定期イベント:悪夢の寝起き☆ドッキリ大作戦 ~導入編~
出来れば、なんとか、7月中に投稿をと思いまして。
なんとか間に合いましたー……
夕食後、食堂を後にして部屋へと戻って私は気付いた。
ドアを静かに開けた、そこ……灯りなんてまだ点けていないのに、光るナニかがある。
……いいや、いる。
窓辺に置いた、お出かけ用精霊棚。
そこにふよふよと漂う……手のひら大の光。
私といつも一緒に行動してくれる、シアン様・マゼンタ様・孔雀明王様は今も私の側にいる。
それじゃあ、あの光は?
それにそもそも、光の纏う色が違った。
なんだか柔らかいようでいて、鋭い。
そこに儚さを含めたような透明の白。
光は窓辺から差し込む月光に、よく似ていた。
光は開かれたドアから差し込む明かり、それから私に気づいたかのように一拍の間を置いて、すぅっと消えてしまった。
「この島を縄張りにする精霊様かな?」
合宿が終わるまでに、仲良くなれるかな?
さて、明日の朝は早いぞ。
なんだかんだ濃い一日を……本当に濃いな?
うん、一日目からめっちゃ疲れたし、もう寝よう。
--夜明け、少し前。
まだ空は暗く、青みすら差さない空。
私は予定していた通りのタイミングで目を覚ます。
室内には照明によらない仄かな光。
精霊棚の周囲で舞い飛ぶ精霊様。
赤と青と、緑と……またしても、見慣れぬ光が一つ。
シアン様の青より淡い色合いに、一滴の紫を混ぜたような……日の出前の空を思わせる青灰色。
見慣れない色合いの光は、私が身を起こすとハッとしたように一瞬動きを止めてからすぅっと消えてしまった。
「さあ、急いで身支度しなくっちゃ」
待ち合わせに遅れて、待たせるわけには行かないもの、ね!
私はかねてから用意していた小道具を手に、夜明け前から意気揚々と自分の部屋を後にした。
さーてと、まずは談話室だ★
朝(※夜明け前)の談話室には、キンと冷たい空気が満ちていた。
夏でもやっぱ、この時間帯は少し寒い。
そんな談話室の真ん中に、私に求婚中の少年……ヒューゴの姿。
私が誘ったんだから、いるのはおかしくないが……あいつ、なんで武装してんだ?
剣を持っているだけでなく、訓練着に革製の部分鎧まで……今から果たし合いにでも臨むつもりか?
「ねえ、なんでヒューゴのやつ武装してんの? ちょっと物々しくね?」
「ミシェル、お前なんて言ってヒューゴを誘ったんだよ」
「ミシェルが原因ですわよねえ、どう考えましても。仮にも求婚者になってくださった殿方を差し置いて、早朝から複数名でとはいえ別の殿方を訪ねるのは誠意に欠けると言って、自分で誘っての事ですもの」
「あるぇ……おかしいな。私、武装してほしいなんて言ってませんわ」
「じゃあなんて言って誘ったんだ?」
「『明け方の談話室で待つ』って。ヒューゴの方が先に来たけど」
「ミシェル……」
「それ、決闘の申し込みに聞こえるよ……?」
「なんですとー?」
え、そんなつもりはなかったのにー。
素でちょっと驚く私と、私を呆れたように見やる我が班のメンバーたち。
ヒューゴがそんな私達を、解せぬとでも言いたげな目で見ていた。
そうね、そうだよね……果たし合いだと思ってきたんなら、相手がちょっとした集団で来たんだものね。一対一の決闘ではなく、一対多数の卑怯試合を仕掛けたんじゃないかと疑われないか心配だ。私、決闘でそんな卑劣なことしないもん。合法的に殴れる獲物を、誰が他の奴に渡すかよ。殴っていいなら一人でやるね。
「おはよう、ミシェル」
「あ、おはよ。ヒューゴ」
「それで? わざわざ他人には聞かれないよう、声を潜めて呼び出すから何事かと思ったが……オリバー達がいるところを見ると、決闘ではなかったようだな?」
「ほら、やっぱりー。やっぱ果たし合いだと思われてんじゃん、ミシェル」
「ははは、残念ながら決闘じゃないんだよ」
「それじゃあ早すぎる朝練……でも、なさそうだな。お前たちの装備を見るに?」
「武器も防具も持ってねえしな、俺達」
「むしろ何を持ってるんだ? ヌイグルミに塗料に筆に……? 予想外の荷物に疑問が絶えないんだけど、複数名の集まりであることも踏まえて聞くが、これから何をするつもりなんだ」
疑問符目一杯の顔で、メッチャクチャ不審げにヒューゴから問われる。
それに私達はめいめい、自分の言葉で答えを返すのだった。
問、何をするつもりなの?
以下、各自の答え。
「安眠妨害」
「迷惑行為」
「悪戯……?」
「常在戦場の心得的な?」
「早朝寝起きドッキリだよ」
さーて、どれが誰のお答えだ?
ちなみに私の回答は寝起きドッキリである。
なお、ヒューゴにはますますもってわからんって顔された。まあ、こっちの世界に寝起きドッキリって企画の概念はねーからな!
「うぃー……よっす、おはようさん。お前ら本当に早いな」
「あ、先生だ。おはようございまーす」
「それでなんだっけ、お前ら。何やるって? こんな朝っぱらから俺に監督まで頼むんだ。もう準備はできてんのかー?」
「やっだ、先生ったら。企画申請したとき、自分もノリノリだったじゃないですか」
「え、監督……? ミシェル、まさか先生まで計画に引っ張り込んだのか!?」
「当たり前じゃん? なんで驚くの、オリバー」
「いや、だって……こんな迷惑行為に先生を!?」
「ふふ、だって考えても見てよ。こんな早朝からのお騒がせ企画、しかもターゲットは学生とはいえ身分的には要人そのもの。そんな相手に仕掛けようってんだから、下手すれば曲者扱いされるわ。回避策として先生を引っ張り込むのは、むしろ当然では?」
なお、学校側に許可を申請する際、企画の名目としては『常在戦場の心得を平和的、安全に骨身へ叩き込むための試験的試み』と銘打って提出してみた。
魔法騎士コースの先生方には馬鹿受けした。
結果、ノリノリで学校の偉い人どころか、各王宮にまで話を通してくれたんだから、この先生は本当に侮れない。
蛇足だけど、特に各王宮から抗議のたぐいはなかったらしい。「その話もっとくわしく?」的なニュアンスで、詳細についての問い合わせはあったらしいけど。そして企画書として、私が先生方に提出した企画書が原本ままで提出されたらしい……なんで抗議なかったんだろうね? ただ企画実行中の様子に関するレポートと、緑の国で最近開発されたビデオカメラ的なマジックアイテムへの録画提出の義務だけ求められたそうな。特に王妃様から。
……息子がドッキリ仕掛けられて七転八倒する光景でも見たいのかしら?
秋に控えるチャリティーでの芝居小屋へも割とあっさり許可をくれたし、申請すれば通るもんなんだなぁ。うん、息子さんの扱いちょっと軽くね?
学校側から正式に許可を得ている件について驚く班員、欠伸を噛み殺す魔法騎士コースの担当教官。未だに状況がわからず怪訝な顔のヒューゴ。
ちょっぴり場が混沌としてきたが、時間がない。何しろ標的が目覚める前に仕掛けないと寝起きドッキリにはならんからな!
場の移動を促し、ヒューゴには道すがら寝起きドッキリの概念を教え込む。
「そして本日の標的が寝ているのがこちら、あかにゃんこチームに割り当てられた部屋……と見せかけて、王族用に特別に準備された別館です。ここのとある一室に奴はいる」
「え、赤太郎殿下だけ別室なのか?」
「おい、お前達。薄々察してはいたが、殿下が標的か」
今回の合宿、宿舎の部屋割は班単位になっている。
即ち、基本は一部屋五人部屋だ。
そんな中で魔法騎士コースの闘う紅一点・私ことミシェル・グロリアスは教員・生徒問わずの満場一致で一人部屋を与えられていた。まあね、私ってば女の子だもんね。生物学的には。
学校側としてもウチの生徒に限って問題なんて……と信頼を与えたふりをしつつヤキモキするより、初めから間違いの起こりようがないよう環境を整える方が正しい対応だ。杜撰な対応してたら保護者からの突き上げも喰らいかねないしね。
当初は他コースの女子と同室にするかという案もあったらしいが、コースが違えばカリキュラムも違う。当然ながら合宿中のスケジュールやら何やらも違う……となれば、同室にするとかえって互いのストレスになりかねないって事で結局は一人部屋が与えられた。それも魔法騎士コースの学年主任と、コース内の数少ない女性教員の部屋に挟まれるような配置の一人部屋だ。何を警戒しているのか考える気にもならないけれど、私の部屋に誰かが侵入したり、逆に私がこっそり部屋を抜け出せばすぐに先生方に把握されてしまう配置である。そういう事もあって、先生方を企画sideに引きずり込んだのは正しかったと確信している。じゃないとこんな早朝に無断で抜け出したなんて、すーぐバレてお説教である。よかった、事前に申請していて。
私に与えられた一人部屋は特例措置みたいなもの。
そんな私とは別に、やっぱり特例措置的に一人部屋を与えられた奴らがいる。
赤太郎をはじめとする、各国の王族共である。
普段のセキュリティが万全な魔法学園であるならばともかく、今は合宿の為に遠方に来ている。当然ながら普段の警備体制と同じ環境を作るのは難しく、王族という学生でありながら要人でもある面々は他の生徒達と同じように班で与えられた一部屋に寝泊まりする……のではなく、臨時で警備増強された特別棟に部屋が与えられている。
いわゆる隔離ってヤツだね。
赤太郎本人にはそんなこと言わないけどね。
なお、ちらっと魔法騎士コースの先生に聞いたんだけど、赤太郎達の部屋が特別棟に隔離される決定が下ったのは、私が申請した寝起き☆ドッキリ企画を王宮に提出して承認貰った後だったとかなんとか……私の胸に一つの疑惑が浮かんだんだが、これは気のせいなのかしら。
……王様だか王妃様だか、どっちかは知らないけどさ?
セキュリティじゃなくって自分達の息子(赤太郎)が寝起き☆ドッキリされるシチュエーションをばっちり万全に整える為、警備云々を建前にターゲット共を隔離してくれたんじゃねーかって思えてくるのは、やっぱり気のせいなんだろうか。
王族用の特別棟は、教職員の見回りだけじゃなくって二十四時間体制で専属の警備が付いている。何時間ごとの交代かは知らないが、ご苦労様です。
事前に企画申請して許可をもらっている私達は、そんな厳重な警備を素通りだ。
警備のお兄さんたちと軽く会釈し合って、特別棟に足を踏み入れる。
……一瞬、私達こそが曲者なんじゃねって思ったけど、そんな心の声はそっと胸の奥深くに封印しておこう。
こうして、何の問題もなく。
むしろ警備のお兄さんのお一人が御親切にも案内に立ってくださって、私達は無事に目的地へ辿り着いた。赤太郎の眠る、仮称『赤の間』に。
さーて、赤太郎よ。
のんびり惰眠を貪る平穏はないものと知れ。
さあ、今から楽しい襲撃だ☆
首を洗って待ってろよ!
……と、そんな訳で寝起きドッキリが正解でした☆
さあ、標的になっちゃった赤太郎に待ち受ける運命は!?
a.顔に落書き
b.寝ている内にお着換え
c.枕元にSAN値の下がりそうな置物安置
d.目が覚めたら隣に誰かが寝ている……
e.耳元で風船破裂
f.ベッドの中に危険生物
g.全部




