山賊 2
更新が大分遅れまして、申し訳ございません……。
当方、現在、忌引のハガキを準備中でして……色々と、コメディを書くテンションじゃなくなってしまい、書き上げるのが遅くなってしまいました。
皆さん御機嫌よう、騎士チームの簡易牢獄からミシェル・グロリアスがお送りいたします。
ナイジェル君潰しを狙って襲撃を敢行した私達。
しかし私達のような襲撃を予想してか、背格好の似た替え玉を立てるという方法で対処されてしまった。集団線の模擬戦は今までに何度もあったし、その度に作戦を複雑化させる厄介なナイジェル君は初手で狙われてきたけれど、今までこんな風に対処なんて……いや、冷静に考えると、何度も狙われてきたのに今まで対策されてなかった方がおかしいな?
まさか、こういう時の為に今まで敢えて——?
どうやら私達は、まんまとナイジェル君に乗せられてしまったらしい。
こうなると乗り込んでしまったレールが地獄直行便でないことを祈るばかりだ。
そうして捕虜はこちらとばかりに収容された先には、先客の姿。
うん、お前ら何してんの……。
同じように取っ捕まった私が言える事じゃないかもしれない。
だけど山賊陣営の中でも速攻で襲撃した私達より先に、あっさり取っ捕まっている事へ物申したい。
どんだけ考えなしに、即座の突撃しやがったのかと。
大体お前ら『暗殺者』陣営だろ? 暗殺者の役割振られといて、何で陰に隠れて機を狙うとか、そういうロールプレイに沿った行動しないのさ。盗賊の私達が突撃しても違和感はあまりないけど、暗殺者が……ねえ?
それとも暗殺者は隠れ潜んで隙を狙うもの、一種の職人芸って認識してんのは私だけ? この世界じゃ暗殺者の持つイメージって突撃速攻かけて取っ捕まる脳筋の一種なの?
……いや、いやいや、この世界で十五年生きてきたけど、今までの記憶を鑑みても堂々突撃する暗殺者の方が稀だわ。うん、私は間違っていない。
「お前ら、なんで山賊の俺らより先に取っ捕まってんだよ……暗殺者だろ。隠れて隙を待ってろよ」
ああ、ほら。
フランツもどうやら私と同意見っぽいし?
やはり私の考え方の方が一般的な常識ってヤツだ、うん。
「なんだかそこで、ミシェルがこちらにとっては納得できないことにうんうん頷いているような気がするが……」
「気にするな。それで、一体なんで俺らより先に捕まって?」
「ああ、うん。それな」
暗殺者陣営に属する、彼らの小班あかにゃんk……赤獅子の面々。
つまりは我らが王子・赤太郎を筆頭としたクラスでも身分高目の皆さんがそこにいる。
ははははは。見なよ、他所じゃ滅多に見られない光景だぜ?
何しろ自国の王子やら貴族やらが、土牢と呼んでも差し支えない穴に放り込まれて途方に暮れておる。
赤太郎は言うに及ばず、あかにゃんこ班の面々はそれぞれ煌びやかな身分をお持ちだ。
王家とは血縁の薄い公爵家のヴィンセント。
赤太郎とは親戚関係にある、武門の辺境伯家子息のハインリッヒ。
冒険野郎の父の育児能力を危ぶんだ侯爵家の祖父母に育てられたリンドール。
そして最近、とうとう魔法騎士コース唯一の女生徒と取り違えて告白してきた野郎の心を圧し折ること、ついに二十人の大台を突破した『二十三人斬り』のヒューゴ。
いずれも爵位高めな、そうそうたる面子ってヤツだ。
私の家の子爵家からすれば雲の上の方々ですわね。
こいつらが属するあかにゃんこ班を抑えれば、うちのクラスの身分上位勢を抑えたも同然。今回はナイジェル君にまるっと丸ごと捕らえられてしまっているが、これ解放に保釈金とか要求されないよね? 流石に学校行事の一環でそこまでされないとは思うけど、相手がナイジェル君なのでそこらへんが怖い所だ。
しかしこいつら、若干正攻法に手段が寄りがちではあるけれども、最近ではクラスの有象無象に揉まれてそこらへん強引に柔軟性を獲得してもきている。まるで麺棒で叩くだけ叩きまくられた生肉のように。
正攻法が得意なことに変わりはないけど、変則的な手段や搦手だって用いることに抵抗はない。
王侯貴族であるから、暗殺者への対抗手段として逆に暗殺者の生態にも詳しそうなもんなのにな。
そんな彼らがどうして取っ捕まっているのか……我らがクラスメイトだけなら身分の上下を投げ捨てて久しいんで粗雑な扱いも待ったなしだけど、今回は学年問わずの合同ゲームだ。
私達のクラスで身分を気にしなくなったからと言って、他のクラスや他の学年までそうとは限らない。彼らの中でも気にしないモノになっていたとしても、赤太郎の王子という身分はやっぱり特別だ。
捨てられて久しい忖度や、特別扱い。
王子への優遇措置。
他の学年が関わるからこそ、そういう柵が期間限定の復活を遂げていてもおかしくないのに。
それなのによく、王子含む高位貴族一塊な班が鉄砲玉のように出撃できたね?
「本当は、今回は偵察任務だったんだ」
「ほほう?」
「騎士陣営の様子を偵察して、他の班とも交代しながら定期的に陣営拠点へ報せを出すって任務で。無理に騎士陣営へは手を出さないように言われていた」
「ほうほう」
つまりアレですな?
王子であるし、一年生でもあるし。暗殺者陣営の上位陣はその辺を慮って、作戦に積極的に参加しつつもなるべく戦わなくて良い役割を回した、と。
上級生の方が実力者なので其方を本格的な襲撃実行犯にするとでも通達されれば、偵察任務も順当に思えるし。実際に上級生の方が強いかどうかは、学年の垣根を超えて正式に手合わせしたことないんで何とも言えないけれど、学園のカリキュラムが学年分だけ進んでいるので技術力やら何やらが上だろうって予測は否定しない。本当に強い人間は、年齢や技術云々で測れない時もあるけどな。
赤太郎たちは恐らく、最初に働かせて後は休んでいてもらうべく、偵察任務の第一陣を任せられたんだろう。結果、何があったのか捕まっとるが。
上級生は直接的な関わりがないし、赤太郎たちの性格は知らない。
よく知らない彼らの立場で考えると、まだ一年生で天狗っ鼻を折られることなく育っている(※推測)の身分激高坊ちゃん達だ。実際はとっくの昔に鼻も矜持もクラスメイトのいたわりに満ちた拳で矯正されているが、そんな実情はわかるまい。彼らからしてみれば、外的要素しか判断材料ないんだし。
なーんか、高慢な上位貴族のボンボンって思われてたとしたら、命令無視とか独断専行とかしてもおかしくないって思われてそうだよね。あ、それを思えば後の行動修正がしやすいよう、最初に偵察に行かされたって面もあるのかな? 赤太郎たちがなんか勝手をしたとしても、作戦の途中でされるより初っ端にされる方が方針転換もしやすかろう。わぁ、上級生たちに舐められてんじゃん、赤太郎。でも実際に取っ捕まってるから何も言えねーじゃん、赤太郎。
「偵察任務で、なんで捕まってるんだよ。騎士陣営に近づき過ぎたのか? それともなんか不測の事態でもあった?」
「もしくは、罠に嵌められたとか……か?」
「どちらも違うんだ、フランツ。オリバー」
とりあえず捕まっている捕虜同士、今後を見据えて情報共有でもしとくかー、と。
事情を聴くに従い、何故か顔を覆って項垂れる赤太郎。
他の面子も、なんか沈鬱な表情してやがりますな?
そんな中、自身も顔を覆いながら、そろりと手を挙げたのはヴィンセントだった。
「僕が、アレを見て思わず叫んでしまって……」
「アレ?」
挙手した手でへろりと力なく指差した先。
私達がそちらに目を向けると……うん、凄い光景ね。
本来ならあの扱いも不思議じゃないんだけどなー。
けどなー? 今はアレ、『要人』として扱うルールの筈なんだけどなー?
それを差し引いても私の私物だぞ。なんて扱いしやがるんだ。
「叫ばずにいられなかったんだ。護衛対象をなんて扱いしてやがるって」
だってあの光景、実際の人間をあてはめたら、さ。
アイツらの方がむしろ山賊っぽいじゃんって。
そう言って、更に項垂れるヴィンセント。
落ち込むな、気持ちはわかる。
私達が見たモノ、それは。
無情にも、二つの大八車の上に三本・二本で分けて俵の如く無造作に置かれた護衛対象……
しかも落ちないように固定する為にか、荒縄で縛られて大八車に固定されていた。
いや、多分、拠点を移動する前段階として、運搬しやすくするためにそうしたんだろうけどさぁ……もうちょっと、他に扱い様はなかったのか。
合理的判断でそうしたってのはわかる。わかるけど。
でもあれ、本当の要人だったらと仮定したら荒縄で縛られた上で三人・二人に分けて放置されている光景にならないか? はい、どっからどう見ても攫われてきた人質の様相ですね?
おまけに『椅子』として丁度良いとでも思ったのか。
なんか、ナイジェル君が上に座ってバインダーに挟んだ紙へ何事か書き込みしてるんですが……。
おいおい、山賊じゃなくって騎士だよナイジェル君。
お前、要人の上に座るなよ……。
サンドバッグの扱いが、雑過ぎた。
普段から殴られるのがアレらの役目だけどさ、もうちょっと扱い、考えよう?
というか他の学年やクラスの人目がある中で、よくやるよ。
「確かにアレは、ちょっとぎょっとする光景ですわね……」
「完全同意」
「僕がアレに叫んだことで、耳も良いセディに補足された。そこからは陣営に近づきすぎた間抜けとして数の暴力だったよ……」
最近はクラスメイト達の粗雑さに毒されてきたと思っていたけど、どうやらヴィンセントのお育ちよろしい部分があまりの光景に思わず飛び出してしまったらしい。
隠密行動中に予想外の光景見たからって叫ぶようじゃ、まだまだ未熟だな。暗殺者役としては三流も良いとこだぞ?
しかし注目するまで気付かなかった、というかあんな扱いされているとは思いもしていなかったから流していたけれども。
この『山賊と暗殺者』の最終目標が割と近くにある、な。
目の届く場所で拘束しようって思惑から、私達が陣地内部に食い込んだ穴に放り込まれているからだけど……移動の際に運びやすいよう、台車に梱包されているんだよなぁ。
ここは騎士陣営の端っこのはず。
ふと先輩達が言っていた言葉を思い出した。
騎士陣営の現在地点は防衛にはあまり向かない場所だ。騎士陣営を率いているヤツの行動パターンを考えるに、もっと守りに適した場所へ移動する可能性があるって。
なるほど?
つまりアレはお引っ越しの準備か。
その一環で、陣営の端っこの方まで移されていたってことかな?
「へい、みんな。注目!」
私はパチンと指を鳴らして、捕虜仲間達の注意を引いた。
私一人じゃ、やれることには限界がある。
特にこんな敵陣営のど真ん中で、絶賛軟禁中だ。
何か行動を起こすなら、誰かの助けが要る。協力者を募らなくては。
最悪、協力はしてくれなくっても、他の捕虜に妨害されない保証を得る為に話は通しておくべきだろう。
という訳で、居合わせた先客も交えて、捕虜の同志諸君に誘いをかけてみた。
一丁、脱獄してみねぇ? って。
そんでもってあわよくば、手の届く範囲にあるサンドバッグから抱き枕カバーを剥ぎ取っていかないか、と。まあ、あんだけぎっちぎちに縛られてるんだし、欲を出して脱獄失敗なんて事になったら本末転倒も良いとこだしな。イケそうならやるが、無理そうならスパッと潔く諦めて逃亡するべし。
しかし私の持ち掛けた作戦に、真っ向から異を唱える野郎が一人。
「こんな敵地のど真ん中で何を言い出すんだ!? 逃げ切れるって保証もない、無謀としか思えない!」
チッ。チャレンジ精神の乏しい奴め。
ヒソヒソ声で周囲には聞こえるけれども穴の外には聞こえない。
小声の叫びという器用な声の出し方で抗議してきたのは、赤太郎だった。
おいおい、小声でも叫びは叫び。何かあったのかって、聴覚がよろしいセディに勘づかれるだろ?
それで捕まったってのに、懲りねえ赤太郎だなぁ!
「黙れ、囚われの王子様が。自力で脱獄しようって気概がねぇんなら、ここで大人しく白馬のお姫様でも待っていやがれ」
「ミシェル、馬があの段差乗り越えて助けに来るの辛いって」
「何だその唐突な罵倒。そんなに言われるような意見だったか!? というか白馬のお姫様って馬か。馬のお姫様なのか!」
「なんて言ったっけ、あの白い……フレイフィア?」
「それ王城で飼っている国王の愛馬の名前じゃないか! どこで知った!? それとあの馬は白馬じゃなくて芦毛だ」
「クソどうでもいいな。それで作戦の概要ですけれど」
さて、我々は今現在、絶賛穴の中。いわば籠の鳥だ。
こうしていると身動きも取れないんだが……私達に身動きできないんなら、他のヤツに動いてもらえば良いよな。
「さて、フランツ。あまりに目立ちすぎるからって事で周囲の草むらに伏せさせてたけど……待機状態のアレ、動かせそう?」
「指示一つ、合図一つだからな。多分、大丈夫」
「そう……それじゃあ、ちょっと大立ち回りで活躍してもらいましょうか」
「は? ミシェルも、フランツも何を言って……? お前達の班メンバーは全員此処にいるのに、誰を動かそうって言うんだ」
怪訝そうな顔をする、赤太郎。
そうだね、テメェは持ってないもんな。
自分に無いモノは、発想として思いつきにくいって言うしな。
この合宿、使い魔の連れ込み可なんだよな。
魔法学園で使い魔を得ようと思ったら、使い魔取得実習への参加が早道だ。
だけど使い魔取得実習への参加は、筆記試験で上位の成績に入る事と赤点が一つもないことが条件だ。
そして悲しい事に、半分脳筋に足を突っ込んでいる魔法騎士コースで赤点ゼロって生徒は少数派なんだよなー……私達の学年はそうでもないけど、他の学年じゃ成績上位者でも苦手科目で赤点の一つや二つあるって生徒がいるらしいし。なんだかんだで各学年、使い魔を持っている魔法騎士コース生は十人にも満たないのがお定まりってヤツらしい。使い魔を持っていないことの方が当然って感じになってやがる。
けれどもあららー? なんと穴の中に、使い魔持ちが五人もいるぞー?
主人と使い魔の間には、不思議な絆がある。
その繋がりを通して、潜伏中の使い魔とコンタクトを取っていたようだ。
何がしか、話が纏まったのだろう。
ニヤッとフランツが笑う。
「ディッセルハイム13世なら、いつでもイケるぜ」
なお、私の使い魔は実家に置いてきた。
亀らはお留守番だ……何しろ破壊しか生み出さないからな。
広い場所で、怪獣相手にするんならまだしも。
こんなに人の大勢いる、土地の限られた島の中……サブマリンを連れてこようモノなら、逆に生徒を勢いで虐s……怪我でもさせないかって不安になるしね! むしろ勝手に何かやらかさないよう宥めるので手間と時間を割かれるわ! サブマリンを抑える為に動けないっていう展開はもう御免だし。
一応、不測の事態に備え、サブマリン達を呼べる亀笛は持っているんで亀達には堪えてほしい。
私だって亀の抑え役に徹するより、自由に動きたいんですー!
なお、知らない間にミシェル嬢の荷物のポケットとかに、小さな子亀が一匹潜んでいる模様。
ヴィンセント
王家と繋がりを強化したい父の命で、魔法騎士コースへ入学した公爵令息。
育ちの超絶よろしい絵に描いたような良家のご子息ってヤツで、入学当初は行儀のよい坊ちゃんとはこれですって見本みたいだった。つまり、学園女子が理想とするような典型的な『王子様キャラ』だった。それこそ乙女ゲームに出てきた上で、センター張りそうな感じの。
※実際には王子をメイン攻略対象に据えた為、王子を差し置いて王子様キャラやってる公爵令息の存在はゲームでは取り上げられなかった模様。
だが、それが今ではクラスメイトの影響で残念な方向へ路線変更しつつある。身分を考慮しないクラスに順応した結果、最近では良い意味で性格が雑になったというか、妙に気さくで大らかというより適当な感じになってきた。
このままいけば、妙にチャラくなりそうで悪影響を及ぼしたクラスの若干名に気まずい思いをさせている。




