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暗殺者 3

皆様、投稿に間が開いてしまい、申し訳ございません……

ちょっと、年度末という魔物がですね。


2月の末位から、ずっと残業三昧でして。

年度末故のイレギュラー対応+職場のチーム人数が三人減という悲しい現実と直面しております。

ゴールデンウィークが終わるくらいまで、割と忙しくなる時期の為、更新頻度がぐっと落ちることをお知らせいたします。



 道に迷って遭遇した、鹿系巨大生物:森の王(※正式名称不明)。

 そんなイキモノに追いかけられる、私。ミシェル・グロリアス十五歳☆

 いや、ほんと、マジで。

 なんで私だけ追いかけられてるんだよおおおぅ!?

 私以外に、九人もいたのにぃー!!

 なんか鹿に恨まれるような事したっけ!?

 前世の行いでも悪か……いや、理不尽に鹿に追っかけられる程、悪いことした記憶はねーな! 先立つ親不孝こそ言い訳できないくらいに申し訳なくはあるけれども、他者の為に命を捧げるレベルの善行達成してこれはねーや!

 

「ミシェル、ファイト!」

「足だ! もっと足を動かすんだ!」

「く……っちくしょう、他人事だと思いやがって!」


 無責任な仲間達の野次を、背中に受ける。

 彼らは標的は自分ではないと確信してか、一気に緊張感を緩めていた。

 まあ? 彼らにとって仲間である筈の私は依然として鹿に狙われてるんですけどねー!?

 というか、マジでなんで?

 どうしても仕方がないって時には躊躇うつもりもないけれど、切迫しない限りは、流石に子連れの母鹿を抹殺するのは気が引ける。どうしようもなくなったら、躊躇する気はないけど。

 理想としては穏便に、母鹿さんに私から標的を外していただいて、何事もなく母子揃って森の奥へお帰り頂く事なんだが。

 だがそれも、私が狙われる原因がわからないことには対処のしようがねぇぇえええ!

 

 そうこうしている間にも、鹿は私を猛追してくる。

 角を振り上げての突進だ!


「あっぶねぇ!」


 鹿の攻撃!

 私は身近な木を盾にする形で横へ回避!

 結果、可哀想な木は圧し折れた。

 幹の太さ、私が抱き着いて腕を伸ばしても、両手がこんにちはできないくらいだったのに。

 うっわ、やべぇ。

 これまともに喰らったら、私も圧し折れる!

 

 逃げる私、追う鹿。

 私を追う鹿、更にそれを追う子鹿。

 一応、私の事を心配はしているのか、野次馬感ありつつも並走する仲間達。

 母鹿が周囲に目もくれず暴走特級並みに私を追うので、子鹿ちょっと遅れて健気に母鹿を追っていた。でもやっぱり体力や身体能力の差があるからか、ちょっと大変そうだ。

 私? 私にはほら、頼れる素敵なお友達がいるから。

 半ば私を見捨て気味な、人間のお友達どもじゃなく。

 孔雀明王様という、神秘の力を私に貸し与えて下さる精霊様のお友達がね!

 

「おねがい孔雀明王様……っ」

『はいなの~!』


 ゆるっと呑気な(いら)えと共に、私の身体は緑の光で包まれた。

 毎度おなじみ、マジカル☆身体強化である。

 特に脚力を強化するよう、意識して調節済だ!

 精霊様のご助力によるものとはいえ、お願い一つで野生の獣に匹敵する脚力を得られるって言うんだから、本当に便利な世の中だよねー!?

 孔雀明王様のお力により、猛烈な走力で迫る鹿から辛うじて逃げ続ける。

 正直なところ、ここまで全力で逃げに特化した身体強化は生まれて初めてですわ!

 しかしそれでも距離を離すには至らない! あの鹿、脚力いったいどうなってんの!?

 ずっとピッタリ一定の距離を保ったまま、森を駆け抜ける私と鹿。遅れ気味の子鹿。

 そして完全について行けずに、どんどん距離離されて後方へ置き去りにされつつある仲間達。

 どうやら先輩達も、あまり身体強化に重きを置いた修行はしていなかったらしい。

 こうなると、完全に誰かの介入は期待が出来ない。

 師父、師父はいずこ……!? 誰かこういう時の為にいるはずの、合宿を監督する立場にある先生方か師父を呼んでほしい。将軍でも良い。

 だっけどなー、私達、迷子だったんだよなー!

 完全に、助けは期待できん。やべぇな、おい。

 

 せめて、私が鹿に一点集中で標的にされる理由さえわかれば……!

 どうにか穏便に鹿から逃げ切る為にも、追いかけられる原因を知りたい。

 私がそう思い、願っていたからだろうか。

 逃げる事に、自分の肉体操作と周囲の状況観察に深く集中していたからだろうか。

 ふいに、とてもとても身近なところで。

 ナニか、動くものに気付いた。

 具体的に言うと、私が腰に固定していた鞄のポッケん中に。

 え、なんぞ……?

 何か動くようなモノなんて、あったか……? この世界で動く=なんかイキモノなんだけど。

 私が疑惑たっぷりに鞄のポッケを凝視していると、視線の圧に気付いたんだろうか。

 鞄のポケットが、見てわかるほどハッキリ、もぞりと動いた。


「ぴきゃあ」

「………………原因はお前か」


 そうして、鞄のポッケから。

 呑気に顔を出す、小さな小さな手乗り子亀。

 ちょっとぉぉおおお!? 何故、こんなところに、我が家のチビ亀ちゃんが混入されているんですかねぇ!?

 おい親、サブマリン! ついて来るのを拒否ったからって、幼い我が子を私の鞄に突っ込むの止めてくれませんかねぇー!?

 ついて来ているのがバレたから、開き直ったとでもいうのか。

 チビ亀ちゃんは鞄のポッケから這い出すと、器用にするする私の身体を伝い上ってきた。

 おかしいなぁ、亀ってこんな器用に垂直の場所を登れたっけ? あの足で?

 色々とおかしいはずなのに、平然と子亀は私の肩の上に収まった。いや、そこ定位置にされても困るんだが……

 そして、子亀の姿を視認したからか。

 鹿が殊更に荒ぶって、気迫と突進の勢いを増した。

 鹿に狙われる元凶、 子 亀 で 確 定 。

 こんなちっこい亀が野生動物の逆鱗に触れるとか、おいサブマリンー!!

 お前、絶っっっっっ対に、この島でも前になんかやらかしただろぉぉお!? お前の子供を見た森の王が猪レベルの突撃かましてくるんですけどぉー!!

 この場にはいない亀の、過去の所業を半ば決めつけつつ。

 私は現実逃避交じりに決意した。無事に家に帰ったら、絶対にとっちめてやると。




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 森の王。

 ミシェル・グロリアスが内心でそう名付けた、見る者に畏怖を抱かせる威容の鹿。

 彼女は人間がそう思うまでもなく、紛れもなく森の女王だった。

 だからこそ、目の前の『脅威』を放ってなどおけなかった。

 彼女がそうであるように、彼女の母も、そのまた母も、そのずっと前の母も王だった。

 そしてこれは、その森の王の間で連綿と語り継がれてきた警告なのだ。

 彼女がまだ(いとけな)い子鹿の頃、母に聞かされた話。

 母の、そのまた母の、ずっとずっと昔の母から代々言い伝えられてきた話。

 

 まだ、この島に魔物という脅威が存在した頃。

 島の中央にそびえる山には炎の化身のような、巨大な鳥が君臨していたのだという。

 鳥は我が物顔で悪辣に振る舞い、魔物を増長させ、島に暮らすただの動物たちを虐げていた。

 だがそんなある時、空から流星が飛来したのだという。

 流星のように尾を引き、空を飛んで。


 流星を見たという、当時の森の王は言う。

 アレは亀という生き物にとてもとても酷似していた、と。

 

 そう、流星のように一匹の………………亀のようにも見えるナニかがやって来たのだ。

 森の王は、島を支配する鳥の声を聴いた。

 ――暴虐の王よ、ついにここまで来てしまったのか。

 両者の間に、どんな因縁があったのか、ついに森の王は知る事がなかった。

 だが両者が相対した結果、ぶつかった結果に何が起きたのか。島がどうなったのか。

 流星が飛来してからの一部始終を見つめていた森の王は、それだけは知っていた。


 とりあえず、島の真ん中にあった山が一つから二つになった。

 元あった一つの山が上から下まで真っ二つに裂けて、大きな谷を挟む二つの山になった。

 あと、島を暴力で支配していた鳥が消えた。

 死んだのか、逃げたのか、はたまた別の結末を迎えたのか、森の王は知らない。気付いたら影も形もなかった。代わりに島の真ん中に出来た谷壁に、谷を挟んで左右対称そっくりに鳥型のへこみが出来ていた。ああ、叩きつけられたんだなぁと思った。鳥の名残はそのくらいで、肝心の本体はどこにも見当たらなかった。

 それから、他の魔物も消えた。

 こちらも死んだのか、逃げたのか……たぶん両方だった。

 鳥の配下顔をして、あんなにたくさんいたのに。

 鳥に加勢して流星に処された者達もいたし、鳥が消えた後、今なら消耗している筈と徒党を組んで亀に立ち向かい、遠い所へ旅立った者達もいた。あと物理的に、亀のように見える流星に恐怖して、泳いででもここではないどこか別の場所へ! と旅立っていった者達もいた。

 島には爪痕が沢山残っている。

 三つの川が消滅し、森林の二割が薙ぎ倒されて草原部分が広がった。

 他にも細々と地形が変わり、流星の飛来前と飛来後では全く違う島のような有様だった。

 勿論、魔物の争乱など他人事に過ぎない獣たちへの影響は甚大だ。

 恐ろしい戦いの余波に、皆、安全だった筈の寝床に閉じこもって丸くなって過ごした。それでも地形が変わるほどの闘いに、巻き込まれて消えた者達もいた。

 結果的に、魔物関係では島は平和になったかもしれない。副次的な効果だけれども。

 だけどそれを差し引いても、被害は甚大過ぎた。

 

 鳥が消えた後、流星は疲れを癒す為か、他に理由があったのかは謎だが島で三日を過ごした。

 鳥が消えて四日目の朝、また箒星の如く空に尾を引いてどこかへ飛んでいった。

 だがしかし、流星が島に残したものは、影響は消えない。消せるわけがない。だって地形変わったし。

 恐ろしい流星の存在を森の王は強く胸に刻み、子孫の為にもあの畏ろしい存在を伝承せねばと誓った。だってアレはイキモノだ。いつまた、空からやって来るのか知れたものではない。

 島には地形や生物分布の激変以外に流星の遺した物があった。

 流星の身体からポロリと落ちた、小さなカサブタである。

 ただのカサブタだけれども、元々流星の一部だけあり、その濃密な気配と絶大な力の片鱗が残っていた。

 カサブタでこれかよ、と。

 当時の森の王はドン引きしつつ、カサブタを回収した。

 正直、近寄るのも触るのもとんでもなく嫌だったが、本音を言えば一刻も早く海にでも遺棄してしまいたかったが、それでも子孫への警告の為、後じさりそうになる本音を嫌々屈服させてカサブタを回収した。

 回収された流星の組織片は島の真ん中の、二つ山の中腹に。

 元は鳥のねぐらだった大きな洞窟の奥深くに安置したのだ。

 危険物の封印という意味もかねて。


 そうして代々、森の王たちに遠巻きに見守られながらカサブタは安置されてきた。

 すっかり干からびてしまったのに、そこには今もなお、流星の力と気配が残っている。

 鹿の王は自身の後継ぎと成り得る子が生まれれば、流星の伝承を語り聞かせた。

 子が理解できるまで、何度も。何度でも。

 子に伝え、最後にカサブタの安置場所へ連れてきて言い含めるのだ。


 ——さあ、子よ。この禍々しい気配をしっかりと覚えておいで。

 いつかこの島に、空より厄災が再び飛来した時。

 相手を誤ることなく、しっかりと冷静に、目の当たりにした力と恐怖に呑まれぬように。

 森や、獣や、自らの子供達。

 守るべきものを守る為、最善の手を選べるように。


 流星の遺したカサブタから、妙な波動が出ているのか。力の残滓を感じ取ってか。

 流星が島の魔物を絶やして以来、島の外から新たな魔物が近付くことはない。

 一定の距離に近づくと、何かに気付いたように恐れおののいて引き返すのだという。

 魔物という脅威とは無縁になった、動物たちの島。

 時々二つ足の奇妙なイキモノがやってきて、暫く滞在する事はあるけれども。

 島には基本的に脅威と成り得るものもなく、外敵とは無縁な時代が続いていた。

 代々の森の王も、魔物を前にした緊張など体験したことはない。

 流星の遺したカサブタを前に、濃密で圧倒的な存在感に呑まれて腰を抜かすのが最高に緊張する瞬間か。

 森の王として動物たちに尊重され、闘いらしい闘いも経験した事のない森の王。

 自らの持つ実力や戦い方などろくに理解も出来ぬまま、島の安寧を静かに見守ってきた。

 

 だが、しかし。

 今目の前に、確かにいる。

 幼いあの日に、母に言い聞かされた。山の中腹にある洞窟へ連れていかれ、小さなカサブタが宿す強者の名残に恐怖した。その時に否応なく覚えさせられた、あの気配。

 微弱なれど、小さくとも、確かにあのカサブタから感じた波動と近しいような……同じような、と表現しても良い、似た気配を感じている。

 そして、その思いは。

 自分の思う以上にずっとずっと小さな、小さな亀の姿を見て確信に変わっていた。


 今度は何を破壊しに来たのか、流星よ——と。


 鹿の王は、小さな小さな、生まれてからそう間も経っていなさそうな子亀を前にして。

 完全にその存在を『流星(暴虐の王)』と誤認していた。

 子亀が、父親似だったばっかりに……。

  



 己の実力も、彼我の実力差も、碌な戦い方も。

 そのどれもを知らぬまま、森の王は駆け抜けるのだった。


 かつて流星を目撃した、古い時代の森の王。

 彼女は子孫たちへと警告の為、伝承と流星の一部を残した。

 ただひたすら、世界にはとんでもない厄災が存在するから、いざこの気配の持ち主に遭遇する事があれば、守るべき者達を率いて守りを固めるか逃げろ——と、それを伝えるつもりで。

 しかしいつからか口伝は若干の歪みを孕み、特に言外に加えられたニュアンスに語り手の意思は反映される。時代が下るに従い、実際の恐怖も脅威も、外敵と戦う機会も減少した弊害が語り手たちの意識へ影響を与えた。逃げろと避難を促す為の口伝は、いつしか「いざその時が、この気配を目の前にする時が来たのであれば、守るべきものの為に身を投げ打って戦うべし」という意味に色を変えてしまっていたのだ。

 人の世では、それを『無謀』という。



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 私の後ろをピッタリ追尾してくる、巨鹿。

 ずっと追いかけられて走って、走りながら考えて。

 魔法騎士を志す身として、冷静さをいつどんな時でも保てるようにならないとなぁとは思うけれども、それはそれとして今この時、ずっと走り通しで追いかけられていて、未熟な身で冷静な判断とかそこそこ難しい訳で。

 私は追いかけられながら考えた結果、鹿の追尾を振り切る方法を考えていた。

 結果、二つの方法を思いつく。

 相手は野生の獣だ——その直感は人間より優れるだろうが、思考能力はどうだろうか。

 例えば、相手の視界から感知能力の範囲から、一時的にでも完全に姿を消すことが出来たなら?

 もしくは……相手が私を追いかけるどころじゃない場所に誘い出すことが出来たなら?

 それを実現させる為に、どうするべきか。

 私は考えて、考えて、考えた末に。


「………………よし、とぶか」


 生身でソレをやるのは難しいかもしれないけれど、と。

 私はちょっと気軽に人間の限界を見誤るような結論に達しつつあった。





ミシェル嬢が空を飛ぶってよ!

どうやってだよ?


a.根性で

b.精霊様のお力で

c.青汁からガメた発明品で

d.チビマリンの力で

e.鹿に吹っ飛ばされて

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― 新着の感想 ―
[一言] 帰ったらサブマリンのやらかし範囲を確認した方がいいようなww g ピンチに覚醒した「魔法」で。
[良い点] 更新お疲れ様です。 なるほど…ミシェルが現在『逃走○!』ごっこをするハメになった原因は、サブマリンが昔この島でガメ○vsギャ○スごっこしたせいでしたか。流石にそんなのは予測不可能だわww…
[良い点] お待ちしていました [一言] 根性に一票 俺は根性というものを見たことがないので、どんな効果があるのか知りませんけども
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