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新年あけましておめでとうございます。
遅くなり申し訳ございませんでした。
獣王国 エルババ
「……エイデンはどうした?」
俺が不機嫌にそう問うと、近場に居た家臣がやや縮こまりながら答えてきた。
「え、エイデン様は、体調が思わしくないと言われておりまして……」
「そうやって1か月、1か月だぞ! おかげでエルフどもがエルドールを統一してしまったんだぞ!」
全くもって腹立たしい。
あいつら、こちらが動員する予定の兵数とほぼ変わらん数を平気で動員してきた。
しかも、こちらが動かいないとみると、周囲の貴族領をせっせと支配下に収め始める始末だ。
おかげで、今回の遠征の為に約束を取り付けていた貴族たちまで全部滅ぼされてしまった。
それもこれも、えっちらおっちら遠征を先延ばしにしてきたエイデンの所為だ!
俺がイライラとしながら考えを巡らせていると、おずおずと声をかけてきた家臣が居た。
「エルババ様、エルドール王国から使者が参りましたが……」
「は? エルドール王国から? あの国はつい最近エルフが占領しただろ? 国名を変えておらんのか?」
一瞬何を言われているのか分からなかった。
普通、占領した軍と言うのは相手の国があったという存在を消すことが多い。
文化文明は焼き、国民は奴隷に、王族は打ち首に、そして国名は跡形もなく消し去り、自分たちの国の名前にするのだ。
それが、未だに以前の名を使っている。
全くもって理解ができない。
「と、とにかく通せ! 一体何を言ってくるのか楽しみにしよう」
俺がそう言うと、衛兵が使者を連れてきた。
使者は一礼すると、書状を掲げて口上を始めた。
「獣王国国王エルババ様、突然の謁見の申し出に快諾頂き誠に感謝いたします。賢王と名高いエルババ様に我が主、ディークニクト陛下より書状をお持ちいたしました。是非ともご一読くださいますよう、お願い申し上げます」
「相分かった、内務官! 使者殿から書状を受け取って読み上げよ」
俺がそう言うと、傍に居た内務官が使者の書状を受け取り読み始めた。
そこに書かれていた内容は、要約すると以下の内容だった。
1、エルドール王国の国王が代替わりした挨拶
2、友好国として今後も付き合いをお願いしたい
3、第四王子の引き渡し
この3つだった。
また、第四王子の身柄については、王国で身分降格は行っても殺すことは無いと明記されていた。
「ふむ……、要するに第四王子を引き渡さなければ攻撃すると?」
「いえいえ、賢王であるエルババ様を相手にそのような事は考えておりません。ただ、ディークニクト様の奥方であるセレス王妃が、母国に帰れるようにとお願いされたのでございます」
一応筋は通っている。
確かにセレスは第三王女だったから、身内ではある。
だが、同時に骨肉の争いをした張本人でもあるのだ。
「わかった、とりあえずこの件は俺一人では決められぬ。エイデン殿の意向を窺ってから、改めて返事の使者をそちらに送るゆえ、本日は帰られよ」
「かしこまりました。ではエイデン様から色よい返事を頂けることを期待して本日はお暇致します」
使者はそう言うと、さっさと退場していった。
俺は使者が完全に出て行くのを見計らって、手紙をすぐに燭台の火にかけてからエイデンを呼び出した。
エルドール王国 ディークニクト
女王の突然の退位と結婚宣言から数か月。
なんとか有力貴族たちの了解を得て、式の日取りも決まってきた。
そんな中、獣王国からの返答の使者が来た。
「御身を拝見でき、感謝の極み。本日は先日のエイデン殿の件でまかり越しました」
「うむ、してエイデン殿は何と言われているか?」
俺が尋ねると、使者は少し戸惑いながら答え始めた。
「じ、実はエイデン殿はこちらにお帰りになりたくはないと仰せで」
「……そうか」
「我々も身の安全の保障は頂いたと、書状もお見せいたしましたが……。なにぶん王妃様とその……」
「あぁ、言わずともよい。そこまで聞けば察しはつく」
こうなると面倒だな。
獣王エルババの手に、大義名分があり続ける事になる。
「使者殿、相分かった。そう言われたのであれば、こちらは彼に誠意を尽くそう。またこちらから使者が行くやもしれぬので、その際はご容赦頂けるようにエルババ殿にお伝えくだされ」
「かしこまりました。では本日はこれにて」
使者はそう言うと、そそくさと出て行った。
さて、どうしたものか。
人となりを聞く限り、エルババは領土欲の強い奴だ。
今後の事を考えると、獣王国方面は固めないといけないな。
俺がそんな事を考えていると、カレドが謁見の間に入ってきた。
「陛下、元第一王子リオールが投降しました。如何いたしましょうか?」
「リオールか、こちらに通してくれ。もし身なりが整っていないなら、先に風呂などに入るように勧めてやってくれ」
「かしこまりました。ではその様に伝えてまいります」
カレドが、そう言って部屋を出てから2時間ほどしたころ。
一人の男が謁見の間に通された。
金髪碧眼にスラっとした身長。
見るからに美男子と言える男をみて、直感的に誰か分かった。
「リオール殿ですね?」
俺がそう言うと、リオールは一瞬驚いた様子を見せた。
だが、すぐさま胸を張って自己紹介を始めた。
「確かに、私がリオールだ。先ほどは身なりを整える時間、感謝する。」
そう言い切る彼は、まさに王族の鑑と言える尊大さと威厳を持っていた。
次回更新予定は1月8日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




