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帝都に到着した俺達は、最初奇異の目で見られたのは言うまでもない。
何せ、先頭を歩く部隊長も軍団を統率しているであろう長も全てがエルフなのだ。
帝国に多種多様な種族は居ても、エルフは殆どいない。
そして、多種多様な種族が居ても上が人族でいっぱいになっていれば意味がないのだ。
「しかし、ここまで注目されるとはな……」
俺が独り言ちると、並走していたアーネットが頷いてきた。
「全くです。我らエルフが、如何に世俗から離れていたかが分かりますね」
「まぁ、それももう過去の話になっていくんだがな」
「この10年が、あっという間でしたからな」
二人でそんな事を話しながら、路地で見物している人たちの様子を見ていた。
随分と食に飢えているのか、細いからだの者が多く見受けられる。
それに加えて、仕事もほぼないのか社会システムが歪なのか浮浪者が多いようだ。
そんな街の様子を見ながら、俺達はゆっくりと帝都の中心に座している城へと向かった。
帝都は、建物だけを見ていれば白に統一された壁と色とりどりの屋根で綺麗に見えるだろう。
そして、その綺麗な街並みの中に白亜の巨大な城が中央にある。
城の尖塔だけでも、ゆうに10本近く見える。
「これはまた、とことん防御に傾いた城だな」
「それが帝国の歴史ですので」
城を見上げて、俺が声を漏らすと先触れに行っていたウルリッヒが応えてきた。
丁度城の前に立って居たこともあり、俺の声が聞こえたのだろう。
「帝国は、ここ最近の歴史の殆どを他国との国境争いに割いていましたので」
「なるほど、それでこれだけの高さの壁に、尖塔の数なんだな」
「えぇその通りです」
そこまで言うと、ウルリッヒも少し城を眺めた。
ただ、彼はすぐに視線を俺に戻してきて「皇帝陛下がお待ちですので」と先を促してきた。
城の中に入ると、先ほどまでの白亜の装いに彩りが加えられていた。
壁には、絵画や宝飾をちりばめた陶器。
床には、沈み込みそうなくらい柔らかく赤ワインで染め上げた様な絨毯。
そして、天井からは金細工をあしらった燭台と、豪華絢爛とはこの為にある言葉かと思う内装だった。
「これは、また……」
「うちの王城とは正反対ですな」
「だね、うちって結構質素だもんね」
俺が言葉を失っていると、アーネットとトリスタンが王城との対比をしてきた。
確かに、うちの王城は質素倹約を旨としたような武骨な内装になっている。
もちろん、客間などは別なのだが基本的に装飾があまり好きでないというのと、今は亡きトーマンの思想が反映されていたのだ。
「ささ、こちらへどうぞ。謁見の間にて皇帝陛下がお待ちです」
「あ、あぁ分かった」
俺達は、そんな豪華な内装の城内をウルリッヒの案内で歩いていく。
窓から見える景色も楽しみながら、歩いているとウルリッヒが一つの部屋の前で止まった。
「お待たせいたしました、ここが謁見の間です」
彼が、手で示した先にはこれまでよりも高く重厚な扉が見えていた。
「ウルリッヒ将軍、案内感謝する」
俺がそう言うと、ウルリッヒは少し微笑んでから守衛に開門を告げた。
彼が言うのとほぼ同時に、扉が開き始めた。
「エルドール王国、国王! ディークニクト様! ご入来!」
扉が開き切るのと同時に、来場を告げる声が聞こえてきた。
それを聞いた俺は、一歩ずつ中へと進んでいく。
謁見の間は、それまでの華美な装飾とは違い質実剛健にして、威圧的な造りになっていた。
特に玉座に対して、部屋の作りが少しずつ低くなっているのだろう。
自然と真ん中に座る男にへと、視線を集めるように設計されている。
そんな事を考えながら、俺が前に進み真ん中あたりに来ると俺は立ち止まった。
「皇帝陛下の御前なる! 膝をつかれよ!」
皇帝の傍にいた男が、こちらに対して平伏を要求してきた。
だが、俺がそんな言葉に従う理由は無い。
一国の主が、一国の主と話す。
その為に他方が膝を折っては、平等とは言えないからだ。
そんな俺の様子を見て、皇帝は二の句を継ごうとした男に声をかけた。
「よい、余が呼び出したのだ。臣下でも無い者に膝を折らせるでない」
「し、失礼しました」
流石皇帝、言葉一つで制してこちらを見てきた。
「ディークニクトよ、よく余の求めに応じて来てくれた」
「同盟国に助けを求められたのだ。来るのは当然であろう。それに手紙の話も本当かどうか確認したかったのでな」
「なるほど、それに関しては違える気は無い。余の後継として、其方とすることを明言しておこう」
皇帝がそう言うと、先ほどまで静かに物音一つ立てていなかった文武の臣下たちが、ざわめき始めた。
「一体どういうことだ?」
「陛下には確か、王子が数名おられたはずだ」
「エルフが皇帝となるのか?」
「我らは今後どうなるのだ?」
ざわめきは、一瞬にして広がり口々に憶測が飛び始めた。
中には、「我らは見捨てられたのか?」などという声が聞こえ始めるくらいだ。
そんなざわめきを暫く眺めていた皇帝だが、片手を挙げて周りを制してから話し始めた。
「余には、確かに男児が居る。だが、どの子も凡庸でありこの先を乗り越えることは不可能であろう。帝国の防衛の要たる、国防将軍も未だに後継が決まらぬ。余は考えた、子を守り、民を守り、臣下を守れる方法を」
皇帝がそこまで言うと、流石に臣下たちも気づいたのだろう。
苦渋の決断を、せざるを得ない状況であったと。
「考えた末に、余は、目の前に居るエルドール王ディークニクトに、帝国を託すべきであろうと結論を出した。ただ、条件がある」
「条件とは?」
俺がそう言うと、皇帝はこちらを見てニヤリと笑ってきた。
次回更新予定は4月20日です。
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