表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/213

5-2

王都 セレス


「キール、ここからは最速で動きますわ」


 私がそう言うと、キールは馬車の馭者席から首肯してきた。

 アルバスが、私に対して武力を行使した。

 この事は、残っている二人の行動を加速させるだろう。

 何せ、武力行使の大義名分ができたのだ。

 全員が一斉に王城を包囲し、4つ巴の戦いとなるのは明白。


「姫様、ここからは見敵必殺(サーチアンドデストロイ)でよろしいでしょうか?」

「えぇ、構わないわ。というよりも、そうしてもらわないと、私が危なくなると思うのだけど」


 私が、当然のことだと言い放つと、キールは涙を拭くふりをしながら返してきた。


「戦場の良識が身に着いたようで、何よりでございます」

「あまりつけたい良識じゃないわね、それは」

「ですが、そうも言っていられませんので」


 私のツッコミにキールは素っ気なく返したかと思うと、真っ直ぐ前を見据えながら槍を手にした。

 そう、先ほど言っていた敵を見つけてしまったのだ。


「キール! 止まらず、押し通りなさい!」

「はっ! かしこまりました! 姫様は頭を抱えて、身を低くしておいてくだされ!」


 彼にそう言われるのと同時に、私は馬車の座席の下でうずくまった。

 うずくまるのとほぼ同時に、先ほどまでのスピードから更に速く、荒い運転が始まった。


「さぁ! 私を止めれるものなら止めてみよ!」

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」


 外からはキールの楽しそうな声が響くのと同時に、恐らく相手のものであろう断末魔が響く。

 連れていた兵は、精々30騎。

 どう考えてもそう易々と抜けるとは思えない。

 だが、それでも私がそれを確信せずに居られるのは、キールのおかげだろう。

 あの老人は、戦場で一度も遅れを取ったことがないと有名な剛の者で、付いた渾名が「不敗のキール」なのだ。

 そんな猛将が近くに居るのだ。

 これで安心できなければ、私に安住の地など全くなくなってしまう。


「姫様! 敵軍を突破いたしましたぞ! お顔を上げて頂いて大丈夫です!」

「相変わらず仕事が早いわね。敵もそれなりに居たでしょうに」


 私が、からかう様にキールに声をかけると、彼は若干苦笑いをしながら答えてきた。


「それが、最初に向かってきた者以外、みな及び腰で全く歯ごたえが無かったのです」

「まぁ、若い兵でもキールの勇名は、知れ渡っているものね」

「全く、根性無しばかりで寂しいものですな。……さて、それでは行きますぞ!」


 キールはそう言うと、馬に一鞭入れて走らせ始めた。

 その後も、見敵必殺で進み続け王城の近くへとたどり着くのだった。




王都 第五王子 オリバー


 第三王子が動いた、という一報が私の元に入ってすぐに事態は急転した。

 まず、第三王女が反撃して返り討ちにしたというのだ。

 確かに彼女にはキールという化物が、ついている。

 だが、それだけで数を揃えていた第三王子の軍を倒せるとは思えない。


「……そうか! 第七王女の派閥に居た奴らか!」


 確か第七王女の支持母体は、武闘派貴族が多かった。

 それをこの短時間で、ある程度掌握していたのだ。


「元から工作を行ってなければ、こんなことできない。となると、セレスは王城に帰ってからずっと寝がえりの工作を行っていたのか!?」


 そうなると、1年前のあの日から第一王子であるリオールが敗れる事を見越していた、ということになる。

 あり得るか? いや、あの政治音痴ができるはずがない。

 だが、事実として結果が既に出ている。


「……まさかセリスに政治で後れを取るとは。だが、まだここからなら巻き返せる」


 私はそう思ったのと同時に、近習を呼び出した。


「誰か! 誰かあるか!?」

「はっ!」


 小気味の良い返事が返ってくるのと同時に、扉の少し外で若い兵が片膝をついてかしずいていた。


「第四王子に書類を出す! すぐさま持っていけ」

「かしこまりました!」


 私はそう言いながら、ササっと書をまとめると近習に渡した。

 手紙の内容は簡単だ。

 第四王子に「共同でセレスを討ちましょう」と提案しただけだ。

 おそらく奴は条件を突き付けてくるだろう。

 妥当な線だと、一時的な協力関係で、何かしらの要求を出してくる。

 まぁ領地だろうな。

 それも王城を含んだ領地だ。


「条件は全て飲んでやれ。ただし、書状にはするなよ? そこら辺は適当に制圧後にでもと言っておけ!」

「かしこまりました」


 さて、これで乗ってくれれば口約束で終わりにできるが……、まぁ期待せずに待つのが一番だろう。

 後は、セレス側にも使者を送らねばな。

 こうして私は、両陣営と渡りをつけて第三王子は見捨てにかかった。

 どっちに転んでも生き残れば良いし、最悪とも倒れになってくれれば、私に王位が転がり込んでくるのだ。


「ハハハハ、我ながら冴えているとしか言いようがない」

次回更新予定は11月1日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ