6-9
エルドール王国軍 アーネット
「……すさまじいな、航空魔導兵器とは」
俺が朝早く見た光景は、地獄など生ぬるいくらいの凄惨なミンチだった。
人と判別できる者も居るが、死体の大半は鉄の雨に打たれて肉片でしかなくなっていた。
そんな光景を見て、兵たちの中には嘔吐する者もいた。
「とりあえず、布で口を隠して作業を始めるぞ」
俺が号令を出すと、比較的元気のある者たちが穴を掘り始めた。
また、個人の物と識別できそうな物を集める作業も並行して行う。
これは、獣王国と今後の関係を築く上で必要な事なのだそうだ。
「アーネット様! 魔法で土を掘ってもよろしいでしょうか?」
「それはダメだと厳命されている! 黙ってスコップで穴を掘り続けろ!」
これは、俺が命令したわけではない。
ディーが「どんな現状かを認識させるため」と言って命令したのだ。
もちろん本人も、現場に入って俺たちの後ろからこの状況を見ている。
「これは、戦争の在り方を変えてしまいかねないな……」
俺がそう呟くと、後ろから声がした。
振り向くと、先ほどまで現場近くの森を探索していたディーが居た。
「そうだな、これはあまり用いたくない手段になりそうだ」
「確かに、これだけの規模ではそうないだろう。ほぼ一方的な虐殺だからな」
「うむ、ここまでの威力を出すとは俺も予想外だった」
そう言うと、ディーは瞑目して両手を広げ、祈りをささげる。
「だが、これで各国とも下手に俺達と開戦しなくなるのではないか?」
「……だと良いのだが」
「会戦はあり得ると?」
俺がディーに訊ねると、何も言わずに頷いてきた。
これだけの惨状をまたつくることになる。
それは、正直人として何とも言えない感情が俺の中に出てくるのだった。
エルドール王国軍 ディークニクト
アーネットが、珍しく戦争を否定するような、乗り気じゃない様な事を言ってきた。
確かに目の前に広がる惨状を目にしたら、そう思うのも致し方ない。
ただ、魔族と戦った時はこの何倍も凄惨な状況を作ってしまっていた。
「バハムートを今後つかわなくてもいい状況を作らないとな……」
俺は、誰に言う訳でもなく独り言ちる。
それから数時間後、人らしき肉片たちは全て綺麗に片づけ終わった。
辺り一面は、まだ血で真っ赤に染まっている。
それでも、これは雨が洗い流してくれるだろう。
「さて、それでは獣王国に使者を出そう。和平交渉をしなければならない」
俺がそう言って次の作業にかかろうとすると、元貴族たちが前に出て跪いた。
「陛下、何故和平を望まれるのですか? 今なら獣王国を滅ぼし、獣人どもを奴隷にもできますぞ」
「左様でございます。さすれば我らの栄誉となりましょう。是非とも先陣をお命じください」
「今こそ征服の時ですぞ!」
そういうと、征服と合唱し始めた。
まったく、何も見えていない阿呆が。
俺は盛大にため息を吐くと、そばに居たキールに小声で相談する。
「今の作業で、一番使えない部隊はどこだ?」
「はっ! 元貴族子弟を集めた旧親衛隊が、使えませぬな」
「ではその使えない奴らを選りすぐって、奴らに渡してやれ。俺は講和の使者と一緒にそれらを密告しておく。使えないなら使えないなりに役に立ってもらわねばな」
俺がそう言うと、キールがすぐさま駆け足でその場を走り去った。
彼が行くのを見送った俺は、貴族たちに笑顔で話しかけた。
「さて、諸君らの勇猛さまさしく王国の鑑と言えるだろう。ついては先ほどキール将軍と相談し、貴殿らに一軍を貸し与えて戦果の拡大をお任せしようと思う」
俺がそこまで言うと、彼らは一瞬ギョッとした表情をした。
あぁ、こいつらは自分たちの手を汚すことなく、土地を手に入れようとしたのか。
「そんなに驚くことは無い。あぁ、そうだ。今回の戦果拡大にあたって、切り取った土地に関しては貴殿らで分け合うといい」
「ほ、本当ですか!? 陛下!」
「あぁ、嘘は申さぬよ。一軍を貸し与える故、頑張ってこられよ」
俺が優しく笑いながら言うと、元貴族たちはこぞって武器を取りに走っていった。
そんな彼らの後姿を見送った俺は、すぐさま講和の使者を秘密裏に出すべくビリーを呼び出した。
「ビリー、聞いていたか?」
「はっ! 一言一句漏らさず」
いつものように、サッと現れたビリーは俺の後ろで跪く。
「では、ここに書状をしたためてある。今回の戦争後もよきお付き合いをとなっている。また、その為にも彼らには人柱となってもらわねばならない。良いか、エルババ本人に確実に届けるのだぞ?」
俺が念押しすると、ビリーは手紙を受け取るのと同時に、エルババの後を追っていった。
これで、恐らくエルババも国境線に防衛部隊を敷いて、殲滅するだろう。
数日後、数名の元貴族が帰ってきたらしいが、シルバーフォックスが王都到着前に始末したようだ。
獣王国との講和も、こちらに金銭の代わりに鉱石で支払うという事で一応の解決をみることができたのだった。
次回更新予定は1月24日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




