてんな。健全な野遊び経験豊富な少年の顔だわ。でもそれ以外は……ヒューゴは無表情でちょっとわからんが、それ以外の少年達はやっぱり顔が強張っていた。彼らの共通点は……あ、都会っ子か。
この世界、田舎の下級貴族はあまり使用人がいなかったりするんでそこまででもないけど、そこそこ使用人の数がいる貴族家だと使用人が虫を主一家に寄せ付けないからね。
あと娯楽の少ない田舎の子は虫で遊ぶのも平気だけど、娯楽の多い都会っ子は虫で遊ぶ習慣がない。
結論、都会育ちは害虫だけでなく、それ以外の虫にも免疫がない。総じて、虫ってだけで拒否感マシマシなのである。
中には虫から隔離されすぎて、逆に無知ゆえの平気さを発揮する場合もあるらしいけど。
しかし魔法騎士を志すものが、この体たらく。諸君、騎士は森で野営することだってあるのに、そんなことじゃやっていけんぞ? いっそ虫への苦手意識を払拭できるよう、私が手を貸すか? 一ヶ月かけずに虫と仲良しにしてやるぞ☆ なお、その場合の特訓方法はスパルタ式を採用する所存である。
「そんなに嫌がる〜? 格好いいじゃん、カブト」
「森育ちだから、俺は平気だけど……みんな、だめっぽい?」
「マティアスってそーいや森育ちだよなぁ。お貴族様みてーな顔してるけど。あ、俺も虫遊びの経験は一通りあるから平気だよん」
「俺のりょ、両親……元お嬢様と元庭師の、駆け落ちだから……追手を警戒して、森の奥に居を構えた、って」
「マティアスの父ちゃん、やるなぁ……あ、そだ、合宿終わる前に一緒に虫取り行こーぜ。あんな立派なカブトがいるんだろ? 久々にデュエル(虫)やりたい☆」
「あ、じゃ、じゃあミシェルも一緒に……どうかな?」
「勿論、参加を表明しよう。我が下僕どもの力量、目にもの見せてくれるわ。ふはははははは」
「いや、何キャラだよソレ」
「覇王風味強キャラごっこ」
「なにそれ楽しそう。そうだ、虫取り中はソレ縛りで喋ってみようぜ。罰ゲーム有りで」
「罰ゲームかぁ。じゃ、普通に喋った奴は王子の誰かに膝カックン決行で」
「いいねー」
「え、え……えっ?」
「ちょっと待てぇぇい!?」
「そこ、王子って雑にくくっていきなり僕を巻き込むのやめてくれない?」
「安心して、桃介先輩。そん時は俺、青二郎殿下か青汁狙うわ☆」
「黄三郎は?」
「ばっか、俺だって自分の身の丈は知ってるって。黄三郎殿下先輩を背後から狙うなんてできるかよ? 普通に気取られるわ。あの殿下先輩、物理的な戦闘力だったら学生一の手練なんだぞ」
そうなんだよねー……私の実力は精霊様の御力による身体強化込みだし。まだまだ修行が足りん。
ちなみに教職員まで含めると、てっぺん取るのは師父である。
「……まあ、僕が巻き込まれないなら良いか」
「え、えぇ……?」
「自分さえ良ければ構わないって姿勢はどうかと思うぞ、ソルフェリノ!」
「いや、フランツも、いいねーじゃないだろう!? フランツ、乗るな! そして止めろ、マティアス!」
「む、無茶だよ……!」
「それは膝カックンが? それともミシェル達を止めるのが?」
「虫か……ミシェル、それは簡単に捕れるものなのか?」
「お、ヒューゴ、虫取り参加表明?」
「この流れで乗るな、ヒューゴ! 空気を読んでくれ! というか、君は虫が平気なのか!?」
「大変そうだな、オリバー。だが婚約を考えている相手が男子と遊ぶというんだ、後々変な噂が回って余計な横槍を入れられる事のないよう、俺も参加するつもりだ」
「……無理してないか? 虫、平気なのか?」
「逆にたかが虫が、何故平気じゃないと? 目から光線が出るわけでもないし、いきなり巨大化もしない無害な部類の生き物だぞ。これが変な病気を媒介しているとか、食害を引き起こすというのなら駆除するまでだ」
「ヒューゴ……お前、本当に男らしいよな。知ってたけれども」
「一見してそう見えないから、ヒューゴのそういう発言聞くとちょっちびっくりするけどねー」
「そもそもが昔から、騎士の訓練として父や祖父と野外活動の機会は多かった。毒虫だったら手袋をさせてもらうが、そうじゃなければ気にならない」
「カブトに毒があるって話は聞いたことないかなぁ……虫って基本、一芸特化で進化した生物って印象だし。他に特筆すべき特徴を持っている場合、毒を体内で生成する余力までは持ち得ないと言うか」
「それじゃあ、カブトムシの特筆すべき能力って?」
「「「カッコいい」」」
「ミシェル、フランツ、マティアス……それ、絶対に能力って言わない」
話をしている内に、虫への怯えが薄れてきたのか。基本無害な生物ってわかってきたのかも知れない。若干名、顔面蒼白で絶対無理って顔してるけれども。それ以外の面々は、絶対触るとか無理だけど、ち顔色に残したまま距離を詰めることは辛うじてできるようになった模様。ただし、絶対に直視しようとしないから視線が私から逸れているけれども。
フランツ、マティアス、ヒューゴは本当に平気みたいでまじまじ観察しているけどね。
「それでミシェル、そのカブトムシどーすんの?」
「こーします」
私に掴まれたまま、ぎちぎちと手足を蠢かせるオオカブト。
私はそれを青二郎のへ近づけ……
ぴとっと、頭に乗せてやった。
すかさず追撃、追加だ第二弾。
布袋に再び手を突っ込み、お次は立派な大顎のクワガタを引っ張り出す。そのまま動きを止めることなく、流れる動作で青二郎の顔面へとクワガタを貼り付けた。
……これがまあ、見事な大物で。
青二郎が小顔なこともあり、足を広げたオオカブトが、その顔面をほぼ覆ってしまっているように見える。
ギャラリーと化した面々から、息を呑む音が聞こえた。それから押し殺した悲鳴も。
「……っ」
青二郎の肩が、びくっと震える。
「いた……っ」
緩く、嫌がるように揺れる頭。
振り落とされまいとしてか、咄嗟に強くしがみつく甲虫×2。
そして追いカブトに甲虫の三匹目を然りげ無く袋から引っ張り出す私。
「……い、いたたたたたたたたっ!?」
私が三匹目を青二郎に乗っけるより、早く。
全身を小さく跳ねさせた後、青二郎の悲痛な悲鳴がキツツキの木を叩く音みたいに小刻みに響いた。
経験のある方なら、わかるだろうか。
カブトやクワガタって、力めっちゃ強いからさ。
迂闊に柔らかい皮膚とかに乗っけると、あの小さく尖った足先が肉に食い込んでめちゃくちゃ痛ってぇの。慣れたら平気かもしれんが、慣れない奴が、心の準備もなしに食らうと平気じゃいられないんだ。
それが夢の世界を漂っていた青二郎の頭と顔面に……せっかく取り出したんだけど、三匹目どうしようかな。青二郎の首にでも貼り付けちゃう?
「な、なんだこれ……何が! 何が起きているんだ! この痛みは!? どうして前が見えないんだ!」
「で、殿下が……いつも、何をどうやっても起こしにかかってからゆうに三十分はお目覚めくださらない殿下が、こんな一瞬で!?」
青二郎の侍従が、驚愕と感嘆の混じった声を上げる。
……ふむ。
なんとなく。
なんとな〜く、私は三匹目の甲虫を青二郎の侍従さんに渡す。
侍従さんは呆然としたまま、それでも大事そうに巨大な甲虫をぎゅっと抱きしめた。「あ、いたっ」そして反撃を食らっていた。
そうこうする内に、青二郎も寝起きの頭でどうやら気付いた。
顔に、何か得体のしれないものが張り付いている……
自分の顔面と、そのナニかの間に指を差し込み。
両手で顔面に居座るナニかを掴んで力を込める。
オオクワガタの腹の下から、青二郎の「ふぎぎぎぎ……っ」と軋むような唸り声が聞こえた。どうやら引き剥がすコツがまだ掴めずにいるらしい。
多分あいつ、虫触るの初めてだろーなぁ。
それに腕力とかあんまないだろうし、不器用そうだもんな?
「……グロリアス嬢、それでは私はこの辺で。あn……第二王子殿下に気取られる前に、私は離脱致します」
「ん? あ、お疲れっす」
「我が主より、きっとその内、楽しい企画へ参加の機会をいただけたことに関する礼があることでしょう。それでは私はこの辺で。またお声がかかることを楽しみにしています」
「うん、またの機会があれば。その時はよろしくお願いします」
青二郎がひとり奮闘する中、その弟は鼻歌交じりに身を隠す。
離脱するって言ったけど、あれ、見つからない位置から観察を続けるつもりだなー?
セリアン氏が蛇のようにするっと物陰に身を隠すと同時、青二郎のオオクワガタとの熾烈な争いにも終止符が打たれた。軍配が上がったのは……辛うじて、青二郎。
肩で息をしながら、自分の顔面に張り付いていた甲虫を引っ剥がす。朝から思わぬ力比べ(vs虫)をする羽目になった奴の目は……完全に覚めている。
その覚醒した眼差しで、奴は見た。
これ以上はないほど至近距離から、ムキムキ筋肉質なクワガタの腹を。
超ぎっちぎち。
あまりに近すぎるとそれがナニかはわからなかった。だけど距離が生まれたことで、彼はソレがナニかを認識してしまった。
そう、それこそまさにオオクワガタだと。
「ほぎゃああああああああああああっ!!?」
青二郎の今まで聞いたことのない声量で悲鳴がほとばしった。
ほぎゃあってお前、赤子かよ。
悲鳴を上げながら必死にクワガタを遠ざけようとする青二郎。単純に投げれば良いものを、幼子を高い高いするかのように体から距離を取ろうとするだけで手を離そうとしない。どうやら手に無駄な力が入ってしまって、離そうにも離せないでいるようだ。
どっからどう見ても、パニクってんなぁ。
そうこうする内に、ベッドの上で青二郎は盛大にバランスを崩す。
ふらりぐらついた青二郎の頭上から、足場の傾き方に危機を感じたのかオオカブトが躊躇いなく飛翔する。
飛び立つ時に、青二郎の頭を強く踏み切って。
まるで、ソレがトドメになったかのように。
「あ」
体が、倒れ込むーーその先には、枕に配させてもらった高級瓜が……!
ぐしゃ
………………割れた瓜は、その後、皆で美味しくいただきました。
青二郎の後頭部は、思ったより石頭だったよ。
次回はいよいよ青汁を襲撃だ☆
気になる、その就寝スタイルは?
a.パジャマ(ストライプ)
b.着ぐるみ
c.ふわもこルームウェア獣耳付き
d.スケスケ☆ネグリジェ
e.簀巻き
f.裸
g.その日着ている服そのまま




