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5-15

第四王子 エイデン


 なんとか鉱石街道を進み、国境を超える事ができた俺達は、獣王国国王と謁見することができた。


「おぉ、エイデン! 我が甥よ! 辛かったであろう? 今後は私を、お前の父だと思って甘えてくれ」

「勿体なきお言葉感謝します。獣王国国王エルババ様」


 俺がそう言ってかしずくと、エルババは満足そうに頷いていた。

 まぁ、反抗的になっても仕方ないし、今後の事を考えれば大人しくしているのが良い。


「ところで、エイデンよ。私は、そなたが不憫で不憫でならんのだよ。もしお前に心づもりがあるなら、私はお前に助力を惜しまんがどうだ?」

「これは、ありがたいお言葉感謝いたします。ですが、今はまだ……」


 そう言って、俺はチラリと後ろに控える近習たちに視線を移した。

 視線の先の近習たちは、全員が疲労の色を出し、また着る物もほつれ、砂や土があちこちについている。

 俺の視線の意図に気づいたのであろうエルババは、頷きながら感心した。


「おぉ、そうだな。私が急いていてはいかんな。近習たちもよくここまでエイデンを護衛してくれた。今後は、安心して休むと良い。至急部屋を用意せよ」


 エルババがそう言うと、近くに居た近衛兵たちがササっと動き出す。

 そして、彼らと入れ替わりで見目の麗しい女中たちが入ってきて、俺達の案内を始めた。

 さて、ここまでは良かった。

 後は、なんとか行軍をえっちらおっちら先延ばしにしないとな。




エルドール王国王都 ディークニクト


「……そうか、わかった。今後についてはまだ何も決まっていない。ゆっくりとするように伝えてくれ」

「はっ!」


 聖光教会の件で報告に来た兵にそう言うと、俺はその場に居たセレスとキールに向き直った。


「さて、お聞きの通り聖光教会の総主教の実情は王国中に広まった」

「これで、彼らの力はほぼなくなりましたね」

「ただ、懸念すべきはパウエルの存在ですな」

「あぁ、奴を捕まえるか殺すかしないと、今後もまた増えてくる可能性がある」


 俺がそう言うと、机に広げられていた地図に目を落とした。

 そこには、表の道と裏の道、いわゆる隠し通路も描かれていた。


「恐らくパウエルが使ったのは、王家にある隠し通路に無理やり繋がってきたここね」


 そう言って、セレスが指さしたのは聖光教会近くの隠し通路だ。

 隠し通路の道は、王城側と近くの森へと抜ける道の二つだった。


「あとは、徒歩での移動だから……」


 俺は、その森からほど近い村へと石を置いて行った。

 ただ、把握してない村がある可能性もあるので、現地でしっかりと確認しなければならないが。


「とりあえず、人相書きを手に兵たちには村々を回らせたから、近くを通ったという報せが来るかもしれない」

「ただ、それにはまた時間差がありますからな。捜査の手をまた広げなければなりますまい」

「キールの言う事はもっともだ。ただ、他にやりようもないからな」


 俺がそう言って、両肩をあげるとキールも苦笑していた。


「それと、もう一つ不味い情報が入った。第四王子がどうやら獣王国に入り、エルババと謁見したらしい」

「エイデンが? それは厄介ですね。恐らく獣王国はすぐにでも攻めてくるかもしれません」

「確かに、強欲で残忍なエルババのことです。来るでしょうな」

「俺も最初そう思っていた。だけど、どうやら違うようでな」


 俺がそう前置きをすると、セレスとキールが意外そうな目を向けてきた。

 まぁ長年戦っている相手だから、悪い印象が先立つのも仕方ない。


「もちろん、エルババがこちらを攻めたいという気持ちはあるし、第四王子という歩く大義名分を手に入れたのは事実だ。だが、第四王子がのらりくらりとかわしているらしい」

「エイデンが? 確かに彼は武勇とは無関係な男ですが」

「もしや、こちらに準備の時間を?」

「いや、詳細はこちらも分からない。ただ、エイデンは近習をだしにしてのらりくらりとかわしている」


 そこまで言うと、二人も考えるのを諦めた様にこちらを見てきた。


「まぁ、とりあえずは、当面パウエルに注力できそうだという事だ。念のために国境近くの城に兵を常駐させるように指令を出しておこう」

「そうですね。それくらいで大丈夫だと思うわ」


 俺の案をセレスが了承し、キールも頷いて了承を伝えてきた。

 そして、俺はもう一つの懸案事項を議題に乗せる事にした。


「さて、あともう一つだ。エイデンは放置でも大丈夫だろうが、こっちはそうはいかない」


 そう言って俺が指さしたのは、先日条約を締結した日に出て行った貴族たちの一人だ。

 先々王の弟の血筋にあたる、大公だ。

 この貴族領は、元々第一王子の後ろ盾になっていた貴族だが、先の戦いでは傍観を決めていた。

 どうやら、リオールとの間に確執があるという話だったのだ。

 ただ、その大公が今回は俺たちの元から離れたのだ。


「確かに、この領地を無視することはできませんね。策は何かありますか?」

「獣王国との戦争も控えているからな。ここでいたずらに兵力を消耗したくはない」


 俺達がそんな事を考えてうなっていると、一人の兵が報告に入ってきた。


「失礼します。大公が謁見を求めておりますが、如何されますか?」

「大公が!? これはまたタイミングが良いな。分かった、通せ」


 俺が命令すると、一人の男が部屋へと入ってくるのだった。

次回更新予定は11月27日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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