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暗殺者 5

とうとう安全性皆無のフリーフォールに挑戦☆しちゃうことになったミシェル嬢。

今回は青次郎が久々に酷い目に遭います☆



 わたしミシェル、いま空の上にいるの。

 自由意志で方向転換不可能な空の旅真っ最中でっす(やけくそ)。

 とりあえず方向転換は無理だが、望んだ地点から自由落下はできそうだ。

 そんな時、地上に青次郎を見つけちまった訳だが。

 おうおう奴さん、見たところ実践魔法コースで何らかの実習中ってとこか?

 真面目な指導中、空から乱入かますのは、ちょっと申し訳ないが。実践魔法コースの先生に。

 しかし、こっちも切羽詰まっている。

 特に、謎の巨大鹿への対処に困っている。


 えーい、いちいち悩むだけ時間の無駄!

 ここは容赦せず巻き込んだれ☆

 今はとにかく対処に当たる人手が欲しいし!

 不測の事態への対応能力を磨くのも、将来の為だと思って!

 そーれ、れっつ落下☆


 我ながらテンションおかしいな、と。

 思わないでもなかったが、多分非日常の連続でナニか切れちゃいけないものがプッツン逝ってたんだろう。

 しかし、こうも思う。

 こんな時こそ、ノリと勢いだ、と。

 だからこそ、私は決行した。

 私式、「親方、空から女の子が!」を。

 なお、女の子=自分である。


「シアン様!」

『委細承知』


 慣性の法則に引っ張られて空を真っ直ぐ行く私の前方に、シアン様の声と時を同じくして現れる大きな水球。

 シアン様によって生み出された空中の大きな水たまりに、私は全身で飛び込んだ。


 そんでもって、落ちた。

 予想通りの自由落下。見事なまでの墜落だ。


「みぃぃぃいいいいいっ!?」


 感想?

 流石に心臓に悪かったとだけ言っておきますわ。


 だってアレじゃん。

 紐なしバンジーじゃん。


 私の肩でチビ亀ちゃんが、なんとか浮上しようと奮闘していたようだけど……残念!

 どうやらチビ亀ちゃんはチビすぎて、私を引っ張って飛べるほどの力はないらしい。単純に馬力不足だった。

 流石に縁日の屋台で売ってるサイズの子亀には、親ほどのミラクルパワーはなかったらしい。これから成長したらどうかわからんがな!

 うちのチビ亀ちゃんには往生際悪く足掻くのは諦めていただいて、粛々とお付き合いしてもらおう。

 死なば諸共、道連れだー☆


 そして私は落下した。

 まっすぐ地面に向かって。

 落下して、着地した。


 何も変わらぬ周囲の景色。

 私一人がシアン様の水と一緒に滑り落ちていく。


 あ、このまま落下したら直撃コースじゃん?

 進路方向、微調整微調整……流石に脳天ど真ん中へ不意打ちクリーンヒットなんぞかましたら、耐久力突き抜けて即死しかねないからな、あのモヤシ。だってモヤシだもん。

 モヤシの素の防御力はお察しのとおり紙もいいとこだが、それでもとっさに僅かなりと身構えられるかどうかってのは、結構響く。青次郎の場合は肉体強度も身体能力もお粗末なもんだが、とっさに防御魔法を脊髄反射レベルで使ってきたりするし。

 学園入学直後はそこまで術の展開速度も早くなかった記憶があるが、授業の一環で定期的に魔法騎士コースとの模擬戦(殴り合い)を繰り返していたからか、日を追うごとになんか目に見えてどんどん防御系の魔法が巧みになってったんだよな。こいつ攻撃魔法特化の、いわゆる固定砲台タイプの魔法使いだったはずなんだが。

 今じゃ攻撃魔法と同じくらい……いや、最近じゃ僅かに防御系の方が(こな)れてるかな? とにかく、オールラウンダーって言うには足りないけど、攻守に長けた術者として成長しつつある。

 おかしいな? 記憶が確かなら、乙女ゲームじゃ前のめりに攻撃魔法をぶっ放して防御捨ててた気がするんだけどな?

 ゲームとは違って、なんか心境に変化でもあったらしい。切実に防御の必要に迫られる体験でもしたんだろうか。(←元凶。)

 まあ、邪神復活前のご時世だし、戦闘能力は磨いといて損はないだろう。やれること、得意なことが増えれば即ち戦術の幅が広がるってことだし? 特に防御能力が磨かれるんだったら継戦能力だの生存率だのが思いっきり伸びるだろうし。

 ……うん、最近の青次郎の成長はいいことばっかだね!

 そんな最近になって防御力上昇中の青次郎(モヤシ)な訳だが、それでも認知外の攻撃に弱いって弱点がある。死ぬ心配がないなら全力で殴り飛ばすけど。殺しちゃわないか心配な時は、本人に防御させるべくワンクッション置かなくちゃいけない。

 と、言う訳で。

 私の進路は落下中ではあったけど、マゼンタ様達やチビ亀ちゃんに手伝ってもらって微調整。流石にまっすぐ直撃は避けた。

 あと、人がいると普通に着地の邪魔だし。


 実践魔法コースでは何かの実習中の模様。

 生徒達は間隔を開けて、先生の見ている前で数人ずつ何かをやっている。

 これぞ魔法使いって感じに、地面には大きな魔法陣が敷かれていた。魔法陣の数は四つ。その中央に一人ずつ生徒が立って、何かをしているらしい。

 自前の魔力だけで術を使えなくなって、魔法といえば精霊魔法な昨今。魔法陣とかほぼ形骸化していて、一部を除けばほとんど気休めみたいなもんだって聞いてるんだけどなー?

 もしやアレは、現代でも効果を持つ、その一部に当たるんだろうか。

 まあ、何にしても、間隔を開けてくれているのは個人的に大助かりだ。授業妨害もいいとこだけど、非常時だし許せ。


 そして、実習中の実践魔法コース生(一年)達のいるど真ん中に。

 私が降臨した。

 文字通りの意味で。


 着地の瞬間、いくら孔雀明王様の御力で身体強化しているとはいっても、このまま直で着地したら両足の骨が砕けそうな勢いだ。

 衝撃を和らげる為、着地地点と、そこへ到達するまでの宙空にタイミングを合わせてシアン様が大きな水の塊をいくつも生み出す。いきなりのことに、動きを止めて動揺を見せる実践魔法コース生。

 状況を鑑みてか、シアン様の出した水は通常の水よりも粘性を加えた特別なもの。スライム状一歩手前、ジェル状とでもいうか……そんな調整が咄嗟にできるシアン様って天才ではなかろうか。

 いくつもの水の塊を突き抜け、確実に勢いと落下速度を削ぎながら、落ちる。最後は着地地点の水(いきなり現れた)に足先から飛び込むように、空から降ってきた私。突然の事態に混乱する実践魔法コース生。


「な、な、ななな、なんだぁー!!?」


 それを結構な近い距離、眼の前で目撃する羽目になって余計に混乱する青次郎。ちょいと失礼しますよ、と。


「いいいいい一体何が!!? なにがー!?」

「うるせぇ」


 どぅふっ


 至近距離で、わたわた。ばたばた。あわあわと取り乱す青次郎。

 普段は冷静ぶってる奴が動転すると煩ぇな?

 あまりに煩いので、着地した瞬間のしゃがんだ姿勢から、一転。

 反動をつけて立ち上がる勢いを利用し、青次郎の喉元に一発。

 頭突き、命中。

 冷静さを欠いているところに、いきなりの衝撃。

 吹っ飛ぶ青次郎、恐慌の悲鳴を上げる周囲。

 あ、ごっめーん。立ち上がったら、ちょうどそこに青次郎がさー(棒)。

 ふっ……物理的に黙らせてやったぜ。

 うむ。10mは軽くいったな。まずまずの飛距離だ。しかも錐揉み回転付きである。

 見る見るうちに遠くへ飛んでいき、頭からずしゃりと地面へ落下する青次郎。

 咄嗟に防御シールド的な魔法をギリ一枚、展開するのが間に合ったみたいだけどな。ありゃ派手に吹っ飛んだけど、そこまでダメージいってないな。

 しかしふっ飛ばされることで、青次郎の意識は強制的に切り替わったらしい。

 そこで戦闘不能になったり、更なるパニックにならず意識が切り替わるあたりに、蓄積された経験を感じる。慣れって凄いね。前はすぐに物理攻撃一発ですぐに戦闘不能になるようなモヤシの極みだったのに。あの青次郎がこんなに育つなんて……戦闘慣れしてきたなぁって、ヤツの成長を実感した。

 青次郎は顎を押さえながら、警戒の眼差しをこちらへ向けて……


「っ何故、お前がここにいる、ミシェル·グロリアス! 白昼堂々、闇討ちか!」

「闇討ちって単語をいっぺん辞書で引き直してこい」


 私、めっちゃ堂々来たんだが?(※ただし上から)

 闇討ちって、姿を潜ませる闇がどこにある。

 青次郎お前、お勉強はできるんだろ?

 いくら動揺してたって、言葉のチョイスは間違えんなよ。途端にお馬鹿っぽくなんぞ。


「く……っ 今日はコース別行動の筈なのに、何故お前と顔を合わせないといけないんだ。しかも何故、降ってくる!?」

「いくらコース別行動でも、同じ合宿に参加しているんですもの。顔合わすことくらいあるわな。そんくらい想定しておけよ」

「空から来るとか想定しきれるわけがないだろう!?」

「やったね、学習の機会だ。今日っていう前例に遭遇したんだから、今後は想定しとけ。敵は空からも来ると……!」

「いま自分で、俺の敵だと認めたか……!」


 やあやあ、あれだね?

 普段からあまり不測の事態とは遭遇する機会も少なく、予定調和の日常を送ってる系のエリート様って奴はさ。

 こう……日常を掻き乱す、予想外の事態(ハプニング)に弱いよな。

 前、使い魔取得実習でも色々あったろーに……いや、あん時は同じ体験を共にする人間が複数いた上、メインで対処する人間も青次郎よりより被害に合ってる人間も別にいたから、そこまで取り乱してなかっただけか? つまり、アレだな? 混沌の矢面に立つと弱いと見た。

 人生はそれこそ不測の事態ってやつの連続だぜ、青次郎。今からそんなんで、この不条理に満ちた人生って波を泳ぎ切ることが出来んのかい? 特にお前、いざって時は国を背負って困難の真正面に立たないといけない、王子様なのにさ。


 そして、そんな青次郎を。

 空から私が降ってくる、以上かどうかは知らんが、少なくとも同じくらい予想外ではありそうな更なる不測の事態(ハプニング)を襲う!


 何が来たって?

 アレだよ、アレ。

 鹿だよ。


 実践魔法コースの皆々様が実習を行っていたのは、森が途切れた場所にある開けた草原だった。

 そう、広い場所ではある。

 だけど同時に、森と隣接してるのも事実。

 私がさっきまで巨鹿に追いかけられていたあ、あの森だ。

 つまり、追いかけっこの現場からは意外と近い訳で。一時的に距離を引き離してはいたけどさ……あの鹿の速度と勢いで追ってきたのなら、追いつけない場所じゃなかったんだ。

 地面へ降り立った後、場所を移動することなく私が此処に留まっていた事もあってさ。

 そんなところに、やって来た訳ですよ。

 追っかけてきた、あの鹿が。


 どっばぁぁあん、と。

 

 森の木々押しやり、足元の石やら障害物を吹っ飛ばしながら。

 ついでに、森の側にいた、青次郎を蹴り足一発で弾いて吹っ飛ばしながら。


 私によって10m程吹っ飛ばされた、青次郎。

 そこは、草原の中でも森の淵に近い場所で……うん、しかも私の方を見ていたからね。

 背後から物凄い勢いで迫ってきた鹿に気付くのも遅れたし、そもそも青次郎の身体能力(※どんくさい)では避けようもなく。せめてなけなしの防御魔法で我が身を守るに精一杯、というところか。

 踏み止まりようもなく、パチンコ玉のように吹っ飛ばされていったよ……。

 鉄砲玉という比喩表現は偶に聞くけど、青次郎の場合はパチンコ玉かぁ。


 一方で私は、ついに来たな、という気持ちでいっぱい。

 ほんのちょっぴり、姿を見失ったことで鹿が諦めてくれたらと期待もしていたけれど。

 でもさっきまで謎の執着で私(というかチビ亀ちゃん)をしつこく追いかけ回してくれたんだもの。

 そうさ、何となく、姿が見えなくなっても追ってくる気はしていたさ。

 だけどそれを見越して、私はここにいる。

 ここに、事態に巻き込む人員には事欠かない、人材豊富な実践魔法コースの実技訓練現場のど真ん中に!! 本当にごめんね、実践魔法コースの諸先生方! でも時には実践魔法コースのコース名にもある通り、学んだ技術を実践する場があっても良いと思うよ! 此処にいるの一年生ばかりで、実技経験に乏しいかもしれないけど!

 単純に人手が足りないって、思ってたからさ。

 強制的に巻き添えにしてみた。

 さあ、みんな! コースの枠を超えて、この困難に一緒に立ち向かおう!

 

 まだ何も解決していないながらも、なんか「やってやったぜ!」という気持ちでいっぱいの私。

 だけどそんな私の、心に僅かに生まれた余裕を嘲笑うかのように。

 蹴散らして巻き上がった土煙が収まってきた中、全貌を顕わにした鹿の、先程とはなんか違う姿が私に衝撃を与える。僅かの余裕も、掻き消すかのように。

 え、なにあの姿。

 私が現場を離れていた間に、鹿の身に一体何が——? 


 純粋に、びっくりしたわぁ。

 ええと、あのですね?

 なんでアンタ、巨鹿の背に、乗ってるんですかね……赤太郎さん。

 しかもお前、目ぇ回してんじゃねーか。落b……落鹿? すんぞ馬鹿!

 


青次郎の成長

乙女ゲーム⇒攻撃特化の固定砲台

現在⇒攻防兼ね備えた固定砲台

(※身体能力はお察しの為、動きが悪く固定砲台は脱却不可能。ただし殴られまくった結果、耐久力だけは微増。)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラブコメなら押し倒してドギマギなのに、この作品だと奇襲になってドキドキする。それがいい。 [気になる点] なーぜ赤太郎がこうなってるのww
[良い点] そうだよな日中の出来事だからこれは闇討ちではなく奇襲だよね [一言] よかったなぁ青次郎 防御系鍛えておいて
[良い点] 更新お疲れ様です。 青次郎カワイソス…。まさかキャプテ○翼ばりに「青次郎くん、ふっ飛ばされたー!?」からの車田落ちしたかと思ったらワンスモアふっ飛びという、範馬勇次○が見たら「1日に二度…
感想一覧
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