迷子を保護した
大人だけどね。
その日、わたしは実家へ向かう最寄り駅でバスを待っていた。
待ち時間があるからとベンチに座ればハトが寄ってくる。きみにいつもパンをくれてるじーさんと違うぞ、わし。個体識別できてる?
危機意識低いなあ、野生なのに。
そんなことを考えながらぼんやり座っていると、相変わらず知らない人に声をかけられる。
「あのー、○○へ行くにはどのバスに乗ったらいいでしょうか……」
駅のバス停は三箇所に別れているし、○○へ行くバスは二種類(乗り場も二箇所)あるし、わかりづらいのはたしか。しかもこの○○、ちょっと位置が特殊で同じ名前のバス停が上りも下りもふたつずつある。位置関係、わけがわからない。
┃ ┃
┃ ┃○○3
○○1┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃ ○○2
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信号交差点
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┃ ┃
┃ ┃○○4
※罫線の都合上、バス停名の数字のみ全角表記とする。本文にも適用。
こんな感じ。1と2が下り、3と4が上り。
二系統ある弊害だよね。実は1には、まだ停まる系統がある。一日にわずかだけ、経由地が違う路線がある。ややこしい。
余談ではあるが、3の次に4へ停まる路線に乗ると、3を出たアナウンスが「続いて、○○4」と言う。続くんかい。続いてるけど。
「☆☆(施設名)へ行きたいんです」
「でしたら、○○ではなく△△の方がいいですよー」
△△だと☆☆の真ん前に停まるし。○○2の次だ。
でもなんか、この人ったらやけに○○にこだわる。
わたしが今回乗るバスは、そっちじゃない方の○○1に停まる。急ぎじゃないからこの人の言ってる○○2へ行く方のバスに乗ってもいいんだけど(本来乗る方でもある)、あと二十分ほど待たないと来ない。
じゃない方の○○1で降りてもそこから実家は徒歩十分。だから乗る系統のバスである。
だが少し話して思った。この人、たぶん口頭説明で放り出したらダメなタイプだ。迷子を作り出すのは本意ではない。
――仕方ない、連れていこう。
「わたしが乗るバスだと、少し歩く方の○○に行きますが、その後の方向が同じなのでご案内しますねー」
降りたらバスで来た道を戻るつってんのに進行方向へ向かおうとするのを制止したり、なんだかんだありながら無事に目的地へ到着。
「帰りはね、駅に向かうならこの歩道橋を渡った階段を降りたところにバス停があるから、ここでバスに乗ってくださいね」
強く強く念を押して別れた。
またこちらに来るようなこと言ってたけど、大丈夫だろうか。
ちょっと心配になった。
おまけ。
乗ったバスの発車直前に乗車口から「ねえ、このバス市役所は行くの?」と問われる。いやそこマイクついてんだから運転士さんと話そうよ。他にも人いるのになんでわたし。
「このバスは行きませんーー」
後ろのバスに乗って**で降りてーー。
という前に、絶対に市役所へ向かわない方のバス停へ行ってしまった。
人の話は最後まで聞けぇーー。
そんなことより運転士さん、聞こえてたよね?
なんで『扉しめまーす』ぷしゅー、なん?
ほんの十分くらいの間の出来事でした。




