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4-1

第一王子領 リオール


 先の戦いで身動きが取れなくなって、数か月。

 やっとのことで軍の再編と糧秣の補充が完了した。


「これで、あの反乱分子どもを叩けるな」


 私が、誰に言うでもなく一人呟く。

 今回の遠征で、反乱分子の息の根を止めなければならない。

 理由はいくつかあるが、中でも面倒なのは奴らの政治体制だ。

 表向き貴族制を取っているが、人頭税は廃止され、収穫税もほぼないに等しい。

 そうなれば、噂を聞きつけた農夫たちがあちら側に流れてしまいかねない。

 いや、実際にその動きは国境沿いで加速度的に広まってきている。

 恐らく弟のオルビスも同じことに頭を悩ませているだろう。

 思索にふけっていると、扉をノックして入ってくる者が居た。


「ん? あぁ、ワーカーか。何かあったか?」


 彼は、重度の火傷と戦傷で命すら危ういと覚悟していたのだが、何とか一命をとりとめていた。

 ただ、教会の回復魔法をかけてもらったとはいえ、火傷が完全に直るわけではない。

 その為、今の彼は顔の半分に包帯を巻き残った半分も、赤く焼けていた。


「殿下、こちらを」


 そういって、彼が俺に差し出したのは密偵からの報告書だった。


「書かれている内容ですが、オルビス殿下が正式に反乱分子に降ったそうです」

「なに!? あのオルビスが!?」


 まさに青天の霹靂だった。

 王族の権威を自慢し、自分が帝国の血を引いている事を誇りとしていた奴が降った。

 私の中では、一番あり得ない選択肢だと思っていたのだ。

 平民やエルフに降るくらいなら、私の所に来ると思っていた。

 なのに、奴はこちらに来ずエルフの所に行ってしまったのだ。

 そんな衝撃を受けている私に、ワーカーは淡々と次の報告を始めた。


「また、王都の政治情勢ですがあまり思わしくありません。セレス王女のせいでどうしてもこちらの思っている方向に議論が進まないのです」

「ぐぐぐぐ……、セレスまで私に反旗を? あの後ろを追いかけるだけだったセレスが……」


 三女のセレスは、長女、次女と違い降嫁が予定されていた。

 その候補として挙がっていたのは、子爵の家なのだ。

 降嫁先としてはかなり格下になるが、経済的に見ると子爵家は下手な侯爵家よりも潤っていた。

 その財力は、王家としても欲しいところだったのでセレスをと考えていたのだ。

 

「まずいな……」

「えぇ、かなり拙い状況です。恐らく早晩日和見貴族が寝返る可能性があります」


 ワーカーの分析と私の分析は一致を見た。

 こうなると、ほぼ確実に分析通りの事が起こるということだ。


「事態は一刻の猶予もないな」

「まずは、周辺の日和見貴族を全てこちらに抱き込むようにすべきです。力を使ってでも」

「よし! では、ワーカーは一軍をもって東進せよ! 途中の日和見貴族には使者という名目で旗色を鮮明にするように通告しろ」

「はっ! では、書状の素案がこちらにありますのでよろしくお願いいたします」


 こうして、私たちは使者を出し、軍を動かし、日和見貴族を少しでもこちらの陣営に引き入れる工作を始めるのだった。





ベルナンド ディークニクト


 ドロシーがジーパンの船団を撃退してくれたおかげで、なんとか復興の目処がたった。

 もちろん、その過程で彼女用の研究施設という高額な重しもついてきてしまったが。


「さて、ディーよ。研究施設の建築は順調かい?」


 俺が、執務で書類と格闘している所に(見た目も含め)子どもの様にワクワクした顔を見せながらドロシーがやってきた。

 俺は、書類からできるだけ目を離さないまま、彼女が楽しみにしている施設の概要を書いた書類を渡した。


「な、なんだこの子供騙しな施設は!? もっとこちらの要望をだな――」


 概要を書いた書類を読んだドロシーは、大声を出して喚き始めた。

 それもそうだろう、当初要望を出していたものの半分も揃っていないのだ。

 ただ、これでも努力をした方なのだ。

 財政関係をクローリーに任せているので、彼が首を縦に振らないと俺でも使えないのが現状なのだ。


「いや、だいぶ財政担当とやりあったんだ。施設の有用性を示せば、今後大型化していくことになるから、今はそれで我慢してもらえれば……」


 俺がそう言うと、彼女は伏し目がちになり、少し口をとがらせた。


「……あいつら追い出さないとここが危なかったのにか?」

「ウッ!」

「……醜態まで晒して頑張ったのにか?」

「ウッ! ウッ!」

「……あ~あぁ~、せっかく頑張ったのに報奨がこれだけじゃ~な~」


 そこまで言われると、辛い。

 まぁ、確かに彼女の活躍なくして今はない。

 その事をクローリーに説いて、もう少し譲歩を引き出すか……。


「……はぁ、もう一回掛け合うよ。せめてドロシーが言っていた半分は満たせるように。ただ、予算が通っても施設ができるまでには時間が要るから、そこは我慢してくれよ?」

「うむ! 流石はディー! 良い報告を待っているぞ!」


 彼女はそう言うと、にっこりと笑って話は終わりと、さっさと出て行った。

 まったく、こっちの後ろめたさをザクザク刺してきやがって……。

 俺がそんな事を思っていると、突如早馬が駆け込んでくるのだった。


「伝令! 第一王子軍が行動を開始しました!!!!」



次回更新予定は9月4日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。


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