そんなところで 2
義家で暮らしていた頃のこと。お隣さんは鳥好きな方で、でも家には猫がいるからと野鳥を眺めることでなごんでいらした。
「訪問者が多すぎる」回の冒頭のお隣さんである。
そのお隣さんとの境目に、種類はわからないものの若い木が一本あった。
裏庭に植えた覚えのない金木犀が生えたりとかもしていたから、やってくる鳥の足についていたか落とし物から育ったのではないかと想像する。
ちょうど今くらいの時期に、玄関の窓に謎の鳥の影があることに気づく。窓を開けると飛んでいってしまうから、二週間くらい正体がわからなかった。
ある日、やけに暑かったのと出掛ける予定がなかったのとで、朝から窓が開けたままにしてあった。網戸越しとはいえ、なんとなく鳥の種類が見えたような気が。
ヒヨドリ……なんでこんなところに巣をつくる。
丸見えじゃねえか。しかもそこ、我が家側はよく通る。お隣さんは庭側から出た方が都合がよいようで、あまり通っているところには遭遇していない。
そして最悪なことに、通りすがりに手を伸ばしたら、わたしでもギリギリ届いてしまう高さであった。わたしの身長は一五〇センチ少々である。
なんでこんなところに巣をつくっちゃうかなあ(二回目
おまけに我が家もお隣さんも猫飼い。当時は双方外出猫だったのである。最悪だ。
「ヒヨドリ……こんなところに巣つくっちゃったんですよね……」
「あぶないわよね~。かといって、追い払うのもかわいそうだし」
イキモノに甘い人間たちであった。
網戸越しに眺めること数日。
まさかの抱卵である。あれだけ人と猫を見ておきながら、すげえなヒヨドリ。
そうこうしているうちに、孵っちゃったよ卵。雛の鳴き声が聞こえる。
刺激しない方がいいよなあと、玄関の窓は開けておきたい(開けておくと涼しい)ところを期間限定で辛抱することに決めた。
それにしても、ここでこれだけ丸見えだと、上からだったらどうなってるんだろう。位置的に2階から見えないんだよね。二メートルちょっとの若い木だから、それほど葉も繁っていないのが気になっていた。
のだが。
孵化して二週間ほど。やけに静かである。前日までは毎日ちっちゃな雛の声が聞こえていたのに。巣立ちには早すぎるだろう。
あまりに気になったので窓を開けてみれば、もぬけの殻だった。少し巣が乱れていたようにも見える。
おそらくからすか、猫か、蛇か。
いるんだよ蛇。庭でよく遭遇するのはシマヘビだけど、お隣さんはマムシを見たと言うし、お向かいさんなんかアオダイショウとたたかってたし。物干し棹でひっぱたいたら逃げられたと悔しがっていたっけ。
この頃は外出猫も多かったけど野良猫も数が多かったから、候補は多すぎてそもそもでしぼれない。からすは油断すると集まってくるし。ねぐらが近いから。
営巣できても皆育つわけではないと知ってはいても、自然って残酷よね……と、遠い目になるわけで。選んだ木が悪すぎた。まだ若い親だったのかな。
巣立つまで(すりガラス越しに)見守る気満々だったから、こちらも結構凹んだ。
以来、ここで営巣する鳥さんを見たことはない。




