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1-19

 オルビスを捕縛した俺達は、次の標的へと移っていた。

 

「しかし、何故オルビス様を生け捕りに?」


 騎馬での移動中にキールが訪ねてきた。


「パワーバランス的に彼が生きていないとまずいんだよ」

「パワーバランス?」


 俺の言葉にアーネットが疑問の声を挙げた。

 

「細かい説明は今面倒だから省くけど、そいつが生きていれば、後々楽ができるって事だ」

「ふぅ~ん。まぁ、楽ができるならいいんだが」


 アーネットは俺の適当な説明に何となく相槌を打った。

 これは、俺と彼の間で話は終わりという合図だ。

 基本的に彼が理解できないと、自分で判断した時にしてくる。

 

「さて、恐らくだがネクロスの所には兵力が大量にあるだろう。布陣を見てても明らかに前衛を少なく、後衛を大きくしていたからな。まぁまさかそこにオルビスが居るとは思わなかったけど」


 俺はそう言いながら、簀巻きにされてアーネットに担がれている彼を見た。

 年の頃は恐らく19~20くらいの少し幼さの残る顔立ちをしていた。

 そんな彼だが、今はキールの手とうで意識を刈り取られており、動くことは無い。

 まぁ、そろそろ目を覚ますだろうけど。

 そんな事を思いながら馬を走らせていると、後衛の部隊がこちらに向かってきた。


「アーネット奴らが来たぞ! これから森へと反転する。遅れるな!」

「おう!」


 彼は威勢のいい返事をしたかと思うと、急加速して敵陣へと突っ込んでいった。

 そして、殺到する敵に向かって狼牙棒を一振りする。

 何気なく振った狼牙棒に当たった敵兵は、5人ほどいた。

 最初の敵が下半身と分かれて吹き飛び、続く3人が体をくの字に曲げて吹き飛ぶ。

 最後の一人は、哀れ頭に直撃して破裂した。

 



第二王子軍


「ば、化物!」

「ひ、人が吹き飛んだぞ!」


 目の前で味方が四散し、破裂した姿を目にした敵兵の一部が絶叫するが、後ろから味方が来ているので止まれない。

 半ば目を瞑りながらアーネットに殺到した敵兵は、自分が冥府へと送られると思っていた。

 だが、いつまで走っても痛みが走る感触が無かった。


「おい、敵が逃げていくぞ!」

「追いかけろ! 敵は既に限界を超えていたんだ!」

「こっからは俺達の出番だぞ!」


 味方が鼓舞する声を聞いた最前列の兵たちは、そっと目を開けた。

 すると、先ほど巨大な鉄の棒を振り回していた巨兵の背中が遠くに見えるだけだった。


「よし! ここから敵を押し返すぞ!」


 兵たちは自分を鼓舞するように喚声を出し、突撃して行く。

 それは秩序などなく、ただ恐怖心に突き動かされただけの狂走。

 理性的に理論的に動く軍ではなく、個人で動く蛮族の如き無秩序な突進だった。

 むろんそれをネクロスも制止しようとするが、一度勢いのついた集団を制止することなど不可能であった。


「止まれ! 軍を再編する! 止まれ!」


 彼の声だけが虚しく響く中、兵たちは狂走を続けた。

 そして、その兵たちを待ち構えるように騎馬兵たちは停止して、こちらを向いたのだ。

 

「奴ら止まりやがったぞ!」

「今だ! これまでの鬱憤を晴らせ!」


 烏合の衆と化した兵たちは口々に呪詛の言葉を発しながら突撃する。

 敵の総大将らしき人物が、手を上げ何事か叫んでいる事すら気づかず、彼らはただ走った。

 あと少し、あともう少し走れば敵を殺せる。

 そう思っていた兵が何人いただろう。

 そう思っていた兵が何人生き残っただろう。

 彼らはあと少しという所で、突然横の森から出てきた何者かによって、永遠に目の覚めぬ場所へと追いやられたのだった。



子爵軍 ディークニクト


 敵兵が殺到する中、号令を下す。


「歩兵隊突撃!」


 その合図を待ってましたとばかりに、轟音の様な喚声と同時に敵の横っ腹を味方歩兵が突っ込んでいく。

 その一撃はまるで、モーゼが海を割るように瞬く間に敵軍を引き裂いていった。

 敵兵の中で、何人自分が死んだことを理解できただろう。

 いきなり出現した伏兵に突然襲われ、殺され、踏みつけられ。

 勢いづいていた敵兵たちは一気に恐慌状態へと陥った。


「ふ、伏兵が出たぞ!」

「殺される! 逃げろ!」


 先ほどまでの勢いはどこへやら。

 一気に敵兵が崩れ、そして逃げ惑い始める。

 そんな敵兵の背中を歩兵、騎兵が追いかけ殺戮を開始する。


「奴らを逃がすな! 一兵たりともだ!」

「殺せ! 殺し尽くせ!」

 

 辺り一面は、敵兵の死骸と血の海で満たされた事だろう。

 恐らく夜が明ければ、地面が血を吸って赤黒くなっているのは言うまでもない。

 そんな中、一人覚悟を決めた様に歩み寄る兵が居た。

 その兵は、体長はゆうに190㎝はあるだろう。

 アーネットの身長(186㎝)よりもまだ大きい。

 そして、体は鍛え抜かれた鋼の鎧を身につけているようだった。


「なぁ、あれと一騎打ちしてきて良いか?」

「勝敗はもうすでに決しているから、無駄には血を流したくないんだがな」


 俺がアーネットの言葉に反対していると、その兵はよく通る低い声音で話しかけてきた。


「我が名はネクロス! 第二王子オルビス殿下の騎士である! 貴軍の勇者と一騎打ちを致したい。我が勝てば殿下の解放を求める!」


 清々しいまでに図々しい物言いである。

 俺にこの勝負を受ける謂れはないが、当の勇者であるアーネットがその気だ。

 仕方ないので、アーネットには後で言い含めよう。

 俺はネクロスに向かって声を発する。


「よかろう! 我が軍のアーネットが貴様と勝負をしたいと言っている。貴様が勝てればオルビスは解放しよう!」

「エルフの神に誓われるか?」

「エルフの神に誓おう!」

「ならば、よし!」


 なんで俺があいつによしと言われねばならんのだ。

 まったくもって変な奴である。

 こうして夜襲は、敵将との一騎打ちの場へと変化するのだった。


次回更新予定は6月13日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m

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