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5-25

大公軍 大公


 あれから、無理矢理近衛に連れ去られた私は、キールが通り過ぎるのを待って本陣へと戻った。


「な……、なんだこの有様は?」


 本陣に戻った私が目にしたのは、あちこちに死体が転がり、そこかしこで軍医を呼ぶ声が響く地獄絵図だった。


「大公閣下! ご無事で何よりです」


 そう言って側近の一人が近づいてきた彼の片袖は、だらりと垂れ下がっていた。


「お、おま、お前その……」

「あぁ、これでございますか? 流石に鬼のキールと言われるだけありますな。ただ、閣下、私は何とか腕だけですみました。ご安心くだされ。必ずや勝てますぞ」


 この状況でも、側近たちは私を見て勝利を揺るがぬものと思っている。

 もちろん、中には私の今回の方針に反対したものも居る。

 それでもだ。

 それでも彼らの中に、私の敗戦という文字はないのだ。

 気丈に笑う彼に私は、言葉に詰まりながらもねぎらい、今後の事を話し合った。


「鬼のキールが居るという事は、相手はほぼ軍を掌握しているでしょう。時間をかけない様に準備はしていたのですが……」

「致し方あるまい、女王が既に傀儡なのだ。キールも入っている可能性はあった」


 一縷の望みとして、キールが内部で抵抗を続けていると思ったのだが。

 この様子ではそんな事はなさそうだ。


「で、被害状況は?」

「はっ! 軍を支える隊長などに被害が集中しており、再編に少しばかり時間がかかります」

「どれくらいの時間がかかる?」

「恐らくですが、数日は。なにぶん、被害が大きいので全容をまだ把握しきれていないのが現状でして……」


 まるで、災害の後の事後報告を聞いているような感覚におちいる。

 それだけ、恐ろしい勢いだったのだろう。


「窮鼠猫を噛むと言いますが、あれはさながら窮虎でした」

「ネズミではなく、トラの尾を踏んでしまったか……」

「ですが、敵もそう多くはございませんでした。捕えられた者はおりませんが、遠目から見ても500は居なかったと思われます。その中で敵を100名程度ですが、始末できておりますので……」


 たった500にこの大損害?

 確かに全貌はまだ見えていないが、パッと見ただけで相手の数倍は被害が出ているように見える。


「それにキールが突っ切ったという事は、こちらの遅滞が目的と思われます」

「それはまた来る可能性があるのではないか?」

「その為、現在突っ切った一番端を集中的に補強しております」


 ……うむむ、それで良いのかどうか判断ができない。

 できないが、悪い感じはしないので、そのままやらせておこう。


「分かった。もしまた何か不測の事態があったら報告をしてくれ」

「かしこまりました」






平野 ディークニクト


 さて、敵が見えて数時間したが……。


「動かないな」

「動かないわね」


 そう、敵が一向に動かないのだ。

 森から出るか出ないかくらいで、前衛の流民部隊が止まっていた。


「敵に何か不測の事態が起きたか、キールがアーネットと合流するために強引に突っ込んだか……」

「後者だとしたら、天災よね」

「まぁ、あれで鬼と呼ばれていたらしいからな」


 俺とシャロは、好々爺然としたキールが暴れているのを想像して身震いした。

 まぁ、あれで脳筋なところがあるから、アーネットとは良い意味でも悪い意味でも息が合いそうだ。


「何にしても敵さんが動かないなら、こっちにとっては良い状況だ。 作業を急がせてくれ」

「既に指示済みよ。後は穴の中に別ルートを少し作って、待機させるだけだから」

「そうか、助かるよ」


 俺がそう言うと、シャロは当然とばかりに豊かな胸を反らせてきた。

 こういう自分の魅力に無自覚な所も、色んな男を惑わせるんだろうな。


「あとは、兵を伏して周囲に配置して……」


 俺が作戦を説明しながら地図で駒を動かすと、シャロと他数名の指揮官がのぞき込んできた。

 作戦の説明が終わったころには、全員の指揮官がそれぞれの持ち場へと移動を始める。


「で、私はディーの護衛って訳ね? うふふふ」


 何がそんなに嬉しいのかは分からないが、言っても聞かないシャロには見える範囲に居てもらった方が安心なのだ。

 もちろん、本人にそんな事を言っては気分を害すると思ったので、適当な理由をつけている。


「まさか、ディーが私に側にいてほしい、なんて言うなんて」


 俺は、何か大きな勘違いをさせていないだろうか?

 シャロには確かに護衛と言った時に安心できるから『居てほしい』と言ったのだが。

 そんな事を考えていると、ついに敵軍が動き始めたと報告が入った。


「敵の前衛が動き始めました! まだ動かなくてもよろしいのでしょうか?」

「安心しろ、動かず騒がずここでジッとしていれば、敵は必ず足を止める」


 そう、落とし穴で必ず躊躇する瞬間が出る。

 精鋭の兵士でも起こることなのだ。

 流民を編成した部隊では、一気に恐慌状態にもなる。


「流民部隊が来ます!」


 その声を聞いたのと同時に、俺は前へと足を進めるのだった。


次回更新予定は12月18日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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