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おかあさんの昔話 4

実家のあるところは、辺り一面田んぼだった地域である。

地主のおじいさんが「役所のやつらが地図の上に定規を置いて、びゃーーっと線を引いて持っていきやがった!」と未だに怒っている、国道もあったりする。


おじいさんの言い分はわかる。昔ながらの土地だから、生活道路が入り組んでいるところにシャッと直線でふっとい国道が通ったせいで、土地がおかしな形で分断されてしまっているのだ。

国道の向こう側に、こちら側と同じ町名の場所がちょこっとだけ存在している。そして、国道に対して斜めに道路がある。だから、土地が三角形になってしまっているのだ。なんか変な感じ。


でもうち(実家)の人たち、なんでみんなして同じ話をおじいさんから聴いているのだろうか。聴いた時期はバラバラではあるが。母なんか「顔を合わせる度に言われるんだわ」と言っていた。おじいさん、よっぽど腹に据えかねてたんだな、長い間。



さて、そんなところに一駅向こうから友達を訪ねて遊びにいく娘がいた。

「あらためて考えると、よく通ってたよねえ子どもの足で」

わたしが話を聞く度に何度でも言っていたことを、ようやく本人が実感を伴った瞬間であった。訪問手段は徒歩くらいが当たり前の暮らしをしていたから、それが普通で疑問もなにもなかったのだろうとは思われる。


それでも、ねえ。

ほんとよく歩いてるよね、草鞋で。


収穫期に訪ねた友達の家には、農家なので当然、足踏み式の脱穀機があった。

脱穀機。社会科の資料集でしか見たことないわ。子の通っていた大学の農場で見たのはトラクターだけだった。


「釘みたいなのがいっぱいついていて、ぐるぐる回っているところに穂をかけて籾を外していくやつね」

「現物見たことないわー。でも資料集とかで見たことがあるのは、なんか面白そうだと思った」

「そうなのよ」


それはもう興味津々で、やってみたいと思っていたそうな。ああ、わたしはやっぱりこの人の子だわ。DNAこわいねえ。

そうして我慢の限界を超えた頃。忙しく立ち働く大人たちに「ねえ、これやってみてもいい?」と尋ねた。


「『いいよー』って、いってくれたからね、やってみたのよ」


子ども目線だと、大人がいとも簡単に収穫後の稲の束を回る釘に載せるとばーーーっと籾が外れていくのは楽しそうに見えるものである。たぶん今のわたしでも思うだろうな、やってみたい。

で、実際に手にした稲の束を釘に載せると。


「あっっ!」


束ごと身体がもっていかれるから反射的に手を離してしまい、あっという間に脱穀機へと巻き込まれていく稲束。束はほぐれてしまい、脱穀機の周りは大惨事。

釘に稲藁が絡まっちゃうし、肝心の籾は取れていないし、なによりぐちゃぐちゃ。

子どもの頃って謎の万能感があるから、自分もできると思ってしまうところがあるけれど、子どもの重さと力では太刀打ちできないものも多いのである。

それが、まさに今。


「……ねえ、帰っていい?」

「……うん、帰っていいよ」


友達に逃がしてもらう形で、一目散に帰宅したそうな。

その後、友達が代わりに叱られたのか、子どものしたことだからと大目にみてもらえたのかは定かではない。

後始末はかなり大変だったのではなかろうか。結末がちょっとばかりつらかった。


「あれから、収穫期には絶対遊びに行かなかったんだわ……」


思いの外ダメージが大きかったようだ。それもそうか。



別の友達の家には、農作業が一段落したあたりで「ご馳走あるから、遊びにおいで」とお母さんから声がかかって訪ねていっていたとか。上記の友達の家よりさらに先の農家さん宅であった。おおむね一駅半。

え、ルートがわからんのだけど今の道でも片道二時間コースじゃね?

それを往復……昔の人はタフだと思ってるけど、思ってる以上にタフだわ。


お茶の先生から「お饅頭あるから遊びにおいで」と誘われて行っていたとか(周囲にはお茶を習っていると思われていた模様。本人は饅頭を食べに行っていたつもり)、酒飲みの大工さんが午後のおやつを「これ食べちゃうと(帰宅後の)酒が美味しく飲めないから」とよくもらっていたとか、なにかと餌付けされがちなのは血筋なのか、もしかして?


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