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魔法少女の戦い方

 魔法少女達が地面を蹴った瞬間軽く風が巻き起こり、私の髪を揺らしました。たかが走り出しただけでこの威力。どうせなら真近で戦闘を見ていたかったのですが、保身の方が大切です。まだ序盤ですし、ここは言われた通りにゴミ箱の影にでも隠れておきましょう。

 顔はこっそりのぞかせておきます。


 私が色々考えている間にも戦いは動き続けていました。


 二人の魔法少女が同時に弓矢とクナイを放ちます。するとそれぞれの武器は緑と赤の光を帯び、暗かった裏路地を照らしながら飛び交います。遠くから見ればさぞかし綺麗な光景でしょう。真近で見れば命の危機を感じる地獄絵図ですが。

 二人は手で武器を扱いながら足やまたは武器同士をぶつけて攻撃を防いでいます。正直早すぎて素人目では良く分かりません。

 私が分かるのはぜいぜいこれが人間業ではない事だけ。魔法少女の顔は真剣そのもの。攻撃が当たれば命が無い。


「いい機会だ、天橋立にレクチャーしてやる」


「えっ!? この状況で!?」


 そんな張りつめた空気の中で白雪姫先生のまさかの発言。この人は徒然君が必死に戦っているというのに余裕そうなにやけ面。ちょっとそれ徒然君のパートナーとしてどうなんですか。

 相手の在原会長もちょっと不快そうな表情に。確かになめてんのかって思いますよね。


「戦ってるんですよ! レクチャーなんて後でも結構です」


「まぁまぁ、そういうな。俺に攻撃は当たんないから」


「別に白雪姫先生の心配はしていません」


「冷たいねぇ」


 この会話を聞いていた在原会長がぼそっと「白雪姫先生も大概だ」と呟いていました。ごもっともです。白雪姫先生はスルーしていましたが。


「あの緑や赤の光は魔法だ」


 本当に始めやがりましたよこの人。ありがたい事にはありがたいんですが。


「ぶっちゃけると魔法少女の使っている武器は数の制限が無いだけで威力は普通の武器と変わらない。でも、ああやって魔法を使う事で威力を増しているわけ」


「思ったよりも魔法ってメイン張ってるわけじゃないんですね」


 私的にはRPGみたいに炎や水を操ったりするイメージがあったのですが。確かに魔法少女の戦い方を見ると武器を使ったり、手足を使ったりした肉弾戦ですね。


「いや直接攻撃の魔法もあるが魔力消費がでかいんだよ。ボコスカ魔法打ってると魔力無くなるし、魔法少女の負担も大きい」


 本当にRPGみたいな感じですね。頭使って戦わないと魔力切れになると。


「んで、戦いの基本だが……おっとあぶねぇ!」


 白雪姫先生がちらっと私を見た瞬間、それを狙ったように赤い光を帯びたクナイが数本、白雪姫先生の方に飛んできた。

 しかし、白雪姫先生は慣れたようにクナイを避けて行く。


「ごめん、マスター。弾ききれなかった」


「気にすんな。こっちに来ても避けるから回避より攻撃を優先するぞ」


「了解」


 短いやり取りを済ませた徒然君は今までほとんどのクナイを弾いていたのにあまり弾かず攻撃に力を注いでいった。

 なので自然と白雪姫先生の方に大量のクナイが飛んでくる。


「ちょ! 白雪姫先生!」


 あんな大量のクナイ、避けきれない。私が叫んだところでクナイがどうにかなるはずもなく白雪姫先生に真っ直ぐ飛んでいく。


 クナイがぶつかる寸前、白雪姫先生はビルの窓のふちを掴んで大きく飛んだ。当たりそうだったクナイを見事に避ける。しかし、安心する隙もなく飛びあがった白雪姫先生狙いのクナイが飛んでくる。


「攻撃の基本! それは魔法少女使い狙いで攻撃を展開すること!」


 叫びながら白雪姫先生は今度はパイプに捕まって一回転、更に追加を日傘でたたき落とす。クナイは裏路地の奥に消えて行く。

 いったいこの人の身体能力どうなっているんでしょう。

 ちらっと在原会長の方を見ると彼の方も徒然君の攻撃が通って来たらしく、アクロバティックに攻撃を避ける。ゴミ箱の上に飛び乗り、更に上の窓のふちを掴む。ついに避けられそうにない攻撃が来てもどこからかクナイが飛んできて弓矢を落とす、足で叩き落とす。

 なるほどこの回避能力は魔法少女使い共通ですか。


「魔法少女使いは魔法少女の操り手。つまり、魔法少女使いが倒れれば魔法少女も戦えなくなる」


「ウィンディー」


 徒然君がぼっそっと呟くと暴風が吹き荒れクナイを吹き飛ばすと一緒に飛んでいく弓矢のスピードを上げて行く。風は軌道が合わされているのか弓矢が、クナイが在原会長の方に飛んでいく。

 なるほどこれが魔法ですか。


「会長! ちっ、シールド!」


 かぐやさんが叫ぶと在原会長の二メートルくらい前に半透明の赤色のシールドが現れる。シールドはクナイや弓矢をどんどん弾いていく。


「くっ!」


 しかし、かぐやさんの表情はすこし苦しそうです。


「かぐや、もういい! 後は避ける!」


「しかし!」


 涙目でかぐやさんは在原会長を見ます。未だに武器は在原会長を狙い続けている。


「やめてやればー? やめてって言ってんだからさぁ」


 お互いパートナーを気遣った美しい状況に水を差すはやはりこの人、白雪姫先生。私の隠れているゴミ箱の上に呑気に足を組んで座り、髪の毛をいじりながら嫌みな声で言う。

 敵だからってわざわざ声に出して言わなくともいいのに。

 

 かぐやさんが白雪姫先生を睨みつけながら言い返す。


「あんたには関係ないっ!」


「あー、かぐやちゃんだっけ? あんたあんまり強くないし、新人さんでしょ?」


「だからなんだ。私達は三人も倒して来たんだ」


「三人もねー。結構無茶しながら戦ってきたでしょ。辛いだろうに」


「辛くとも! 私は、会長と目的を果たすためならば!」


「目的を果たすためならば、その会長すらも苦しめる覚悟ができてると?」


「……どういうこと」


 かぐやさんが眉を寄せる。

 顔が見えないので分かりませんが、何となくですけど、白雪姫先生が真剣な雰囲気をまとっているのを感じます。


「魔法少女使いは魔法少女の負担を減らすためにいる。魔法少女使いがどれほどの負担を引き受けてるか知ってるか?」


 かぐやさんは答えない。


「あんたの痛みの2倍だよ」


 次の瞬間、かぐやさんのシールドが弓矢に貫かれて割れた。


 シールドという壁が無くなったため在原会長を弓矢が襲う。最初こそはビルを上手く使って避けていたもののあまりの数の多さに肩を一本の弓矢が貫いた。顔をゆがめて傷口を抑える。


「すみません、会長!」


「気にするな、攻撃の手を緩めるな。魔法を使え!」


「でも!」


「使え!」


 かぐやさんは目を一瞬つぶって、開く。そして、決意したような表情をして、動き出す。


 二つのビルの壁を蹴ってどんどん上に登っていく。


「楽、俺は大丈夫だから魔法少女使いを狙え」


「分かった」


 かぐやさんが在原会長の前から外れたのを好機をとらえた徒然君は再び弓を引く。また、裏路地を緑の光が埋める。


「ファイア」


 いつの間にか徒然君の頭上まで登ってきたかぐやさんが呟く。するといきなり炎が徒然君と白雪姫先生を分断する形で現れる。


「やっべ」


 白雪姫先生がぼそっと言う。


「ちょっと! どうするんですか!」


「何とかよけるしなねーわ」


 白雪姫先生が自信なさげに言うと同時に、かぐやさんが上から大量のクナイを投げてくる。赤色に光るそれは雨のように降り注いできた。


 白雪姫先生は宣言通りゴミ箱の上から飛び、地面を転がりながら避けていく。

 目標がいなくなったクナイはそのまま私の隠れているゴミ箱に向かってくる。


「えっ」


 私は頭で良く理解できず、ただ木っ端みじんにされていくゴミ箱を見ていた。

 完全にミンチにされたゴミ箱は盾の役割はもう果たしそうにない。


 それでも、クナイは私の方に向かってくるのです。


「う、うっそぉ!」


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