夏を楽しむ少女10
「お姉さま、これはどうなっているのでしょうか?」
「アリスとエリスが言っていた事が本当なら、ここは私たちがいた次元とは違う次元なんでしょうね。」
彼女たちによって作られた道を通ってみれば、目の前には湖とその中心に古ぼけた祠がある風景。
空は無く、宇宙が広がっているかのように暗く、小さく煌めく星が数千数万と広がっていた。
「一先ず、中心に向かいましょう。あそこからは嫌な気配がするわ。」
「そのようですね。私の純潔も微かに反応しています。」
アリスによって共鳴が起きないように耐性をかけてもらったにもかかわらず、ドクンドクンと鼓動が知らしてきます。
あそこには同じ美徳が一つになりたいと、呼び掛けてきます。
「リーナ、共鳴が起こればすぐに離れるのよ?美徳は私が責任をもって回収するから周りの注意だけをしておいて。」
「分かりました。ここに邪魔が入るとは考えずらいですが、細心の注意は心がけておきます。」
物音を立てず、気配を消す。
常に戦闘態勢を維持しつつ、前へ前へと進んでいく。
結果、祠の前まで来ても、当に何も起こらなかった。
何かの罠があるわけもなく、誰かが潜んでいるという事もない。
美徳から攻撃もなく、本当にあっさりと目の前までやってきました。
しかし、お姉さまに気を抜くなと注意されてしまいました。
まだ回収して2人のもとへ戻っていないため、最後の最後まで常に警戒しろと。
それともう一つ。
ここからはお姉さまだけで向かうと言われました。
これ以上私が近づくことで美徳同士が共鳴する恐れがあるため、何も起こらない場所で待機するように言われました。
お姉さまとご一緒出来ないのは悲しいですが、美徳が共鳴するという事態は避けたいです。
アリスの力があるのにもかかわらず効果が薄まっている以上、これ以上近づいて共鳴してしまったとなればそれこそ一大事です。
何かあってからでは遅いので、ここは素直にお姉さまの頼みを聞きます。
その分、お姉さまが美徳を回収するまでの見張りを徹底します。
お姉さまが祭壇に上がり、祠の扉を開けました。
すると、中から無数の光が溢れ出します。
「お姉さま!」
「来てはダメよ!何も問題はないわ!」
動き出そうとした体が、お姉さまの声を聞いて止まりました。
私は少し焦っているようでした。
祠から溢れる光は、放出し終えるとただ一つの小さな光を残して消え去ります。
その日からはお姉さまが取り出し、私に見えるようにしてくれました。
それはまるで真珠のような見た目でありながら、禍々しいオーラを放っていました。
こんなものが神による物なのならば、同じ神が封印しようとする気持ちはわかります。
「早く持ち帰りましょう。」
「お姉さま、私は少し距離をとりながら移動しますね。」
お姉さまの持ってる美徳の卵が私の美徳と共鳴しないように最後まで注意を怠りません。
来た道を折り返すように歩きます。
来るなら来い、けれど命の保証はないと心で唱えながら前へ進んでいきます。
そして、何も起こらず、出口までやってきました。
「お姉さま、もうすぐで―――」
言いかけた時、自分の行動の無力さを悟りました。
何もできない、何もうまくいかない。
傲慢、慢心。
ろくに警護すらできないだなと目の前の惨状に言葉が出ません。
私たちの後ろにその何かは気配を悟られずに立っていました。
イカ?それともタコ?
どちらにしろクラーケンの類でしょうか?
黒い巨体の触手は一本一本が私たちよりも数十倍大きく、気持ち悪くも殺意が込もっていました。
「リーナどうしたの?」
お姉さまですら、後ろの巨体に気づけずにいました。
私の強張った顔に疑問を浮かべているだけです。
そんなお姉さまを狙いすましたかのように、職種の一本がお姉さまに襲い掛かります。
「お姉さま、避けてください!」
「え?」
何におびえているのか、私の体は本能のままに固まっています。
お姉さまに攻撃されているにもかかわらず、私はただ叫ぶ事しか出来ずにいました。
「……――――くはっ!!」
触手の純粋な薙ぎ払いは、お姉さまの体を数百メートル先まで吹き飛ばすほどの威力を持っていました。
吹き飛ばされたお姉さまは、不意打ちであったため受け身が間に合わずに地面に叩きつけられました。
「い、いつ、の間に…くっ!」
立ち上がろうとするお姉さまに、追い打ちをかけるようにまた触手による一撃が繰り出されました。
そこでようやく私の体は動きだしました。
「お姉さま、今助けます!【空間断絶】!」
しかし、私の魔法が繰り出されることはありませんでした。
原因はこの時空が特殊だからなのかもしれません。
瞬時に立てられる仮説は一つ。
時空が混ざり合い、ねじり合い、膨らみ、破壊されてまた混ざり合いと、座標が安定していないためうまく使えないのでしょう。
「このままは知っても間に合いません!こうなれば、【藍の鎖】!」
向こうが触手で攻撃してくるのであればこちらは鎖で立ち向かわせてもらいます。
私からのびる数多くの鎖をお姉さまの前に瞬時に移動させ、複雑に絡み合わせて一つの盾を形成します。
「はぁぁぁあ!!」
触手による一撃。
お姉さまを吹き飛ばした一撃。
重いだけではなく、確実に一転に力が集中して意識を持った攻撃。
「こ、これでは破られてしまいます!ま、負けるわけにはぁ!!」
さらに鎖の数を増して一番力が集中している部分に厚みを持たせます。
それでも攻撃を跳ね返す事が出来ずに鎖の盾は湾曲を描くように曲がってしまいました。
「な、何とか攻撃を凌ぎ…――なっ!?」
防ぎきったと思ったら、更に攻撃が繰り出されました。
しかも、2撃、3撃と地面から生えている触手全てが一斉にお姉さまを狙っています。
「これでは…!?……守るのはやめです。お姉さま、どうかこれからのする扱いをお許しください。」
盾を作っていた鎖を解き、ドリルの様な螺旋を描く形に変えます。
触手と同じ数を用意して一点集中で反撃に出ます。
「貫きなさい!」
触手の先端めがけて鎖を発射すると空中で押し合いが起きます。
貫くために形成したにもかかわらず、思わぬ装甲の厚さに貫けずいます。
何なら、押し負けているようにも見えます。
「誤算ですが、時間は稼げました!お姉さま、引き上げます!」
押し合いになってる最中にお姉さまの体に鎖を巻き付けておいたおかげで引っ張るだけでお姉さまを私のもとへ移動させる事が出来ました。
「お姉さま、すぐにこれを飲んでください!」
「あり、がとう。」
緊急時のために用意しておいた回復薬を渡しました。
それを飲むと見る見るうちにお姉さまの体が癒えていきます。
「助かったわ。あれだけリーナに警戒をするように注意していたのに、不覚を取ってしまったわ。」
「いえ、あれか完全に気配を隠していました。むしろいきなり瞬間移動して現れたと言っていいほど唐突に現れていました。」
「卑怯と言ってあげたいけど、倒さない事には何も解決しないわね。リーナ、『乙女衣装』を使うわよ!手を抜いていたら痛い目を見るわ。『神装』!」
お姉さまは『解核』からではなく『神装』を使用しました。
これは最初から周りを気にせず本気で行くという証です。
「私も参ります。『解核』!……―――あ!?」
お姉さまに続いて華麗にと思っていたのに大事なことを忘れていました。
私は『解核』が出来ないのでした!?
これでは本当にただの足手まといでしかありません。
「リーナ、私のレイピアを思い浮かべない!あなたなら出来るはずよ!」
私があたふたしているとお姉さまがアドバイスをしてくれました。
お姉さまの細く鋭く白く透き通った純潔の剣。
「これならいける気がしそうです。『解核』!!」
声と共に私の『乙女衣装』であるペンダントが光放った。
ペンダントは形を変え一つのカギへと姿を変えました。
そのカギを手に取り、無意識のまま目の前の空間に差し込みました。
軽くひねると扉が開き、一つのレイピアが私の前に現れました。
現れたレイピアを掴み、引き抜いて攻撃態勢に入ります。
「お姉さま、準備はできました!」
「使えるようになったのね!さぁ、二人であの化け物を倒しましょうか!」
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