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王女だってお姉さまを好きになる  作者: 雪の降る冬
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夏を楽しむ少女12

お姉さま、私が元に戻ったことでほっと息をついていました。

化け物に捕らえられてもなお私ばかり気にしてくれていました。

それなのに私は、私は……。


「無事で、よかった、わ。」


そんなことないです。

無事であるはずなんかないです。


「無事、なわけないです!お姉さまが死んでしまったと思いました!もうお姉さまとお別れなのかと思いました!!私は、私の生きる意味を忘れるところでした!!」

「………」


私は、心の中に並べられていく言葉を一言一句違わずに発していました。

口を止めようとも止まることない私を、お姉さまは静かに聞いていました。


「私は、私は弱いんです。どれだけ強い力を持っても、お姉さまがいないと強いままでいられないんです。だから、だから、私の前からいなくならないでください。私の生きる意味を消さないでください!」


最後の言葉まで力強く発してしまった。

私の、私個人の勝手な気持ちをお姉さまにぶつけてしまった。

それでもお姉さまは静かに聞いてくれて、私が言い終わると口を開きました。


「ご、めんな、さい。こんな、弱いお姉ちゃんで、ごめんなさい。」


お姉さまは悲しそうな顔をしながら誤ってきました。

でも、私はそんな言葉が欲しかったわけではなく、そんな言葉を言って欲しかったわけではなかった。


「だから、力を、貸して。あなたの生きる意味を消さないために、あの日の約束を守るために!」

「はいっ////」


私は、手を伸ばす。

お姉さまの手を取るために走り出す。


「グォォォォォォ!!!!!!!!!!!」


お姉さまから私を遠ざけるように方向と共に触手が振り下ろされました。

巨体にもかかわらず振り下ろされる速さは異質を放っていました。


「【火炎球(フレイム)】ブースト!」


それは以前の戦いでお姉さまが使っていたレイピアに魔法を乗せる戦い方。

火属性を選んだのはお姉さまのあの炎を思い浮かべただけで、ほとんど直感でした。

でも、あの化け物の弱点のように思えました。


「私の、邪魔をしないでください!」


振り下ろされる触手めがけてレイピアで一突き。

高温になったレイピアが触手を焼き切りながら貫通していきます。


「はあっ!」

「グゥォォ!!」


化け物が苦痛の悲鳴を上げました。

それまで私には攻撃を仕掛ける時しかあげなかった咆哮をお姉さまのように私自身の力で唸らせたのです。


触手を貫通した私はその勢いに乗ったままお姉さまを目指しました。

早く会いたい。早くあって顔を見たい。

それ一心に目掛けました。


「お姉さま!」

「リー、ナ。よかった。無事の、ようね。」

「私は無事、ですが、お姉さまは…」

「私も、大丈夫だから。……力を、かして。」

「私の力でよければ、ぜひ使ってください。」


私はお姉さまから指し出された手を取りました。

私とお姉さまが手を取った瞬間、私の純潔(イノセンス)とお姉さまが運んでいた慈悲(カインス)が共鳴を起こしました。

しかし、その共鳴は苦しいものではなく、私とお姉さまを優しい光で包みました。


「お姉さま、これは…――」

「気にしなくていいのよ。あなたを傷つかせないから。私を信じて。」


私はお姉さまに従うように首を縦に振りました。

すると視界は晴れて元の場所に戻ってきました。


「リーナ、もう一度あの魔法を使うわ。だから、あなたの魔力を借りるわね。」

「好きなだけ使ってください!」

「勢いがいいわね、何か良い事でもあったのかしら?…さぁ、始めるわよ。【消炎(ロストゼロ)】。」


今度は赤い炎ではなく青くて禍々しい炎が繰り出されました。

美徳(レイン)が共鳴したことによって魔法の威力も格段に上がっていました。

焼き尽くす炎が化け物に着弾した瞬間全身へと回っていきます。

火のついた場所を切り落としたとしてもその炎が回るはずだった場所にはもい一度炎が灯り、焼き尽くす速さも上がっていきます。


「グゥォォォォォォ!!ウォォォォォォ!!」


化け物の叫びがこの空間全体に響きます。

全身に回った炎はすべてを焼き尽くすまで燃え続けます。

たとえどれだけ逃げようともこの世に存在する限り、その存在を消すまで消えないのです。


怪物が立っていた場所には灰だけが残り、綺麗さっぱりになりました。

この空間には私とお姉さま以外何もいなくなりました。


「これで、終わりですね。」

「ええ、これで終わりのはずよ。慈悲(カインス)がそう言っている気がするわ。」


私も慈悲(カインス)から何も感じ取れなくなりました。

これは、共鳴しないほど弱まったということでしょう。

先ほどの化け物が慈悲(カインス)が貯めに貯めた力の全てとだったのでしょう。

とは言え、警戒をしていたにもかかわらず不意打ちをされてしまったため、アリスとエリスと合流するまで気が抜けません。


美徳(レイン)の共鳴が起きない今、私はお姉さまに寄り添いながら帰ります。

腕を組んでみたり、頭を肩に添えてみたりとちょっとしたスキンシップをして。


え?それは『ちょっと』ではないですか?


そんなことありません!

これくらいしないとだめです!

胸が当たるぐらいくっついていないと、もしもの時にまたお姉さまが無理をしてしまいます。

こうして密着していると、即座にお姉さまをお守りすることもできるので一石二鳥というものです。


気分ルンルンで外に出ると、アリスとエリスが疲れ果てたような表情をして待っていました。

アリスからは遅すぎると文句を言われましたが、気にしません。

エリスはねぎらいの言葉をかけてくれて、あの姉を持ちながらどうしてこんな子に育ったのか驚くほどでした。


「丸一日中力を使って疲れたわ。早く帰りましょう。」

「そうはいっても1・2時間程度ではないですか。」

「いえ、こちらではすでに10時間ほどたっています。あちらの空間は時間の進みが歪んでいるのです。洞窟の地下なのでわかりずらいと思いますが、地上に出ればわかると思います。」

「そうなのね。時間をかけてしまって悪かったわね。」


その後も他愛のない掛け合いをしながら地上に戻ると、海に夕焼けが沈んでいるところでした。

海が赤く照らされて美しいと思いつつも、早く戻らないといけないという葛藤に陥りました。


「この景色をゆっくりと眺めていたいのに、早く帰らないといけませんね。」

「会長たちを待たせるわけにはいかないわ。諦めて帰りましょう。」


お姉さまも名残惜しそうに眺めていました。

空間断絶(ショートカット)】を使い、宿泊施設の近くに降りると4人が心配しているところでした。


「会長、遅くなりましたすみません。」

「よかったわ!中々来ないから迷子にでもなっているのかと思ってたの。ちゃんと戻ってきてくれてよかったわ。」

「リーナちゃんも無事でよかったです。」

「楽しさのあまり時間を忘れてしまっていました。レオナちゃんの方はどうでしたか?」

「わ、私は……その、会長と……で、デートを、楽しませてもらいました。」


顔を赤らめながらレオナちゃんはたどたどしく話してくれました。

どうやらレオナちゃんの方はお楽しみだったようです。


「無事にみんな揃ってよかったわ。旅行も明日のお昼までだから、まだ気を抜かないようにね?そのうえで、残りの時間を楽しましょう。」


ここで解散し、明日のお昼まで自由行動になりました。

と言っても、みんな疲れていたみたいで各自部屋に戻りましたが、食事に関しては個人の自由なタイミングでとることになったので、お姉さまと良さそうな場所で取らせてもらいました。

その後はさすがに体力の限界がきてお姉さまのシャワー姿を拝む前に寝てしまいました。



―――――――――――――――

―――――――

―――



夜の空はすでに暗く、月も下がり始めている。

海岸では波のせめぎ合う音が響いていた。


「アリス、いるわよね?」

「もちろん。エリスは置いてきたから今がチャンスよ。それにしても、あの子を連れてこなくていいの?」

「必要ない。これは私の役目よ。それと、あの約束は守ってくれるんでしょうね?」

「もちろん。手に入れた美徳(レイン)はあなたが所持してていいわよ。時が来たら返してもらうけど。」


もちろん、私のやりたいことが終われば返すつもりよ。

たとえあなたが滅んでいたとしても。


海岸沿いを歩いていると、一人の少女の姿があった。

彼女は一昨日見た少女だ。


「あれ?サナさんじゃないですか?」

「………」


彼女は私に気づくと手を振ってきた。

真夜中に一人こんな場所にいるとはなんと不用心なことでしょう。


「サナさんも夜中に散歩ですか?」

「………」


徐々に彼女に近づいていく。

彼女は黙っている私に多少疑問を持っているようだけど、それでもその場を離れたりせず、むしろ近づいてくれた。


「も~、黙ってないで何か言ってくださいよ。一人でしゃべってるみたいじゃないですか?」

「……そうね。聞きたいことがあったの。」


私は彼女の前に立つと、その瞳をのぞき込む。


「ど、どうしたんですか?」

「リザさん、はリーナの友達なのかしら?」

「そんなの当り前じゃないですか。友達ですよ。」

「そう、ならよかったわ。」


私は笑顔を作った。

こちらに敵意はないと示すように手を伸ばす。


「握手ですか?」

「ええ。リーナの友達になってもらってお礼よ。」

「そう、ですか?……分かりました。握手をしましょう。」


彼女は私の手を取ってくれた。

だから私も握り返して、手を引いた。

前傾姿勢になった彼女を支えるようにもう片方の手を使って、彼女の胸を貫いた。


「えっ?……おぇっ…。」


彼女は血を吐いた。

胸から垂れる血と吐き出す血が私を汚す。


「あ~あ、汚い汚い。汚れてしまったじゃない。やめてよね本当に。」


貫いた腕を抜いて彼女を捨てる。

その手には輝かしいものが握られていて、目標が達成されたこと意味していた。


「な、なんで……。」

「?おかしなことを言うわね。あの子の友達なんでしょ?なら、多少の痛い思いも我慢できるでしょう?」


彼女に語り掛けてみたけど、意識がもうろうとしていて聞こえているのか分からない。

むしろ死んでしまうのではないかな?


「殺すつもりはないからあとで再生させてあげる。だから、今は静かにしててね。」


私は奪ったそれを口に含んで飲み込んだ。

他人の血でドロドロして気持ち悪かったけど、力自体は私の体を拒むことなく自然と適応していく。


2つ目の美徳(レイン)を有したら危険と言われたけれど、どうやら私には関係ないらしい。

むしろ自分の物のように感じるぐらいなじんでいる。


「あ、忘れたらいけないわ。治してあげないと。」


すでに意識はない女の体を再生させる。

貫いた心臓を元に戻し、他にも損傷しているところも同時に直していく。

再生させるともう用はないのでここを離れることにした。


「それにしてもあなたの才能には驚かされるわ。妹の強力な力を有しながら、私の能力を2つも持てるなんて普通の人なら無理よ。あなたの存在は本当に不思議ね。まるで2つあるみたい。」

「そんなことどうでもいいでしょ?それより、もうないのね?」

「ええ。美徳(レイン)の反応はないわ。あなたも分かってると思うけど。」


彼女は面白そうに聞いてきた。

確かに分かっている。

何なら、ここに来るまでに2つしか反応がないことも知っていた。

それでも、あの子のように美徳(レイン)が力を持たない状態で移動してくることもあるから確認をしたまでだ。


「なら帰りましょう。要はすんだわ。」

「そうね。」


美徳(レイン)の回収も終わり、もうこの地に用はない。

早く帰りたいものだ。


「……今のあなたをリーナが見たらどう思うかしら?」

「どうでもいい事よ。彼女がどう思おうとも私に関係ない。」

「あらあら。冷酷なのね。リーナとは仲良くしているように見えてたけど、本当に一方的なものだったのね。」

「当り前じゃない。私はあの子に興味なんてないわ。おかしな事を起こさないように話を合わせているだけ。」

「かわいそうな子ね。尊敬する姉がここまで冷徹な女だってことは私しか知らないんだから。いいわね、面白い。」


彼女は楽しそうに笑う。

何が楽しいのか分からないが、彼女にはツボにはまったようだ。


「後1つ。来年中には機会があるのかしら?」

「私の見立てではその通りよ。」

「なら、その時もまた同じように奪うわよ。それで私の願望はかなう。」

「あなたの願いを一度も教えてもらえないけど、楽しみに待っているわ。」


楽しみに待っているがいい。

私の願望が叶うとき、あなたは絶望するでしょうから。

あなた自身の力、あなた自身の妹を殺すことになるのだから。

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