騎士と大型犬
魔術学的な価値だけでなく、歴史的な価値も高い書類に埋もれ、見たこともない珍しい魔法陣に夢中になること数時間。
途中でアメリさんに「そろそろお食事をしてくださいませ」と止められて食堂に行き、ボリューム満点でしかも美味しい定食を食べてまた書類に埋もれる。
魔法陣に囲まれた至福の時間だったけれど、気が付けば夜になっていた。
カタンッと音がして扉が開く。
「アメリさん?」
『ワフ……』
「……ジーク! どうしてここに?」
『ワフ、ワフ……』
アメリさんはおらず、扉の近くにいたのは大型犬、ジークだった。
何か言いたげなその様子に思わず口の端が緩んでしまう。
「まるで言葉がわかっているみたいね」
『ワフゥ……』
ジークの前にしゃがみ込むと、額を私の手の甲に押し付けてくる。ものすごく可愛いその姿に夢中になってしまいそうだ。
あいかわらずピョコピョコと三本脚で歩いていて痛々しい。それでも包帯に血が滲んでいないようでホッとする。
「まだ痛い?」
『ワフ!』
首をブンブン振っている……やはりどうしても言葉がわかっているように思えてしまう。
「そういえば、外がもう暗いね……。ジークウェルト様、お仕事終わったかな」
『クウン……』
資料室の外に出てみる。そこには副団長ランディス様がいた。
「副団長様……?」
「……」
私が立ち上がって礼をすると、ランディス様は眉根を寄せて私とジークに交互に視線を向けた。
「やはり、あの毒の影響で魔力が不安定なようですね」
『クゥン』
「……毒?」
不穏な言葉が聞こえて思わず眉をひそめる。ランディス様が完璧な笑みをこちらに向けた。
「いいえ、こちらの話です。そういえば、団長殿より言付けが」
「言付け?」
妙に深刻な雰囲気に急に不安になる。
誰かが毒に侵されたのだろうか。
「団長殿は少々体調を崩されまして」
「毒ってもしかしてジークウェルト様……いえ、サーベル侯爵の話ですか!?」
「……ああ、名前呼びまでしてもらっておいて、まだ何も話していないのですか?」
『グルル』
なぜかランディス様が呆れたように肩をすくめた。
「命には別状ないのですが、団長殿は先日毒に侵されましてね。その影響で魔力が不安定なので今夜は騎士団の医務室で休んで帰るそうです」
「……そんな」
「ジークと屋敷に戻るようミリスティア様に伝えてほしいと」
『……』
「そうですか……」
心配でしかたがないけれど、私が騎士団の医務室に行くわけにもいかないだろう。
ジークが早く帰ろう、とでも言うようにグイグイと私の膝裏を額で押してくる。
「では、お大事にとお伝えください」
「ええ……」
ジークが私を先導するようにピョコピョコと歩む。
騎士団の建物を出ると馬車が停められてアメリさんが待っていた。
「少々遅くなってしまいましたね」
「すみません」
「失礼しました。フィア様に対してではなく……」
なぜかアメリさんが、ジークをジロリとにらんだ。
「馬車を待たせてあります。参りましょう」
やはり無表情なアメリさんに連れられて、私たちはサーベル侯爵家へと戻ったのだった。
* * *
豪華な夕食も心配のあまり味がしない。
一人で眠る気になれず、ジークと一緒にソファーに座り暖炉の火に当たる。
「ジーク、ジークウェルト様は大丈夫かな」
『……ワフ』
「一緒に帰ろうと言っていたのに、帰れないほど具合が悪いのかな……心配だよ」
『……』
私を慰めるようにグイグイとジークが体を押し付けてくる。
いつの間にかうとうと眠ってしまった私に暖かい羽布団が掛けられる。
目を覚ましたとき、そばにジークはいなくて、部屋には朝日が差し込んでいた。
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