定期イベント:悪夢の寝起き☆ドッキリ大作戦 〜青二郎編〜
前回の更新から、ずいぶんと間が空いてしまいました……お待ちくださっていた皆様、すみません。
仕事面でのアレコレが忙し過ぎたこともありますが、何より愛用のノートPCが使えなくなったことが一番大きな理由かも知れません。
今はスマホで書いてますけど、中々四苦八苦している感じです。
桃介の耳元に、そっと配置された2つの風船。ご丁寧にも桃介の顔を挟むように、両耳の側にセッティングされている。至近距離(同じベッドの隣)にいるメジェド神もドキドキの展開だ。
そんな桃介の枕元で、両手に針を構えるコーラル先輩。わざわざ同時ではなく、連続して破裂音をさせるため、時間差をつける前提の二段構えだ。
コーラル先輩の挑戦に、私達もドッキドキである。
そして、その時はやってきた。
ぶっすぅぅうううううううっ!!
「あいったぁぁあああ!?」
「ああっ手元に狂いが!」
コーラル先輩の振り下ろした右手の針は、盛大に照準が狂ったようで、なんというか、その。
桃介の眉間に、思いっきり突き刺さっていた。
……うん、目ん玉ぶっ刺さなくて良かったね!
手元が狂ったんなら仕方ないない。なんかすっげぇ危ないけど、先輩は戦闘職じゃないし。人を傷つけるのに不器用でもおかしくない。多分。
本来の目標である豚の腸と桃介の眉間じゃ、二十センチ近い距離があるけど。
多分、コーラル先輩の深層心理化にある日頃の恨みとか、そんな感じの何かが無意識の手元を狂わせたんだろう。眉間に刺さったって言ってもそんな深くなさそうだし。桃介の奴が割と本気で痛がってのた打ち回ってるけど。何の警戒もしてないところに、針ぶっすりだもんな。あ、涙目。
しかしそこは精霊様より素晴らしい回復能力を与えられている桃介のこと。すぐさま回復したらしく、額を手で抑えながらもダメージが後に引いてなさそうな身のこなしで、がばっと身を起こす。起き上がりこぼしみたいな勢いだった。
なんかそういう玩具みたいな勢いで強制覚醒に至った桃介。私の知る限り学園一の回復力を誇る奴でも額を針でぶっ刺されれば涙の一つも滲むらしい。でも針の刺し傷って、傷としてはそんなに大きいものではないから。
「ちょっとなんなのさ!」
あ、やっぱもう回復しとる。
痛みは欠片も尾を引いていない様子。
ただただ混乱と怒りに満ちた目で周囲を睨みつけ……睨み……ぐるりと視線をやって。
気づく、周囲を取り囲む……桃介にとっては微妙に見慣れたような見慣れないような面子。
白雪姫を取り囲む七人の小人みたいな構図だね? 小人じゃないけど。むしろ七人の悪党って描写した方が属性的には近い気もする。同じ人類だし。
「なんなのさ……?」
疑問符をぴょこぴょこ生やす桃介。
こいつ、回復早くて痛みがすぐに無くなるせいか、痛い目に遭わされた恨みも割とすぐに忘れる傾向がありそうなんだよなぁ。痛みで学習できない男、桃介。まあ、それで以前、聖獣様の山まで連れて行く羽目になったんだけど。
桃介を取り囲み、見下ろす無言の周囲。
寝台の上できょどきょどと忙しなく首を動かし、周囲を気にする桃介。
私達は待っています。
立っている周囲の人ばかり気にして、見上げ気味に視線を巡らせる桃介が、隣の『彼』に気づくのを……ほら、こういうのって自分で気づいてくれないと滑った感増すじゃん?
果たして、その時がやってくる。
ようやっと隣の『存在感』に気付いた桃介が、何気なく目をやって。
びくっっっ
肩が揺れた。
隣に寝転ぶメジェド神の虚ろな眼差し(※絵)が、桃介を見上げていた。
あの後、桃介が毛を逆立てた猫並みに叫ぶやら騒ぐやら、威嚇するやら。
あまりにギャンギャン煩いので、メジェド神の皮(※シーツ)を剥ぎ取った。すると中には赤太郎が。
怪訝そうに赤太郎の顔を数秒凝視して、赤太郎だと気付いたと同時に。
ハッと自らの顔を指先で押さえる桃介。
察しの良いやつは嫌いじゃないよー?
桃介はサイドテーブルに置いてあった手鏡を鷲掴み、己の顔面を確認するや一秒。
声にならない悲鳴を上げながら、シーツを蹴立てて寝台からダッシュで洗面台へ駆け込んだ。
そこで、全身鏡でも見たんだろう。
意味をなさない、よくわからん奇声……否、悲鳴の尾を長く引かせていた。
一連の流れに、思うところがあったのか。
赤太郎は桃介が置き去りにしていった手鏡に手を伸ばし……彼は見た。己の顔を。
落書きという、無惨な爪痕を残す己が顔を。
赤太郎の悲鳴も。
もうこれで、今日何度目かなぁ。
言葉にならない悲鳴パートツー。
私の首を絞めかねん勢いで詰め寄ってきつつも、自身の顔を彩る『傑作』の大部分がそこにいる教官の仕業と知り、見事に膝から崩れ落ちた。
額の『ビーフ』は私の所業だが、逆に言うとそれしか書いてねーからな。赤太郎の顔面に関しては。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
私達は次に、第四のターゲットである青二郎の部屋へ向かっていた。顔面に仮面をつけた、桃介を連れて。
いや、なんかさ。
次の標的んとこ行くって言ったら勝手についてきたんだよね。
「僕だけがこんな目に遭ってたまるもんか……くくっ他の奴らも同じ目にあわせてやらなきゃ気がすまないよぉ?」
道連れを求めて。
「他のやつって……既に俺が遭ってるんだが?」
「僕より前にやられてた奴のことなんか知るもんか。僕を最後になんかしてやらないよぉ。僕自身の手で、同じ目に遭わせてやる」
若干闇落ち感ある暗い眼差しを仮面から覗かせる桃介。服は流石に自前の服に着替えられちゃったけど、仮面の下はまだ落書きフェイスなんだよなぁ。一回洗ったくらいじゃ落ちなかったから。
……そんでもって、その鬱憤を誰か別の奴にぶつけたい、と。
要は八つ当たりだな、これ。
「……しかし次の被害者はディースか。よく、あの厳格な青の国の王陛下に、こんなおふざけ企画を承認させられたな?」
青二郎を我と同じ目に遭わせたらぁと息巻く桃介からそっと目を逸らし。話題を変えようと赤太郎が別の話を振ってくる。しかしそれは、どうやら赤太郎の胸にずっと引っかかっていた疑問のようだ。
しきりと首を傾げる顔面落書きの王子様に、私は教えてやることにした。これでこいつ、未来の為政者だもんな。知っておいて、教えておいて損はなかろう。
「いいかい、坊や。根回しっていうのはだね? どんな経路で、どこから回すのかで時として結果が大きく変わってくるんだよ」
「幼子にお話する老婆みたいなトーンで話すの、やめないか?」
「ま、要はアレだ。最初に誰を抱き込むかが重要ってことだな」
各国の王家には王子、王女と呼ばれるお子さんが複数名いる。
例えば赤太郎んとこだと、妹姫がいるね? 兄妹仲はそこそこ良いって聞くよ。
黄三郎のとこだったら兄王子がいて、ジャイアンみたいな国王から度々幼い黄三郎を庇っていたとかで5つの王国でも一番兄弟仲が良いって話だ。
そんでもって桃介はひとりっ子。
さて、世の中には仲の良い兄弟もいれば、仲が悪い兄弟もいる。
青二郎んとこと、青汁んとこのことだ。
青汁は妹が何人かいて、一方的に青汁を毛嫌いしているという……さもありなん。私だってあんな狂人の兄は嫌だ。
そして私達がこれから襲撃に向かう青二郎だけど……男三兄弟で、聞くところによると使用人たちに「理詰めの正論長男と、嫌味な次男、皮肉屋三男」と呼ばれ、陰険三兄弟として恐れられているらしい。
特に青二郎と三男の仲が最悪だって言うんだから素晴らしい。
私はドキドキしながら、陰険兄弟の三男に宛てて手紙を認めた。
お前んとこの兄ちゃんを貶める企画立ててんだけど、一口噛まねえ?と。
……爆速で快諾の返事がきたぜ☆
「私が思うに、根回しってどの方角から回すかが重要だよね。私が口説き落とせないなら、それができる人からやってもらえば良い。青の国の王様に承諾をもらうのなら、王様の性格と青の国の流儀をよくよくわかっている人。それも青二郎を苦難に落とすことに一切の躊躇いがない、むしろ進んで叩き落とすことに加勢してくれる人から働きかけてもらうのが最適解ってね?」
「つまり、ディースの弟か……」
「確かにあの二人、仲悪いよねぇ。でも、よくあの三男が味方したね?」
「そこは仲が悪いからこそ、ですわ」
なお、青の国のご兄弟の仲が悪い件について、ナイジェル君にも裏を取ってもらっている。得られた情報によると、仲が悪くなった経緯は母王妃が絡んでいた。
青の国の王妃様は、八人兄弟の末っ子長女として産まれたそうな。七人のガサツでデリカシーがない兄に囲まれ、切実に、姉とか妹とか姉妹への憧れを強くしていたとか。だけど姉も妹もいないので、将来は娘が欲しいと思うようになる。
結婚して王妃となり、いざ産まれたのは男ばかりの三兄弟。王妃様は娘が生まれるまで粘ろうとするも、父と夫に家系図を持ち出した上で説得を受けたそうな。
曰く、王妃様の家系は紛れもない男腹。王妃様という女の子が生まれたのも、四代ぶりのこと。
家系図を見ると男ばかりの十六人兄弟なんかもいたりして、王妃様も望みを断念せざるを得なかった。
その代わりとして、王妃様の心を慰める為の代替品になったのが、彼女の息子である。
長男は王太子として相応しい行為でないからと、国王からストップがかかった。
そこで王妃様は、幼い次男……青二郎に女児用ドレスを抱えてお願いに行った。
幼いながらに青二郎は綺麗な顔立ちをしており、王妃様の期待も膨らんでいた……が、既に自我を確立していた青二郎は弁を駆使して抗った。自分より王妃様に似ていて女顔の三男の方が愛らしいドレスも似合うし、より長く付き合わせられると弟を贄に捧げて。
そして青二郎の必死のプレゼンにより、まだ自我も曖昧な幼い第三王子が母の趣味に付き合わされる事になった。週四で。
それは第三王子に声変わりが訪れるまで続いたという……具体的に言うと去年まで女装させられていたそうな。週四で。
その発端として、第三王子は青二郎への深い恨みを募らせている……。うん、無理ねーわ。当然の恨みだわ。身内に敵を作り、巡り巡って自らの足元を掬われる。人、これを因果応報と呼ぶ。
そんでもって律儀に母上様に付き合ってあげてた三男は結構な孝行息子だと思う。
「さて、そんな三男の見事な説得手腕により、無事に青二郎へのドッキリ決行と相成った訳だが」
「ディース……」
「僕も気をつけよ。なんか明日は我が身って言葉が脳裏をよぎったし」
「ソルフェリノは今更じゃないか……?」
「概ね自慢の外面の効果で僕に目立った敵はいないよ。身内とそこの撲殺女以外」
「その、身内の扱いには気をつけましょうって話だったんじゃないか? あと、ミシェルは今のところ撲殺未遂はあっても決定的な撲殺はしてないと思うぞ。今のところ」
「人以外なら撲殺してそうじゃない? 熊とか」
身辺には気をつけよう。
そんな話のオチがついたところで、眼の前には青二郎に割り当てられた部屋。
その戸口の前には、何やら見慣れぬ男がひとり立っていた。
服装には、見覚えがある。
たまに青二郎が連れている、奴の侍従と同じ服。つまりは、青の国の王宮に務める侍従のお仕着せだ。
でも、顔は見たことないな……。青二郎の侍従とは全然違うし、年齢も私達と同じか少し年下ってところだろうか。
見慣れぬ侍従は、だけど赤太郎と桃介の二人には見覚えのある相手だったらしい。
ぎしりと体を強張らせ、驚きの表情を浮かべている。
若い侍従はちらっと王子二人に目線をやった後、私達に向き合ってぺこっと頭を下げた。
「ミシェル·グロリアス嬢とその御一行ですね。私は青の国第三王子殿下の侍従を勤める者です。我が主の命により、皆様への助力と、より詳細な記録を残すために参りました。どうぞセリアンとお呼びください」
そう言ってキリッとした顔を作る、自称セリアン氏。
まだまだ早朝の時間帯、灯る明かりに照らされて、闇の中に鮮やかな青の髪と目が浮かび上がる。
……顔は知らないけど、特徴とかは知ってるんだよね。
本人が隠したいものを、空気を読まずに暴き立てたりはしないけどさぁ。
お前、青二郎の弟だろ。
青の国の、第三王子。
その名前は、セルリアン·ブルーというらしい。
青二郎の因縁(笑)を書いていたら長くなりました。
ドッキリ本番は次回となります。




