戻ってきた少女5
充実した数日が経ったけど、あまりお姉さまとイチャイチャする時間はありませんでした。体目当てで脳がピンク色の殿方が、お姉さまが帰って来たと知った途端に毎日のように入れ替わりに訪れてくるのです。
王女である私が先に訪れているのに、無礼にも程があります。
お姉さまはお優しいので顔を合わせる程度の事はしているのですが、私としてはさっさと蹴散らして欲しいところです。
せっかくお姉さまとの時間をもらえたと思ったら、うじゃうじゃと湧いてくる訪問者のお相手で相手にしてもらえなくて怒です。
しかしそれも今日までです。
こちらとしては少し不本意ですがとある方の協力で明日から訪れてくる人はいなくなるでしょう。
今日はその打ち合わせの最終段階です。
「なんだい?お互いのためにこうして集まってるんだ。そう怪訝そうな顔をしないでくれ。」
「確かにお互いのためですが、私の中で貴方は1番の要注意人物です。」
「そう言わないでくれよ。元婚約者じゃないか。」
そうです。
確かに彼、イロエは私の元婚約者ではありますが、決して仲がいいわけではありません。
むしろ一番の敵であると言っても過言ではありません。
同じ血を持つだけなのにそれだけで高位のマウンティングが出来ます。
「婚約者になる件もお姉さまを他の誰にも奪わせないという条件があったからです。しかし、後2年は学園側の都合もあり婚約の話も無し。本当なら、こうしてあなたと会わなくてもいいのですよ。」
イロエと私が婚約するにあたって表面上はお互いの両親が面識があり信頼たりえるからというもの。
幼いころから私たちも面識があり、私はあくまでお姉さまと仲良くしていたつもりでしたが、周りからは3人仲よく遊んでいるように見えていたらしく、そこも婚約するにあたっての決め手になりました。
しかし、裏では私とイロエの心理戦です。
幼い時からイロエは他人とは違う腹黒さは知っており、重度のシスコンであるとも知っていました。
妹のためには何でもする、それがどれだけ残虐であろうとも顔色変えず笑って行うような人物です。
お姉さまの事を女神と称し崇めるほどです。
そんな彼と私の間での契約は2つ。
私からはお姉さまは私以外とは結婚させないこと。
イロエからは自分以外に結婚させない事でした。
簡単に言えば、お姉さまをイロエの第2の妻として迎え入れ、2人のもとに他の誰にも渡さないという物でした。
誰であろうとも大人になれば結婚してしまいます。
私ですらイロエと言う婚約者を連れてこられるほど。
お姉さまは今のところ決まっていませんが、時間の問題でしょう。
ですから、決まっていないうちに私たちの中で決めていたのです。
そうすればお姉さまは私たち2人のものに必ずなります。
イロエに多少の時間を奪われますが、女同士の結婚が許されていない以上一夫多妻制にすがるしか、他の輩に奪われない方法はありませんでした。
「うん、君からしたらそうかもしれない。しかし、こちらの国にいる間はどうだろう?本当なら死ぬまで手の離さずに住む場所に置いておきたい気持ちでいっぱいだ。しかし、我が妹にして崇高で聡明な女性を自分のものにしたいと言いだす豚どもは必ずいる。残念なことに今だってそんな豚どもがはい寄ってきている。…本当に残念だ。綺麗で美しい妹が、溝にでも住んで居るような豚どもと会わないとはいけないとは。いつ汚れるか心配で蕁麻疹が出てしまうよ。」
今の話を聞いてもらえばわかると思いますが、イロエは重度のシスコンです。
お姉さまを監禁してしてでも自分のものにしたいと言う変態です。
普段は紳士としての態度を取っているので、周りからは評判はいいのですが、私としては腹黒い仮面をした最大の敵。
血のつながりを持つだけでも切り札になりえるのに、お姉さまの前でも立派な兄を演じているため、お姉さまの信頼も高くて難攻不落の鉄壁です。
しかし、彼のお姉さまへの思いは私に匹敵するものであり、幼少期の付き合いから多少は信頼できます。
その点から婚約者に選んだと言っても過言ではありません。
他の輩よりも、お姉さまへの気持ちと信頼があるイロエを選ぶほかありませんでした。
「私としては、蕁麻疹が出て一生その病気で部屋から出られないようになって欲しいですね。あなたと話してもお姉さまは汚れるに決まっています。」
「辛辣だね。君もあの豚どもがサナと会う事に苛立っているのかい?」
「確かにそうですね。私が、王女である私がお姉さまを訪れに来ているのに、常識知らずな輩のせいでその時間を奪われ、あまつさえ話したくもない相手と話す事になって苛立たない方がおかしいです。」
思い返すだけで腹立たしい。
私を差し置いてお姉さまと同じ部屋で同じ空気を吸って話をするなど死刑にしたくてしょうがない。
「まあ、密かに訪問した君に落ち度もあるんだ。こういうのはひっそりとするよりも大々的にすべきだ。そうすれば、豚どもも権力に恐れてこなくなるだろう。‥‥君の首を狙う輩がはい寄って来るかもしれないが、こっちも鍛えているんだ。そこらの虫に劣ることはない。」
確かに彼の実力は相当なものだ。
私やお姉さまと言った女神の恩恵を受けていない人間を除けば国一。
隣国を何個含めたところで彼に勝るものはほぼいないと言っていない程かもしれない。
イロエは疑り深い性格だから、他人を頼ることはしない。
どんな時でもお姉さまは自分の手で守ると言って、幼少期から常に努力を怠らなかった。
天賦の才能による自信ではなく、積み上げた経験と努力による自信。
「そこでだ。今日は少し街を2人だけで歩かないかい?」
「お断りです。」
他の貴族の娘たちなら、即イエスと言うかもしれませんが、私からすればどうしてそのような無駄なことをしなくてもいけないのかという事しか思わない。
本当に、この男のどこがいいのやら。
「そう早まらないでくれ。さっきも言ったじゃないか。君がひっそりとここに居るから知らずに豚どもが訪れると。だから、君がここに来ていると示すんだ。町にいる虫たちは口が軽いからね、噂ならすぐに広がる。誰か一人でもその光景を見るだけで国中に広がる。そして、」
まるでここからが本番かのように顔つきが変わった。
「これ君のためにもなる。今フリーとなった君を狙う輩は多くいる。今の君は拘束と言う陳腐なもので婚約者がいないんだ。この期に少しでも仲良くしようとする者はいるだろう。だから、俺と君の中は未だに良好であるという事を示すんだ。君だってどこの馬の骨とも分からない豚と結婚はしたくないだろ?知っているかい?君の公約者候補がまた選別され始めていることを。」
何ですかそれは!?
私はそんなこと聞いていませんは!?
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