8-15
遅くなりすみません。
獣王国 アーネット
監視していた兵が、肉眼で確認してから1時間程度経ったころ、俺達の目の前を勢いよく駆け抜けていく一団を見ていた。
先頭に居るのは、家久。
その後ろに兵たちが、必死について行っている。
その走りこんでくる一団をやり過ごすのと、次に来たのは恐らく敵兵だろう。
ただ、その先頭を走っている奴が問題だった。
「ん……? あれは……、エルババ!?」
俺がそう叫ぶと、兵たちがざわついた。
以前戦った時に、奴の破壊力をまざまざと見せつけられているのだ。
その事を知っている奴らからすれば、あれが単身で乗り込んだからと言って安心はできないだろう。
もっとも、その奴の為に俺が遊軍を率いることにしたのだが。
「よし! エルババを、部隊から分離させられたのなら上々だ!」
「アーネット様……、あれに突っ込まれるのですか?」
既に行き過ぎた一団の後姿を、兵たちが指をさして訪ねてくる。
それもそうだろう。
徒歩で騎馬を率いて、しかも片手に俺の狼牙棒と同じような鉄の塊を持っているのだ。
「だからこそだ。あれの相手は、俺でしか務まらん。家久が死ぬ前に突っ込んでくる。お前たちは、所定の位置まで行ってから、ローエンの指示に従え」
「はっ!」
俺が命令を発すると、全員が一斉に動き始める。
特に街道を封鎖する兵たちは、かなり急いでいた。
ここの封鎖が、持つか持たないかで随分と戦果が変わるのだ。
「では、俺と共に来る予定の千人は、今から追撃を開始する!」
俺は、言うや否やすぐさま追撃を開始した。
配下の兵たちも、多少のもたつきはあったが、すぐさま追いかけてきていた。
獣王国 島津家久
「家久殿! 丘からこちらに向かって来る兵が居ます!」
「なに!? 間違いなかじゃろうな!?」
おいが確認をすっと、報告してきた兵が頷いてきた。
「よし! 少しペースを上げて反転すっど!」
おいがそうゆと、兵たちはギョッとした。
それもそうじゃろう。
何せあん化物ん様な奴と戦わんなならんのじゃっで。
おいだって、えじ。
しきっことなら、あん化物とは戦いとうはなか。
ただ、ここで食い止めんなどうしごつもならん。
「い、家久殿!? ここで奴を食い止めるとは本気ですか!?」
「それ以外に方法がなかでな! あんバケモンは、おいがないとかすっ! わいらは周りん兵をいけんかしてくれ!」
おいがそう言い切っと、怯んどった兵たちん顔に生気が見えた。
あん化物ん相手を、一時でもせんでようなったや、これだ。
まったく、現金な奴らだ。
だが、崩るっよりはマシじゃて思うちょこう。
おいは、そう思うんと同時に、馬に鞭を打って速度を上げて部隊を反転した。
「さぁ! ここからが正念場や! アーネット殿が来っまで粘ればおい達ん勝ち! 粘れなかれば負けだ!」
腰にあっ刀を抜いて、おいがそうおらぶと兵たちも気勢を上げた。
「なんだ? 逃げるのはもうお終いか?」
エルババは、おいとん間合いを雑に詰めながらも、キッチリと射程外で止まった。
あと半歩でも入れば、おいん刀ん範囲やったが仕方なか。
しかし……。
「どしこ、斬鉄しきっとはゆてんあやな……」
呟きながら、おいが見ちょるんな、エルババが持っちょっ六角形ん大型ん棒や。
いわゆっ打擲棒ち言わるっもんじゃが……。
通常んセズよりも、明らかに一回り以上大きかど。
「なにをぶつくさ言っている?」
エルババは、口ん端を釣り上ぐっと射程に入ってきた。
おいは、一瞬切りかかろうと何重にもフェイントをしちょっが。
どう動いてん、鉄ん棒と刀で打ち合わんななれ。
だが流石に、あん大きさん鉄と打ち合うては、刀が持たん。
「……くそっ! どげんしたもんじゃろうか」
おいは、少し焦りながらも打開策を探っちょった。
いや、探さんな……。
一瞬、ないかに空気を奪わるっ様な感覚が走った。
ハッとなって、目ん前んエルババを見っと、上段に構えちょった棒をこちらに振り下ろそうとしちょった。
そいを見た瞬間、おいは咄嗟に後ろに向かっちょっ足を踏ん張って、前に出っ。
「俺の懐が、空いているとでも思ったか!?」
エルババは、そうおらぶんと同時に振り下ろそうとしちょった棒ん軌道を、しゃいも横なぎに変えてきた。
「いっ!?」
ちょかっん軌道変更に、おいは一瞬変な声を出しながらもびんてを低うすっと、ゴォ! ちゅう風切り音が通り過ぎっ。
おいは、そん音が通り過ぎっんと同時に、下から刀で切りかかった。
ガキィン!
一瞬、火花が散り、激しか金属音が響っ。
「な……、くそっ!」
おいは、面食ろうたがすぐさま、距離を取った。
「全く、無茶苦茶すぎるじゃろうに……」
完全に、虚を突けたはずんおいん斬撃を、あん化物は返す棒で受け止めたど。
恐らく重量にすりゃ、100キロはすっであろう棒を、風切り音を鳴らして振り回すだけでん十分に化物だが。
奴は、そん棒を使うて、更に下からん斬撃にまで合わせてきたど。
「……十合とか、ゆちょったがこんた、骨が折れそうじゃ」
完全に詰まっておりました。
やっと煮詰め終わったので、更新再開のはずです。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




