定期イベント:悪夢の寝起き☆ドッキリ大作戦 〜桃介編〜
赤太郎から、彼の解釈で『寝起きドッキリ』の概要が黄三郎へ説明された。
補足として、撮影された記録映像がお国元へ届けられる事実を付け加えておく。
「はぁ!? 親に映像が届けられるってなんだ!」
「えぇっと、なんでカーライルまで驚いているんだい……?」
「あれ? そういえば言ってなかったっけ?」
「なんてことを……! ちょ、その映像とか、渡せ!」
「王様に?」
「私にだよ!? 何が写ってるのか知らんが、寝起きのあの醜態が写っているのは確実なんだろう!?」
「うん」
「壊す……! その映像とやら、破壊してくれる!」
「壊したかったら、そこにいる魔法騎士コース最強の先生から奪い取ってください。がんばってね」
「はっはっは。この記録映像が欲しければ、俺を倒してみろ!」
「ちくしょう……! なんてひとを保管役に! 完全に悪ノリしてるじゃないかぁ……!」
「ははは……カーライルじゃないけど、本人の承諾はせめて取ってほしいんだけど?」
「親御さんからなら既に承諾もらってるんで」
「……先程の目覚め際の一連を父上に見られるのか。自力で起きて回避したからギリギリ及第点、かな……? 父上の満足する結果を出せなければ、こちらがどんな目に合うと思ってるんだ」
「それは鍛錬を怠って鈍った黄三郎の自業自得ということで」
「つかの間の留学なんだから満喫させて!?」
「満喫するのは自由だが、それで帰国後に苦労するのは黄三郎では?」
どうやら自分は故郷で待ち受けるであろう地獄のシゴキをぎりぎり回避できたと思っているらしい黄三郎。
ちらり、その顔を見る。
……だけどその額には、燦然と『マトン』の文字が鎮座しちゃってるんだよなぁ……。書いたの私だけど。
黄三郎はまだ気づいていない。
気づいて地面に膝をつくとこまで見たい気もするけど、次の予定が押している。
「それじゃあ、我々は次の予定があるので」
「つぎ、って……まだやるつもりか!」
「ターゲットの起床予想時間を過ぎない限りは敢行する予定だよ。幸い、残り三人は寝穢いっつか寝起き悪いらしいし。まだまだ起床予定時間前。まだイケる……!」
「まだイケるじゃないよ国際問題!」
「例によって例のごとく親御さんの許可は出てるから無問題! 根回し完璧にしておいたから問題なし!」
「なんでこいつに許可出しちゃったんだよ、各国王家……っ」
それはアレです。
ほら、企画書は精一杯まともに作ったから。
赤太郎は何を心配をしているのか、不安で放っておけないんでついてくるという。
一方で黄三郎は、碌なことにならなさそうなので、ご自分の部屋に残るとのこと。うん、それじゃあ身支度の時にでもゆっくり鏡を見てくれ。額にマトンって書いてあるから。
さて、次のターゲットはあいつだ。
待ってろよ、ピンクのポメラニアン……! じゃねえ、桃介!
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
次に向かった、ピンク野郎のお部屋。
その前では、静かにちんまり一人のお姉さんが待っていた。
桃介の親戚でお目付け役、以前私に桃介の素行を相談に来たあのお姫様。
ピンクの国の公爵令嬢、コーラル·ピンクトルマリン様だ。
「ごきげんよう、ミシェル様」
「おはようございます、コーラル先輩」
「今日はソルフェリノの安眠をぐちゃぐちゃにするのでしょう? わたくし、企画を耳にしてから本当に楽しみにしておりましたの。是非、参加させてくださいませ?」
「わぁ、大歓迎ですー★」
やった、先輩ったら超うっきうきしていらっしゃる。お陰で赤太郎が口を真一文字に結んで微妙な顔していやがるぜ。コーラル先輩はそんな赤太郎の顔を……正確には顔面の落書きをまじまじご覧になって、満面に超いい笑顔を浮かべた。わあ、輝いてるー。
「さ、ご案内しますわ。こちらでしてよ」
そう言って、お目付け役特権で入手したという部屋の鍵を堂々開けて中に入っていくコーラル先輩。我々は、その後にぞろぞろついていくのみ。
そうして案内された先で、我々は見た−−!
優雅に布団に寝そべる桃介。
そのボディには、明らかに誰かがやったとしか思えない悪意ある悪戯の痕跡が……
「コーラル先輩……?」
「何かありまして?」
これ、どう見ても一足先に始めてたろ。
桃介のお顔は、なんというか……立派なタヌキになっていた。アニマル柄ペインティングとは、こっちの世界ではなかなか新しいかもしれない。しかも顔面。
「寝間着は……弄られておりませんのね」
「あら、だってミシェル様はわたくしに意見を求められましたでしょう? わたくし、ミシェル様がご用意くださるモノを楽しみにしていましたのよ」
「そっかー、あの案そんなに気に入ったんですかー」
意外性と、ミスマッチ。
貧相な桃介であれば、殊更に……これはねーだろって衣装を着せて貧相ぶりを笑いたい。
コーラル先輩とそんな話をして笑い声溢れるお昼休みを過ごしたのは、一ヶ月は前だっただろうか。
コーラル先輩が楽しみにされたいるということで、私は鞄からソレをズルリと取り出す。
グラディエーターとか、スパルタ兵並の露出度。
トゲトゲと黒革と、銀色に錆の浮いたごっつい鎖。
蛮勇という言葉を連想する男臭さ。
その格好は言うなれば……無惨に飛び散るはずなアレ。
このニュアンス……これがわかる奴は、まず間違いなく80年代の少年漫画、アニメに理解があるはずだ。特に一子相伝の暗殺拳とかに反応しちゃう人種のはずだ。なお、前世の私は両親がその世代である。
「ミシェル……? それは?」
「桃介に着せる衣装」
「衣装……衣装? え、布面積足りなくね?」
「ベルト? と黒い革ズボン、に……シャツはどこだ?」
「なんか、絶対布足りないって。主に上半身に」
「いいえ、これで良いんです」
「なんでこれ、こんなトゲトゲしてんの……?」
「仕様です」
「そっか、仕様かぁー……」
仲間たちの怪訝な目に、私は満面の笑みで着用した場合の完成図を説明する。流石に子爵令嬢の立場で野郎のお着替えを介助する訳にはいかないからな。今回も着替えは野郎達に丸投げだ!
「え、これどう着せたら正解なんだ……?」
「なんかベルトみたいなパーツ多いんですけどー?」
「説明書とイメージ図渡すから頑張れ」
「わーお、丸投げかよ」
「このイメージ図、なんでモヒカンなんだ……?」
何この格好と言いつつ、素直にイメージ図を眺めながら桃介の寝姿をカスタマイズしていく姿に、皆の順応性の高さが感じられた。麺棒で叩きまくった鶏肉並みに柔らかい。柔軟なのは良いことだ。
さて、野郎どもが桃介の寝間着を剥ぎ取っている間に……私は桃介の寝相で乱れた寝台のベッドメイキング(笑)でもしてやろーかな!
枕元には定番(勝手に決めた)の冒涜的な邪神像。
桃介の隣には……
「エドガー、上半身裸になって桃介の隣に寝そべる気、ない?」
「勘弁しておくんなまし。わたくし、今は桃介殿下のお着替え介助で忙しいので、他を当たってくださる?」
「ならば致し方なし」
私は畳んで持ってきていたシーツを広げた。
綺麗なドレープができるよう、随所をちょっと縫い留めた上で、人がシーツを頭から被った場合、顔の上になるあたりに大きな、虚無感溢れるぱっちりお目々と凛々しい眉を描き入れたソレ。作ったのは私だけど、我ながら古代エジプトの風を感じる……!
私は布を手に、誰か暇そうなやついねーかな、と周囲を見渡し……寝起きドッキリに加担したくないのか、手持ち無沙汰に端っこで佇む赤太郎を見た。
「赤太郎、ちょっとこっちに」
「嫌な予感しかしない……なんだ?」
ノコノコとやってきたな。
赤太郎、メジェド神って知ってる?
目から光線発射するらしいよ。
僅かな時間をかけた後、桃介は凄いことになっていた。
凄い、……貧相だなぁ。しみじみ思っちゃうね。
栄養状態は良い。骨が浮いたりはしていない。
ただなんというか……贅肉はないけど、筋肉もないんだよなぁ。これで運動らしい運動を普段からしてないって言うんだから、今はただ代謝が良いからスッキリ細く見えるだけで内臓脂肪率は高いんじゃなかろうか、と、私は怪しんだ。
これ若いうちは若さで何とかなってるけど、ある程度の年がいったら反動来るタイプだろと推測する。要はアレだ、一気に中年太りするタイプだろ。
そうか、乙女ゲーム的な細身の王子様って奴ぁ、中年期に一気にぷよるタイプなのか。さもありなん。運動不足だ、運動不足。ぷにっとなぁ!
そんな貧弱ボディが身に纏う、世紀末の雑魚キャラ的なコスチューム。うむ、思った通り貧相さがますます際立ってんなぁ。
更に、これにプラスして。
途中からなんか混ざってきたんだよね、桃介の使い魔が。
それも一応は主に当たるはずの桃介への暴挙を止めるわけでもなく。私達が何をやっているのか、五秒くらい、じぃっと見つめた後。
何やらラブリー♡でファンシー☆な杖を取り出すや、しゃらんら一振り。
それだけで、桃介の腹に現れた。
腹に真っ赤な大口、鳩尾に鷲鼻、乳首を瞳孔に見立てた胡乱な眼差し。
顔面を模したペインティングが。
これはもしや……昭和の定番宴会芸:腹踊りのアレでは?
結論。
フェアリーなゴッドファーザーも、桃介への嫌がらせには超乗り気だった。
この妖精も使い魔の割になかなかの悪意をおもちのようだ。まぁ、桃介とは性格が合わなさそうだしなーぁ。
「さて、最後に……私が一筆入れてしんぜよう」
手に取り出したるは、毎度おなじみ顔面落書き様に用意してきたインク内蔵の絵筆。
なーんて書こうかなー。今まで赤太郎がアレで黄三郎がアレだろ? ……うん、決めた。
これをさらりさらりと桃介の額に滑らせる。
『コンビーフ』
……よし、中々に混沌とした有り様だ。
これ以上、寝姿に弄る部分が見当たらない。
で、あれば……そろそろお目覚めの時間だな。
しかしトゲトゲアーマー(肩)とかつけられてんのに、よく寝られるなぁ。絶対に寝心地悪かろうに。
生ぬるい眼差しを、仰臥する桃介に向けながら。
私は最後の仕上げとして……隣で淑やかに佇みつつ、目だけをわくわくという擬音付きで輝かせるピンクの国のお姫様にそっと手渡した。
丁寧に折り上げた……紙クラッカーを。
さあ、先輩……それ力いっぱい全力で振ると、とってもいい音鳴るヨ。具体的に言うと紙の破裂する音がするヨ。
コーラル先輩はちょっと考えて……ふるふると首を横に振り、紙クラッカーを戻してくる。
「私のこの腕では、大した音にはなりそうにありませんから……」
「成る程。では此方ですね」
そうして取り出しましたるは――……厨房からいただいてきた、腸詰め用の豚の腸ー!
これを思いっきり限界まで膨らませたものと、針をセットでお渡しした。
先輩は、とってもいい笑顔だった。
次回、子供の夏休みのお楽しみ的なアレが青二郎を責め苛む……!
a.黒光りするアレ
b.夜空に一花咲かせるアレ
c.精霊流しでド派手に弾けるアレ
(※小林は長崎県民)
d.先端から水が発射されるアレ
e.厳密には野菜に分類されるくせに高級果物ぶっているアレ
f.藁人形




