6-4
研究施設に入った俺は、薄暗い室内を副所長の案内で歩いていた。
途方もなく広い場所を歩いていると、一つの部屋から明かりが見える。
おそらくそこが研究施設の机などがある場所なのだろう。
「所長、ドロシー所長! 陛下がお見えになりました!」
中に入ると、副所長の男がドロシーに大声で呼びかけた。
そういえば、昔も何か興味を惹くものがあると人の声が聞こえない奴だったな。
「あぁ、来たかシマ……いやディー」
こいつ、わざとじゃなかろうかと思うくらい言い間違えやがる。
俺は、内心彼女に苦言を思い浮かべながら、普通に声をかけた。
「ドロシー、研究の方はどうだ?」
「ふふふ、できたぞ。ディーが欲していた物をやっと作ることが」
彼女はそう言うと、小さい背を精一杯大きく見せようと机に立ってきた。
そして、副所長に顎でしゃくって合図を送ると、副所長はさっき通った広い場所に出て行く。
「ここ数十年、いや数百年でおそらく誰も構想しえなかった兵器だ」
彼女がそう言うと、先ほどまで薄暗かった室内がパッと明るくなった。
それと同時に俺の目の前に出てきたのは、恐らくこの世界では最大の兵器であり、世界初の兵器だろう。
「ただ、問題がある。これ燃費が恐ろしく悪いからな」
俺は、そんな彼女の説明を聞き流しつつその兵器を見て戦慄を覚えていた。
何せ目の前に、恐らく無理だろうと諦めていた兵器があるのだ。
そう、航空兵器が!
「おぉぉぉぉ! これ飛べるのか?」
「そんな純真な目をしたのは、初めてだな。一応実験飛行を何度かさせているから大丈夫だろう」
「もちろん夜間飛行だろうな?」
俺が確認すると、彼女は当然とばかりに頷いてきた。
「夜間、それも事前に外出禁止令を出して、腹心の兵に巡回をさせつつだ」
「それなら大丈夫だな。ところで、燃費が悪いと言っていたがどれくらい悪いんだ?」
「あぁ……そこなんだが……、副所長! データを持ってこい」
彼女がそう言うと、副所長は急いで一枚の紙を持ってきた。
そこには、飛行実験での平均飛行時間と魔法使いの使用魔力量が書かれていた。
「なになに……、平均飛行時間1時間……、平均搭乗員20名……。え? これもしかしなくても飛んで帰ってくるまでを計測してか?」
「うむ、まさしくその通り。そして20名全員が漏れなく魔力切れだ」
「えぇ……。燃費が悪すぎる」
「恐らく私やお前なら何時間かフライトできるだろうが、残念ながらそれ以外で乗れる者はほぼ居ないだろう」
「となると、何かの拍子に俺が落ちない様に補助燃料として20人は常に待機させておかないといけないと?」
「しかもそれだけじゃない。離着陸スペースが必要でな完全とまでいかなくても、真っ直ぐな道が必要だ」
それからしばらく意見交換したが、正直通常運用に耐えうる性能では無いことは分かった。
ただ、やりようによっては使い物になるものではある。
「分かった、では王都に離着陸できる滑走路を作っておこう。あとは、攻撃手段だが何がある?」
「一応考えたのが……」
彼女がそう言って出してきたのは、壺だった。
それも中にドロッとした油の入った、いわゆる油壷という奴だ。
「これを頭の上から落として火攻めか?」
「そうか、黒色火薬を詰めて落とすか、いっそ刃物を落とすかだな」
なんとも乗り物に対して武器の古典的なものか。
まぁ、ほぼ全ての遠距離武器は魔法で代用できるから、遠距離兵器と言うのはあまり発達しなかったのだろう。
「まぁ急場はそれでどうにかするか……」
俺がそう言って考え始めると、ドロシーが今度は俺に質問してきた。
「で、わざわざ足を運んだのだ、これだけではあるまい?」
「うむ、すまないがドロシー召集だ。君の力が必要になっる可能性が高い」
「戦争か。まぁこの航空魔導兵器の初お披露目には丁度いいだろう」
俺の申し出に即答で快諾してきたので、一瞬驚いてしまった。
そして、そんな俺の驚きを彼女もまた見抜いていた。
「そう驚くな、これの実験も兼ねてと思ったから承諾したのだ。それにこれの燃費が効率化できれば、一般人が空に浮く日も近いだろうからな」
「確かに、これがもし大空を好きに飛び始めれば生活も一気に変わるだろうな」
俺がそう言うと、ドロシーはニッコリと笑いながら続けた。
「だから、それまでしっかりと国を守らねばな。お前の為にも、私の為にもな」
「あぁ、ではよろしく頼む。ではこちらは至急離着陸場の建設にとりかかるよ」
「それはよろしく頼む。要請があれば、即駆けつけられるように準備をしておこう。副所長! 聞いたな?」
「はい! しっかりと準備しておきます!」
ドロシーが指示を飛ばすと、すぐさま小太りな副所長は準備に走り出した。
これで、どうにかアーネットとの約束の件は取り付けられた。
後は、相手の出かた次第だ。
次回更新予定は1月14日です。
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