魔術師と大型犬
『グルル』
ジークウェルト様は本日非番。どうしてもついてくると聞かず、魔術師ギルドに二人並んで入ろうとした……けれど少し手前で大型犬に姿を変えてしまった。
「その姿で行くのですか? やはり私一人で」
『グル!』
首をぶんぶんと振る大型犬。
その瞳には知性と断固たる拒否の光が浮かんでいる。
「でも……」
「やあ、待ちかねたよ。二人とも」
そのとき、私たちに優しげな声がかけられた。
目の前に立つのは魔術師ギルドの象徴である白地に金の装飾のロングコートを羽織った男性だ。
「リアス先生!」
「フィア君、元気そうで何よりだ」
『グルゥ』
「話は聞き及んでいる。その姿で来たということは、ようやくフィア君に対して素直になったのかな?」
『……』
ツンッとそっぽを向いてしまったジーク。恩師であるリアス先生に対して失礼だと思うけれど、リアス先生とジークウェルト様も王立学園で教師と生徒だったのだから、二人にしかわからない何かがあるのかもしれない。
「さて、このままでは目立つ。とりあえず中に入りなさい」
リアス先生は私たちの卒業と同時に教職を離れ、現在は魔術師ギルドの副ギルド長の地位にいる。
本来であれば先生を頼って就職先を探そうと考えていたのだ。
案内された先は、学生時代のリアス先生の研究室を思い出すような部屋だった。
植物魔術学専攻の先生の部屋はとにかく植物が多いのが特徴だ。
「変わりませんね」
「おや、戻れたのか」
「……騎士団長である俺が魔術師ギルドに入る姿を見られては面倒なことになりかねません。犬の姿の方がましでしょう」
「ふむ。自ら犬の姿に変わることを頑ななほど拒んでいた君の心境の変化、もちろん彼女が関係しているのだろうね」
「……否定はしません」
ジークウェルト様が大型犬に姿を変えてしまったことを慌てていたのは私だけだったらしい。
(もう、それならそう説明しておいてほしいわ)
いざとなったらジークを連れて帰ろうと思っていたのに酷い話だ。
「ジークウェルト君はあいかわらず言葉が足りないな」
「……どういうことですか?」
「見ての通りだよ」
ニッコリと笑ったリアス先生と私のほうを振り返り「……心に留めます」とつぶやいたジークウェルト様。
確かに言葉は足りないかもしれないけれど、どうして私を見て納得するのだろう。そんなに表情に出ていただろうか。
「さて、本題に入ろう」
「話が早くて助かります」
「そもそも、僕が王立学園に赴任することになったのも君の力が原因だ」
「……やはりそうでしたか」
「すまないな、だがその件は時効にしてくれ」
「ええ……当時、先生にも立場があったと思いますから」
「……」
リアス先生は、王立学園赴任までは王立魔術院に籍を置いていた。
しかし教職を離れても王立魔術院に戻らなかったことと関連するのだろう。
リアス先生はそれ以上聞かないでほしいとでも言うように、口元に笑みを浮かべると分厚く古い1冊の魔術書を本棚から取り出して机の上に置いた。




