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エルドール王国 ディークニクト
今、俺の目の前に10万の大軍が居る。
この一年、内政に勤めたこともあってこの大軍を数か月運用できるだけの貯えを作りだした。
「陛下、将兵10万揃いました。後はお言葉を待つばかりです」
「あぁ、分かった」
かしずくアーネットに、俺はそう答えると今一歩先へと歩を進めた。
俺の姿が見えるのと同時に、10万の将兵が歓声を挙げる。
「「陛下! ディークニクト陛下!」」
その万雷の如き歓声に、俺が片手を挙げると徐々に静かになっていった。
静かになったのを確認した俺は、全将兵が聞こえるように拡声魔法を使って話し始めた。
「諸君、我らはやっとこの日を迎えることができた。辛酸をなめたあの日の復讐の日を!」
力を込めた俺の言葉に、将兵が固唾を飲んで聞き入っている。
そんな様子を少し見まわしてから、俺は言葉を続けた。
「諸君の中に、一年前のあの日に親兄弟を失くした者が居るだろう。諸君らの中に、その仇を討つことだけを考えて生きてきた者も居るだろう。私も同じだ。あの日国を興し、長きにわたって付き従ってくれたキース将軍を亡くした。それもこれもクルサンドの奸計のせいでだ……っ!」
俺の言葉で、涙ぐむ者や悔しさで顔を歪ませるものが見えた。
そう、その感情が大切なのだ。
その感情を全て自分たちの士気に、奮い立たせる元にさせねばならない。
俺は、そう思いながら再び口を開く。
「だが! そんな日も、もう終わりを迎える! 何故なら! 我らがクルサンドを滅ぼすべく動くからだ! さぁ、立て勇者たちよ! その悔しさを、恨みを胸に抱いて今立ち上がるのだ! 我らは、今より復讐の鬼とならん!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」
「「陛下万歳! 王国万歳! 陛下万歳! 王国万歳!」」
俺の演説と共に、兵たちが一気に大声を出した。
それと同時に、歓声と万歳を叫ぶ声が響き渡る。
そんな歓声に俺は、少しの間手を挙げて応えてから奥へと戻るのだった。
クルサンド国 島津家久
先ほどから、クルクス王が部屋ん中を落ち着かん様子でウロウロしちょっ。
恐らく、先日出された宣戦布告書ん件で考え事じゃろう。
まったく、泣こうか飛ぼかと悩んじょる子どもん様や。
「ナカズカサ殿。今後の方針なんだが……」
「戦一択、それ以外に考えたや負くっ」
「うぅっ……」
こげん時になってんまだ腹が決まらんなは、やっぱい義久あにょは傑物やったんじゃな。
なんて、益体も無かことを考えてしまう。
だが、こんままでは足を引っ張られてん助けにはならん。
そう考えたおいは、仕方が無かで話をしてやっことにした。
「ないごてそげん心配をすっ。こけはおいが居っ。将兵も居っ。こん1年間、やるっだけん調練をしてきた」
「あれは、調練だったのか!? 私は、新手の拷問かと思っていたぞ!?」
心外な事をゆてくっ。
ちょっとばっかい、酒ん席で魔導兵器を起動状態にして真ん中で宙吊りにして回したり、兵士ん訓練を真剣に換えて訓練したり、水練と称して兵士を川に落としただけなんじゃが。
「あれがちょっと!? あれは私が見ても訓練では無くて拷問でしたぞ!? しかも、魔導兵器なんて、暴発したらあの場に居る全員が吹っ飛びますからね!?」
「ハハハハ、じゃっで次からちごっもんにしたじゃらせんか」
おいが、そうゆて笑うとクルクス王はないごてか少し引いちょった。
まぁ、そんおかげもあって兵ん質は一気に変わった。
これまでは、自身ん無かないとも言えん顔つきをしちょったが、数々ん死線をくぐらせたおかげで、死をいとわん兵になった。
「まぁ、任せちょきやんせ。絶対に勝ってやっ。島津ん慣習も味方にちちょっ」
「その島津の慣習とはなんなんだ?」
「おいたち、島津は寡兵で大軍を討つこっが多か。逆に大軍で寡兵に負くっこっが多か。じゃっで今回ん戦では、おいは勝つ側に居っ」
そう、義久あにょも、義弘あにょも、歳久あにょも居らん。
だじゃっどん、おいにはおいが鍛えた兵と、軍法戦術ん妙があっ。
心にそう言い聞かせて、おいはクルクス王に二カッと笑うて見せたんやった。
次回更新予定は5月10日です。
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