夏を楽しむ少女8
朝の点呼が終わと、すぐさまお姉さまと4人で町外れに。
人気がなくなるにつれ建物も減っていき、どんどん自然が姿を表していきます。
「ここからは、リーナの力が必要よ。」
アリスが言うには、美徳が存在するのは海を渡った先にある小さな島の中心に封印されているとの事です。
海を渡るには船が必要ですが、自分たちで用意はできません。
よって、私の出番です。
私は使える魔法【空間断絶】は記憶のある場所へ跳ぶ事が出来ます。
一度訪れた場所であれば好きなように行き来出来ますが、今回のように訪れた事のない場所では使えません。
なので、普通であれば、【空間断絶】を使ってもあの島へと行く事が出来ませんが、そこで【共有意識】を使う事で可能になります。
【共有意識】でアリスの記憶を共有することで目的の場所へ訪れた記憶が手に入り、訪れたという偽の記憶を作る事で【空間断絶】が使えるようになるのです。
「アリス、記憶を覗きますよ。」
「いいけど、妹とデートの記憶とか余計なものは覗かないでね?」
「お、お姉さま!!」
「ふふっ。」
他人の記憶を奪う以上、それが女神であってもプライベートを覗くような事はしません。
例え相手が悪人でも覗くという行為は下劣ですから。
「さ、始めて。」
余裕そうに笑う顔は気に入りませんが、ここで駄々をこねてはお姉さまに恥ずかしい姿を見られるだけなのでしょうがなくおでこを合わせます。
その瞬間に【共有意識】を使い、アリスの記憶を覗きます。
覗いたらすぐに白い霧が発生するのでそれをかき分けながらお目当ての記憶を探すのですが、相手がアリスだからなのか記憶を覗いた次には島に立っていました。
周りは海に囲まれ、そこまで大きくない島。
島の中心には祠のようなものがあり、そこに美徳があるのだと記憶の中であると言うのに鼓動が教えてくれました。
そこから離れ、島を一周し確実に座標を記憶すると魔法を解除します。
「どうだったかしら?」
「完璧に記憶しました。これなら行けるはずです。お姉さまお手をお貸しください。」
「任せたわ。」
お姉さまのお手を借りると、【空間断絶】を発動します。
体が軽くなったと思えば、宙を浮き、時空の狭間に入り込む。
そこからは一本道を通り抜けます。
「本当におかしな感じね。この空間でどれだけ過ごしても、抜け出せば一瞬の出来事なんだから。」
「そうですね。使用者で製作者である私も未だに原理はわかりません。」
「それなのに使用できるのだからリーナは魔法才能があるわよ。」
「そ、それは恐縮です。」
お姉様に褒められて照れてしまいます!
しかし、本当にこの魔法は原理がわかりません。
【空間断絶】が生まれたのは偶然で、【存在しない実験室】を創る際に生まれた副産物。
【存在しない実験室】は、この世界の中に新たな空間を創ろうという思いで、4次元、5次元、6次元と次元を上げながらどの次元なら新しい空間が創れるのかと実験しました。
しかし、なかなか上手く事が無く、完成する見込みは薄かったです。
そこで、次元を上げるだけではなくその空間座標をより正確にして次元の隙間を特定することで空間を作る魔法にするのではなく、元々存在する誰にも知られない空間と現在地の距離を零にしてあたかもそこに存在するようにする魔法にしようと路線変更しました。
その結果、何十という細かい座標の特定を強いられましたが、私専用の魔法が出来たのです。
それを応用してとある場所を点として必要な座標を10以上の座標を記録する事でその点と今の点の距離を零にするのが【空間断絶】です。
しかし、この魔法は応用で創れただけなので2点だけ不可思議なことがあります。
1つは距離の問題です。
今回のように【空間断絶】を使った場合、大体1キロメートルなら体感では10メートル移動した感覚があります。
しかし、【存在しない実験室】を使った場合は移動したという感覚は一切ありません。
むしろ、扉を開けたら部屋があったという感覚です。
だだし、これに関しては座標を基にした仮説があり、【存在しない実験室】に用いる座標自体が近いからだと思われます。
座標は近いのですが多重次元に存在するため通常では認識できませんが実際は手を伸ばせば届く距離にあるのです。
よって、体感距離の差が出ているのだと思います。
そしてもう一つの問題ですが、どうして時間がかからないのかというモノです。
確かに時空の狭間を動いているので時間は立っているはずなのに実際にかかった時間はほんの一瞬なのです。
これに関してはお手上げで、今もなお分かっていません。
「お姉さま、そろそろ着き――きゃっ!?」
「リーナ!?」
そろそろ着くといった所で移動速度が増しました。
何かの力に引き寄せられるように加速していき、体を思うように動かせないまま空間の狭間を抜けました。
「つ、いた?……のでしょうか?」
「どうしたの!?最後の方は明らかにおかしかったわよ!?」
「わ、私にもどうしてなのか、いきな――っ!?」
何かに反応するように突然鼓動が加速しました。
脈打つ血流が大きく響き、心臓が苦しくなって抑えないと今にも倒れそうです。
「お、お姉、さま……」
「リーナ、今は抑え込むのよ!そのままでは乗っ取られるわ!?」
この脈打つ響きは美徳による共鳴!
私の純潔と封印されている美徳が一緒になろうと暴れています。
「こ、こんな、所で、…」
「何か、何かできる事は……っ!!」
お姉さまもどうにかしようとしてくれてますが、これは美徳の生物としての本能によるものなので、私でも抑える以外の方法が分かりません。
しかし、このままでは本当に乗っ取られる可能性があります。
どうにか、どうにかしなければ!!
「忘れてたわ。リーナに共鳴を抑える力を付けておかないといけないんだったわ!」
下手糞な演技をしながらやっとアリスが現れました。
「お姉さま!口を動かす前に手を動かさないと!?リーナさんが大変な事になるよ!?」
「もう少し遅くても大丈夫よ。この子はそこまで脆くないわ。」
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