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侵入

「という訳で今からこの株式会社NANAの本社に侵入する」


 どん! と漫画なら文字が現れそうな感じで白雪姫先生がビルを指差す。ちょ、周りの人が見てるからやめて下さいそのポーズ。ちなみに徒然君は変身を解いたのでもうただの美少年です。

 ビルは周りのビルと比べ一際大きくてどんなに凄い会社なのか外見だけで分かってしまいます。当たり前といちゃ当たり前なんでしょうけどセキュリティが厳重そう。

 まぁ私にはそれ以前に突っ込みたい事がある訳で。


「この疲労しまくった身体と精神の状態で潜入するんですか」


「え? もう天橋立疲れちゃったの」


 むしろなんであんな事があった後でケロッとしていられるんですかね。


「天橋立さん。これも慣れだから」


 さいですか徒然君。でも何でもかんでも慣れって言えば通じる訳じゃないからそこを覚えておいてほしい。今は言ったって仕方が無いのでもう一度口の中に押し込みますが。こうしてきたおかげで私のお腹の中は言いたい事で一杯なのですが。形にしたら妊婦さんに間違えられるのではないでしょうか。


「分かりました(という事にしておきます)。で、このセキュリティ万全のビルにどうやって侵入するんですか」


「魔法を使うつもりだ」


 ちょっと魔法をなめていました。案外魔法って色々できるんでしたね。さっき痛い目見たばっかだってのに。


「じゃあ、さっさと済ませちゃいましょう。早く帰りたいんで」


 と、本社に入ろうとしたところ、


「待て待て。まだ準備が済んでないぞ」


 白雪姫先生からのストップ。そしてビルの裏路地に連れ込まれる。また裏路地ですか。


「変装がまだだ」


「変装なんて必要なんですか?」


「さっき楽は魔法が苦手って言ったろ。魔法を使わなくていいところはできるだけ使わずにやらないと楽だけじゃなく俺まで疲れんだよ」


 面倒だけど、と付け加える白雪姫先生。確か攻撃魔法以外は苦手なんでしたっけ。

 白雪姫先生は私に紙袋を一つ手渡してくる。


「こんなかに変装道具入ってるから。着換えろ」


「はい。…………………」


「どうした、天橋立?」


「あの、どっかいってくれると有難いのですが」


「なんで」


 本気で言ってんのかこの教師。待て待て、私の前に座り込むな、下から、覗きこむんじゃない、チッじゃない、パンツスタイルにして来て良かった。残念そうな顔をしながらも動く様子が無いので追加で言う。


「徒然君が空気を呼んでいつの間にか裏路地奥に行って壁の方向いてくれてるので察せませんか」


「じゃあ、なんで俺が天橋立の事をじっと見てるのか察してもいんじゃね?」


 ん? という事はこの一見私の着替えを堂々と見ようとしようとする行動には別の意味が? なんでしょうか。白雪姫先生を観察してみます。先生はじっと前を私を見ています。……まさか、私の事を疑っている? 今までの行動で疑わしい行動でもとってしまったのでしょうか。ちょっと振り返ってみましょう。


・白雪姫先生に対する塩対応数回

・戦闘時の数々の罵倒

・敵側について攻撃を仕掛ける

・とにかく軽蔑しまくる


 あ。むしろ疑わない方がおかしいですね。完全に怒ってますよね白雪姫先生。な、何とかして怒りと疑いを失くさないと。どうにかしてこの行為を好意的に受け取って……。


「白雪姫先生まさか他に覗く人がいないか心配なんですか? 私は大丈夫ですよ?」


 私の精一杯の笑顔で答えます。どうです! 


「は? 普通にJKの生着替え見たいだけだけど」


「死んでください」


 まるで汚物を見る目で白雪姫先生を見下します。いや、心のは立派な汚物なんですけど。


「徒然君、この変態をどうにかしてください」


「マスター、流石に通報するよ」


「警察なんだけど俺。まぁ、いいや。…………楽ぅ、魔法で覗かねぇ?」


「聞こえてますからね!」


「チッ」


 やっと裏路地の壁の方で私と同じ紙袋を漁り始めた二人を見て私も着替え始めます。できるだけ急いで。

 紙袋は灰色のつなぎと帽子、ピンクのゴム手袋でした。これは清掃員の格好ですかね。まぁこの格好ならビルに入っていっても可笑しくなさそうですね。

 もともと着ていた服を紙袋に詰めたところで徒然君の「もういい?」という声が聞こえてきたので「大丈夫ですよ」と返す。

 振り返ると私と同じ恰好した二人がいました。なんというか二人とも美系過ぎてまったく似合っていません。


「準備は大丈夫だな。良し、行くぞ」


「ストップ」


「なんだ天橋立」


「何当然のようにビルを登ってるんですか。普通に正面からいきましょうよ」


 今回は徒然君までもビルの壁に手をかけて登る気満々のよう。


「あのなぁ、魔法はできるだけ節約したいの。こっちから入っていくんじゃなくて入れて貰いに行くの」


「入れて貰いに?」


「まぁくりゃ分かるからさ。ほら、手貸せよ」


 不安ではありますが仕方が無いので白雪姫先生に手を貸してもらいながら壁を登っていきます。たまに窓越しに従業員の方と目が合うのですが、


「あ、あの白雪姫先生?」


「どうした?」


「さっきから会社の方に物凄く変な目で見られている気がするんですが、私の変装って何か可笑しいのですか」


「そりゃ今お前の顔向こうからは般若の面と同じ顔に見えてるからな」


「何言っているか意味が分からないんですが」


「窓を鏡変わりに見てみ?」


 そう言われたので恐る恐る窓に反射した自分を見ると本当に般若の顔をした自分が。ついでに白雪姫先生はひょっとこ、徒然君は日曜朝にやっている魔法少女物のアニメキャラクターの顔をしている。


「これが、魔法だ。凄いだろ」


「いやいや、むしろ不自然になってますけど!?」


「大丈夫、僕等はこの魔法にかかっても互いの顔は通常通りに見えるから」


「そういう問題じゃない!」


 私のツッコミを無視してどんどん登っていく。ええい、どうにでもなれ。もう疲れた。

 ある程度上った所で白雪姫先生が話しかけてくる。


「さて、天橋立出番だ」


「何すればいいんですか」


「別にお前は何もしなくていい」


「ん?」


「ただ俺がお前の手を離せばいいだけだからな」


 言うと同時にホントに綺麗な笑顔で白雪姫先生は私の手を放す。ああ、今白雪姫先生はひょっとこより楽しそうな顔してますよ。


「嘘でしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおおお!?」


 きっと私は二人からしたら魔法の影響を受けていなくても般若の顔に見えているんでしょうね。


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