夏を楽しむ少女11
一突き、二突き、三突き...。
螺旋を描きながら繰り出されるそれらの攻撃は、いとも簡単に触手に穴をあけます。
しかし、女神の力を持った化け物はその力を存分に発揮していた。
たかが女神の7つのうちの一つとは言え、どの神でも歯が立たず、協力して初めて力を封印する事しか出来なかったほど強かったもの。
7分の1の力しか持たないのにもかかわらず、アリスを恐れない神は少ないとエリスから聞いています。
そんな女神の力を垂れ流しにし、力に意思をゆだねた化け物は咆哮すら上げない。
穴を開けるけられたとしても、超再生を使い次の瞬間には攻撃へと転じています。
その攻撃を神一重でよけながら、また一撃とこちらも仕掛けます。
超再生によりすぐに傷が塞がりますが、その超再生を使わせることが狙いです。
いくら力を貯めていても限界が来るはずです。
アリスの無尽蔵の力も限りはあったと聞きます。
ならば、どれほどの時間がかかろうがともその時まで戦うまでです。
しかし、……————。
「……っ、かなり固いわね。本気で繰り出しているはずなのに貫通しきらないわ。これは少し、相性が悪いかもしれないわね。」
お姉さまと私は常に本気で攻撃を繰り出しています。
しかし、お姉さまが言うように穴は開いたとしても貫通しきることはありません。
ダメージは通っているようですが、それも微々たるものかもしれません。
「お姉さま、厄罪を発動しましょう!」
「駄目よ!それだけは何があってもやってはダメだわ!」
「しかし、このまま同じことを繰り返したとして、超再生が底が見えません!それならば……、それに、あれはもう美徳ではありません!すでに反転しています!」
「それでもだめよ!」
私の意見は通してもらえませんでした。
私たちの狙いは正当なもので、確実でしょう。
しかし、長引かせるわけには行かいのも事実です。
外で待たせているエリスとアリスは今もなお力を使い続けています。
それに、長期戦は私たちには向いていません。
お姉さまの『神装』は長く続かないはずです。
「何があっても、あなたが反転する必要がないわ!それに、まだ策なら残っているもの!」
「それは言ったいどのようなものでしょうか?」
「隠し玉を使うわ。『再神装』!」
お姉さまはそう叫びました
すると、瞬く間にお姉さまは光に包まれ、次の時には鎧ではなく色鮮やかな羽織を着ていました。
「リーナ、少し下がっていなさい!周囲を一斉に燃やし尽くすわ!」
お姉さまは、懐から何かを取り出しました。
扇子でしょうか?
一振り。
お姉さまがほんの小さな動作で下に振ると、扇子は大きく広がり。
文字通り手の大きさだった扇がほんのひと振りで広げられるともにお姉さまの伸長と同じ大きさになったのです。
そして、また大きく振り上げるとその扇子は炎をともしました。
それは赤々と燃え上がっていてほれぼれとする炎でした。
「行くわよ!【消炎】!」
扇子を横に振ると扇子に灯っていた炎があちこちへと飛び火していきます。
「グォォォォォォ!!!!!!!!!!!」
その攻撃を食らい、初めて化け物は声を上げました。
お姉さまの炎は触手を焼き尽くしていきます。
超再生しようともまた焼かれて再生しません。
それどころか炎は燃え広がっていき、怪物をじわじわと燃え尽くそうとしているのです。
「お姉さま!これならどうにか……っ!?」
喜びの歓声を上げようとして、口止まってしまいました。
お姉さまの魔法は確かに強力でした。
私が美徳を反転させる必要性をなくすには十分なものでしたが、そのあとがどうなりのか考える必要がありました。
美徳に対抗するための力なんて美徳ぐらいです。
人間の力でどうにかなるはずなんてないのです。
例えエリスの力があったとしても、反動はそれなりにあるはずなのです。
攻撃を放った後のお姉さまは『再神装』がすでに解けていて意識がないのか落下していました。
急いで落下地点に走りましたが、ここからでは間に合いません。
「【藍の鎖】!お姉さまぁぁぁ!!!」
赤い鎖が数十本と飛び出していきます。
焦りと恐怖により、上手く操作が出来ていない気がしましたが、それでも感覚のままに動かしていきます。
落下しているものを瞬時に止めてしまえば、反作用によりお姉さまに多大な負荷がかかってしまいます。
ですので、徐々に落下スピードが落ちていくように網状に組んでいきます。
落下しているお姉さまが【藍の鎖】と衝突すると同時に一気に抜いて徐々に力を込めていきます。
なるべく弾力を持たせるように力が入っている部分、入っていない部分を作ったりしてかなり近いものに寄せていきます。
地面に近づくにつれ徐々にスピードが落ちていき、地面すれすれになって完全に止まり切りました。
お姉さまの元に戻ると【藍の鎖】を解いて体を支えてあげます。
「お姉さま!お姉さま!?」
「だ、大丈夫よちょっと力が抜けてしまっただけだから安心しなさい。」
「大丈夫なわけないじゃないですか!?支えてあげないと立てない人を見て無事だと思えるはずがありません。」
お姉さまは私の顔を見て少しだけ悲しそうになりましたが、すぐににっこりと笑って涙をぬぐってくれました。
「敵に攻撃されたわけじゃないんだから。ちょっと魔力をマイナスまで持って行っただけだから本当に大丈夫。」
魔力マイナスに持って行ったといわれて余計安心できません!
魔力を枯渇するだけで気絶する人だっているんです。
それを無い所からさらに持ってきたとなると何を代償にしたかによって話が変わってきます。
「それよりも、早く帰ってあげましょう。あの炎は燃やしつくすまで消えないわ。あの化け物はこれで終わりましょう。」
「そう、でうね。」
お姉さまに肩を貸して二人で歩いて帰ります。
これで終わり。
今回の美徳の回収は終わりなのです。
「グホォォォォ!!!」
背を向けて歩いていると後ろで大きな咆哮が起きました。
最初は負け惜しみのものかと思いましたが、その後に起きた地響きにより一変した事態に気づきます。
「リーナ、危ない!!」
「へっ……?」
何が起きたのかわからない。
気づけば私はお姉さまに押され、押した本人であるお姉さまは姿を消しました。
いえ、投げ飛ばされて視界から外れたのです。
「………」
衝撃による痛みの声はなし。
倒れこんで完全に倒れ伏していました。
そんなお姉さまを怪物は大きな手で握りしめていました。
「どう、して、手が……?」
相手は触手を扱う怪物だと思っていた。
でも、目の前にいる巨大な敵は、先ほどの6倍の大きさになっていて、二足歩行で立っていました。
タコのような触手が生えている顔に、鋭くとがった爪が生えた手足。
全身にぬめりがあり、背中には細長い何かが集合した羽が生えてしました。
その光景を目にして私は…
「こんなの、勝てるわけ……」
敗北を宣言してしまいました。
こんな怪物勝てるはずがない。
手綱であるお姉さまがやられてしまったのであれば、私にはどうすることもできない。
あはは。
あはははは。
心の中で何かが壊れたように、笑みがこぼれてしまいます。
何が楽しいのかわかりませんが、どこからともかく涙とともに笑みがこぼれてしまいます。
「お姉さまがやられた?お姉さまがやられた?いえ、お姉さまが死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?死んだ?」
何度も何度も繰り返す言葉。
まるで私ではない何かがささやいているようでした。
黒くて恐ろしい何かが私をやさしく包んでくれます。
私が力になってあげる、だからあなたを頂戴と、優しくささやいてくれます。
委ねれば気持ちよくなれる。
確信めいた気持が、私を後押ししてくれます。
「私の体を差し上げ…——」
「それはダメ!!」
声のほうへ目を向けると、女がしゃべりかけてきました。
「リーナ!意識を保ちなさい!」
なぜ私の名前を知っているのか?
その疑問を抱えたまま、女の声に耳を澄ませます。
「美徳が反転したら人でいられなくなるわ!戻ってきて!まだ私は死んでない!お姉ちゃんは死んでないから、だから、まだ諦めないで!!」
『お姉ちゃんは死んでない。』
その言葉に意味なんてない。
とてもどうでもいいこと、のはずなのに、もやもやが解けていく気がしました。
「戻ってきて!!」
「お姉さま?」
そうだ、女ではない。
彼女は、どう見てもお姉さまだ。
私は、いつの間にかお姉さまの存在を忘れかけていました。
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