5-3
王城 セレス
何とか、キールに守られながら王城にたどり着くことができた。
それと同時に、第五王子のオリバーから書状が届いた。
貴族の決まりである、上っ面だけの長ったらしいお世辞の文章もなく、単刀直入に一言だけ「協力をしよう」とだけ書かれていた。
「……、で使者の貴方はこれで私にどうしろと?」
「はっ! オリバー様は、セレス様との共闘を望んでおられます」
「それは見れば分かるわよ! どういう条件で共闘するのかって話よ!」
私がそう言うと、使者の男はにこやかにこちらに話しかけてきた。
「主人から伺っております条件は、お家の存続でございます」
「家の存続も何も、私たちは母こそ違えど父は一緒だったと思うけど?」
「ですが、今は血で血を洗い、骨肉相食む争いです」
……なるほど、確かに現状だと家=自分の血筋と取れるという事ね。
私は内心そう思い至ったが、引っかかる点もあった。
「そう、それは構わないけど、その条件だと王位を差し出すと言っているように聞こえるけど?」
「はっ! その点につきましては、オリバー様もご承知でございます」
「あえて王位を私に渡す。だから王国内で発言権を残せ、という所かしら?」
「ご慧眼感服いたしました。まさに我が主、オリバー様も同一の事をおっしゃっておりました」
あの小狡いことばかりするオリバー兄様がね……。
そう思いながらも、あえて私は言わずに提案に乗ることにした。
「まぁ、良いわ。私たちの味方をするというなら、すぐさま全軍を持って王城前まで駆けつけなさい」
「ありがとうございます! ではこの事は主にすぐさまお伝えいたします」
使者はそう言うと、そそくさと退城して行った。
その様子を、先ほどまで後ろから見ていたキールが声をかけてきた。
「姫様、これは敵の奸計ではないかと思ったのですが……」
「あら、キールと同じ考えになるなんて。私の頭も中々捨てたものではないわね」
私がそう言うと、キールはニッコリと笑ってきた。
「これはこれは、老婆心が過ぎましたな」
「いつまでも成長しない、なんて言っていられないからわよ。で対策なのだけど……」
「ふむふむ……、なるほど。それなら大丈夫かと思われます」
「キールのお墨付きがあるなら、きっと大丈夫ね。それじゃ、後は王位を得られるように頑張りましょう」
私はそう言って、国王の居室へと足を運ぶのだった。
第五王子 オリバー
セレスが、こちらの思惑に乗ってきた。
そして、使者の報告からこちらの意図に気づいている様子は無い。
だが、ここで手を抜いてしまっては意味が無い。
予定通り第四王子もこちらの話に乗ってきた。
さぁ、ここからだ。
微妙なバランスを保ちつつ、こちらに利があるようにせねばならい。
「さぁ、軍備を整えろ! せっかく出てきた好機の目だ! 急いで支度しろ!」
私がそう言って兵たちを急かしていると、慌ててこちらに向かってくる者が居た。
「殿下! オリバー殿下! 大変でございます!」
「どうした! 何かあったか!?」
「国王が目を覚ましました!」
「な……、なんだと!?」
国王が……、目を覚ました!?
あり得ない、老い先短く、尚且つ第一王子か誰かの手によって毒を盛られていたのだ。
それが目を覚ますなど……。
まさか! セレスか! あいつが主治医を変えると言い出して何かしらしていた。
そんな事があるか!? この、この場面で父が、王が目覚めるなど!
「オリバー様、如何なさいますか?」
「殿下、ご指示を!」
あ、頭が回らない。
いや、回ってはいる。
ただそれは、今後の言い訳をどうするかという事にだ。
だが、私にも意地がある。
私は、喉から声を振り絞って指示を出した。
「ま、まずは、軍を整えて置け……、あ、あとはこちらでなんとかする」
「第四王子、第三王女への対応は如何しますか?」
くっ! そう、そこだ。
生き残りを図るためとはいえ、両者に使者を出して片方を潰そうとしたのだ。
今が良くても、今後が危ない。
だが、現状国王を手に入れているセレスの方に分がある。
「……そちらは、第三王女セレスに使者を送れ。バレる前に手紙を出して、被害を最小にする」
私はそう言うのと同時に、筆を走らせていた。
今度は出来るだけ長く、丁寧にへりくだった文章で経緯を書いた。
「良いか? 事態は急を要したのだ。その事をしっかりとセレスには伝えよ。温情にすがれるようにするのだ。良いな?」
「か、かしこまりました」
後は、第四王子の方をどうするかだが……。
今いざこざを起こすのは、あまり得策ではない。
そうなると、傍観となる。
だが、規模が小さくなったとはいえ、血気盛んな第三王子も現状では健在だ。
奴が何をしでかすか分からない。
「いいか! これからは情報だ! 情報を素早く正確に予断なく報告しろ! ありのままの事実だけで良い!」
「はっ!」
「では、各自走れ!」
私が指示を出すのと同時に、館に集まっていた指揮官たちが飛び出していった。
兵を集める者、情報を集める者、それぞれの役割ごとに。
「難局を何とかして乗り切らねば、乗り切らねばならない!」
次回更新予定は11月3日です。
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