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騎士 3

更新に随分と間が開いてしまい、すみません。

秋からこちら、職場の体制変更によりポジションが変わって余裕と時間が中々取れなくなった小林です。

融通の利く人間が他にいないという消去法的な理由でね、ポジション変更の餌食ですよ。……お陰で残業時間が激増しました。

夏の頃からお話はあって引継ぎなんかも受けていましたが、やっぱり話に聞くのと実際にやるのは色々違いますね。上司のフォローはいただいていますが、ミス連発大発生です。残業続きで時間がないのもそうですが、仕事内容の変更点に馴れない状況故のストレスか、続きを書こうにも中々指が進まない今日この頃。

続きをお待たせしている皆様には、大変申し訳ないです……。



 他人の顔を借りて、騎士陣営の奥深く間で入り込んだノキア。

 恐らく、このまま潜入技術を駆使してターゲット(※枕カバー)を奪取する流れだったんだと思う。

 しかし偶然目にした私達のやり取りに、ツッコミを入れてしまったが運の尽き。

 ヤツの侵入を阻む八人の有志(内七名は先輩)により、ノキアは歩みを止める羽目となる。


「雉も鳴かずば撃たれまい。声を出したが運の尽き。ノキアよ、安らかに眠って?」

「あはは?ミシェル、これ訓練。不殺ルールだって覚えてる?」

「勿論覚えていますわ。お前はここで沈めてやんよ、ゲームセットまでおねんねしてなって意味ですわ」

「ミシェル、思い出したようにちょいちょいお嬢様言葉出して取り繕ってるけど、素の口調と本性、大概バレてるからね? 漏れ無くクラス全員に」

「それなら口止めと口封じを徹底するだけなので問題ありませんわ」

「ちなみに俺はどっち?」

「敵対するようなら口封じに決まっていますでしょう?」

「うわー、封じられーるー」


 私とノキア、二人軽口をたたき合いながらも視線や足運びで互いにわかっている。相手への、油断はない。

 普段からの授業や、クラス内格付け決定戦も兼ねて定期的に開いている模擬戦。

 同じクラスの私とこいつは、春からこちら、それこそ数え切れないほど互いに拳を交えてきた。

 ……ノキアと()ると、何故か最終的にいっつも泥臭い殴り合いになるんだよな。互いに回避型だから、殴っても互いに当たらない回数のほうが多くて長期戦と化すこともしばしばだし。

 赤太郎だったら問答無用で殴れるし、他の野郎どもだって基本武器を用いての勝負って体裁は保てるのに。ノキアと、あとセディは育ちのせいだと思うけど根本的に体捌きが他の面々とは隔絶している。人間の戦士というより、なんか野生の獣っぽいんだよなぁ。

 勝手が違うという意味では、クラスでも特に戦い難い相手である。つまりは、要注意人物ってこと。

 それでも試合だって回数を重ねてきたし、互いにある程度の手数を知っている相手だ。今まで積み重ねてきた経験から、やりようがあることを知っている。


 ――さて、ボコるか。


「って、待てーい」

「きゅっ」


 意気軒昂、やってやろうって今にも駆け出すその時。

 私は背後から襟首掴まれ釣り上げられた。

 先輩方、そこ掴むの好きっすね。

 あ、足がつかない……!

 

「せ、先輩?」

「グロリアス、そもそもお前がここに留め置かれている理由は? 覚えてるか?」

「え、と……経過観察?」

「体調を考慮して待機中のお前を戦わせる訳にはいかないんだよ。介護要員的に」

「はっ……そういえば!」


 うん、なんとなくそんな気はしてました。

 でも場の雰囲気でいけるかなーって思ったんだけどなぁ。

 実際、私の襟を掴んだこの先輩以外は忘れてたようだし?


「そういえばって、お前ら……」

「い、いや、ほらさ? 雰囲気に飲まれてたっていうか……なあ?」

「それはお前だけだぜ!」

「そうさ! 俺達は覚えていたとも!」

「いやいやお前らだって! 絶対、忘れてただろ!?」


 チッ……私の介護を任せられていた先輩方の、他の方々は存外緩いというか、雰囲気で押し通せばいける感じだったのに。運が良いのか悪いのか、中に一人真面目というか、責任感が強いというか、職務に忠実な方が紛れ込んでいたようで。その一名によって、私の参戦は食い止められつつある。

 なんて残念なことでしょう……!

 安静とか経過観察とか、そんなんどうでもいいから()り合いたかったのに! どうせ普段の学園での実戦訓練中とか、師父との一対一での修行中とかもっと荒々しい感じにアレやコレやが発生しても、その結果として怪我をしようが昏倒しようが、気力と根性とその他諸々の力によって速攻で訓練復帰を遂げてるっての。そんな日常。そんな毎日で今更一回気絶したからって、そこまで大事を取る必要があるようには思えないんだな、これが。


「えー! やだやだ戦うー! ノキアをボコすー!!」

「ぼ、ボコすってお前さん……」

「やだ物騒。俺、危険じゃん」

「ノキアは危険を承知で一人で潜入かましてるんでしょー!?」

「それはそうだけどさー」


 断固として駄目だと言われ、襟首掴んで吊り下げられて。

 ああ、こりゃどさくさ紛れを狙いでもしないと参戦は不許可(むり)っぽいな、と。

 気真面目そうなストッパー的先輩の顔を見て、察する。

 ……となれば、だ。

 一番の希望が通りそうにないとなったら、次善の策を立てるべし!

 人にお願いをする時に不首尾となった場合、一番目の要求を跳ねのけられた分、第二希望は通りやすくなるのが定番って前に何かの折、お姉様達も言っていたし!

 お姉様達が何をどんな時に、誰にお願いした結果そんなことを言っていたのか知らないけど!

 知らないけど、何となく遠くのお空のお星さまに向かって、今晩にでもお姉様達の旦那様に激励(エール)でも送っとくか……。応援するだけならタダだし。


「それじゃあ先輩! 直接殴り掛かるのは諦めますわ」

「うん、それでいいんだよ」

「諦めますから!」

「……うん?」

「ですから、その代わりに第二希望を聞いてくださらないこと!?」

「却下の方向で」

「聞いてすらもらえない、だと……!?」

「なんだか嫌な予感がするんでな……言い包められたくないなら、最初から聞かないに限る!」

「先輩の危機管理意識が高すぎる!」


 そこをなんとかと再三頼み込み、渋る先輩には譲歩に譲歩を重ねてもらって超懇願した。

 そうして聞き入れてもらった事は、この一点。


 直接殴りかかるのは、諦める。

 だけどその代わり、間接的な参戦は大目に見て下さいませんか——と。


 つまり、何が言いたいのかというと。

 要はアレだ、私達は騎士は騎士でも、魔法騎士志望って事だ。

 遠距離攻撃の手段とか、普通に持ってるじゃん?

 魔法って言う、素敵な手段。

 私達の場合は精霊様にお力をお貸しいただく、精霊魔法なんだけれども。


 そしてアレだよ。

 私には三体の心強ーい精霊様がいるのだよ。

 シアン様・マゼンタ様・孔雀明王様という素敵なお三方が。

 彼らに力をお貸しいただいて魔法に専念すれば、それだけで遠く離れていようと参戦は可能なのだ。参戦する事だけ、はね……殴る蹴るの近接戦闘が出来ない事は、残念でならないんだけど。

 固定砲台役は、なんだか性分に合わないんだよねぇ。

 何しろ私の魔法って、アレだし。

 精霊お三方にお願いするだけで、他の人たちと違ってほぼオートみたいなものだし?

 シンプルに精霊様と意思疎通を図れば良い物を、無駄に小難しく考えた結果、精霊様とコミュニケーションに務めるんじゃなくって呪文だなんだって精霊様へ迂遠な指示出し方面へ突っ走った方法で他の人は魔法を使っている。アレはまあ、指示した通りに魔法が発動すれば自分でやり遂げた! って実感も強くあるだろうけれども。

 私は日常的に精霊様とのコミュニケーション良好だし、精霊様達自身が優秀なんだもの。


 結果。


「シアン様、なんかいい感じにお願いします!」

『心得た』


 割と精霊様の判断に任せた大雑把なおねだりに、シアン様は快く応じて下さって。

 こちらの陣営の戦闘要員達を勝手に避ける軌道で、水円がノキアを襲う!

 それも四方八方から……日々鍛えている動体視力で目視確認したところ、合計で九つの水円がノキアに飛来していた。それも一つは他の八つの派手な動きに紛れるようにして、ノキアの背後、地面すれすれの足元からギュンっと飛んで迫り寄る。


「あっぶねぇ!!」


 しかし一体どんな勘をしているのか。

 ノキアもノキアで直前すれすれに気付いて避けるし。


「ミシェル! これは流石に洒落にならねえって!」

「大丈夫ですわよ、ノキア! 速度は異様に速いが、切れ味はそんなでもねーらしいから。切断してくるタイプじゃなくって、むしろインパクトの瞬間に弾けて水浸しにしつつ纏わりついてくる感じの粘着力マシマシタイプらしいから!」

「らしい、らしいって何!? なんだよ、その伝聞調! お前がやってるんだよね!?」


 そりゃお前、シアン様に「なにやったの?」って聞いて教えてもらった内容なんだから伝聞調にもなるわな。


 水系の攻撃魔法っていうのも、やっぱりそれなりに確立しているようでして。

 高速回転する水の輪で切断力を持たせるって言うのは、結構昔からあるらしい。水圧でモノを斬るとか前世の世界にはそんな感じの機械があったような気がするけれども。

 だけど水の刃は、殺傷力が高すぎる。

 魔物や犯罪者相手ならともかく、訓練で相対しているだけの同級生にそれをやるのは鬼の所業だろ。

 騎士には『相手を生かして捕らえる』って言うのも必須の技能だ。

 水に限らず、殺傷力が高くなりがちな魔法の使い手達は、そういう時に取るべき手段をそれぞれに技術と工夫で身に着けるものなんだが。

 私と仲良くしてくれている精霊様達の中で一番知性がありそうなシアン様の選んだ手段は、ずばり剛速球ばりの速度で『スライム化した水』をぶつける、というモノだった……

 うん、シアン様? なんでそんな方法選んだの。

 スライム剛速球とか、普通に当たったら痛いだろうし、粘着力を活かして絡みつけば行動の阻害にもなるだろうけどさ……ちょっと私にはない発想だったので驚いちゃったよ。

 まあ、ノキアの奴(ターゲット)には全部避けられちゃったんだけどな! 優秀な野生の勘を持ちやがって……!


「驚いたな……」

「何がですか、シトラス先輩。言っておきますがノキアの曲芸じみた動きは、まだまだ本領じゃ……」

「いや、そっちじゃなく。そちらも凄くはあるんだが……それより、お前だ」

「はい? 私ですか?」

「今の魔法だよ。あんな大雑把な行使であんなに精密な……制御も完璧じゃないか」


 ははは、凄いでしょう?

 全部、精霊様(プロ)のなせる業ですから。


「あんなの、実践魔法コースの上級生でも中々出来るものじゃないぞ」

「精霊様との信頼関係の賜物です」

「良い物を見せてもらった。ここは礼として、俺も手札の一部を見せてやるべきかな。先輩らしく、下級生には凄い所を見せてやろうじゃないか」

「へえ、良いんですか?」


 私、シトラス先輩の護衛対象たる青汁にとって、現時点で一番ダメージ(物理)を与えてる相手だと思うんですけど……そんな護衛対象を加害している私に、手札を見せてくれると?

 まあ、見せてくれるなら見るけれども。

 正直なところ、緑の国の戦闘員がどんな戦い方をするのか純粋に興味があるし。


「だったら先輩に、後輩からも助言を一つ」

「ほう、助言?」

「ええ。実はノキアの実身長、結構低めなんですよね」

「うん?」


 クラスでも一二を争う低身長、ノキア。

 実在する先輩に化けているからだろう……目測だけど、今の奴は実際の身長より十㎝は背が高く見える。そしてノキアは、前にこうも言っていた。「体が大きい相手に化けるんなら詰め物をすれば良いけど、自分より小さい相手に化けるのは大変なんだよね。短時間なら誤魔化せるけど、本当に体を小さくは出来ないから」って。

 大きく化けるなら、詰め物をすれば良いって言ってたもんね。

 そんでもって今回の一番のごまかしポイントが身長だよ。

 うん、ノキアさ……お前その足、アレだろ。シークレットブーツだろ?

 それも軽く十㎝誤魔化してる、ときたらさ……


「狙い目は、足元です」


 そこ狙うっきゃないだろ。





ノキア

 赤の国の裏社会に棲息する非合法組織に所属していた元暗殺者(見習い)。

 元々自分達でも非合法で暴力的なアレコレをやりつつも、メインの仕事として裏社会の各組織向けの人材育成及び派遣という名の人身売買を行っていた組織の為、早くから才能を見出されて徹底的に暗殺者としての教育を受ける。なお、本人的にはご飯が出るから、まあいいや! で教育内容は流していた模様。

 そして実戦投入前に組織が国の治安維持組織によって壊滅。ノキアを含む裏社会向けのエリート教育を受けていた7人の子供が被害者として保護された。

 そこから更正プログラムを受け、やっぱり取り柄は戦闘能力! なノキア少年は騎士を目指すことにしたそうな。社会復帰の一環として学園に放り込まれ、今に至る。

 なお、保護された子供達は全員、なまじ技術と知識がある分、何かのきっかけでまた裏社会へ転がり落ちかねないので国から定期的に動向を観察されている。

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>体調を鑑みて よくある「鑑みる」の使い方間違い(誤用)ですね。 「(今の)体調を考慮して、」 という意味で「鑑みる」使っているんだろうか。 と思いますが、そういう意図での使い方は出来ません。 そも…
どんまい(汗) マジで本編の内容が吹き飛びかねない嫌なリアル事情だった(汗) 消極的な理由で選ばれた後任ってのがなぁ…せめてお前なら安心して任せられるとか声掛けしてくれればいいんだけど。 そして肝…
ぎゃあ!配置換えの理由が理不尽! 無理しないでくださいね! ミシェルが駄々を捏ねてるの可愛い〜!言っていること物騒ですけどね。その落差が好き
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