かつお菜
居住地に、ちょっと変わった農家さんがいる。
わたしのエッセイ作品の中でちょくちょく紹介している「この辺では栽培していない作物を作りたい」農家さんである。
このかたのおかげで、我が家の食卓はたいへん賑やかになった。
「おかのり」「山くらげ(茎レタス)」「日野菜(かぶ)」「紅くるり(中まで赤い大根)」「紫いも」「パープルキャロット」……ほかにもいろいろ。
数年前から、そこにニューフェイスが登場した。
「かつお菜」だ。アブラナ科、カラシナ類に属する、高菜の仲間で九州北部の伝統野菜という。
品物の表示には、うまみが強くおひたしに最適、とあったので、早速茹でておひたしにしたのに、なにをトチ狂ったのか鰹節をたっぷりまぶして「かつお菜本体のうまみ、よくわかんねえ」という状況にしたのが初年であった。
翌年は、事前に調べて「へぇー、お雑煮に入れるんだ」となったのだが、肝心の年末にモノがない。
見つけたときは胡麻和えでいただいた。
昨年末も、実はもち菜を求めつつかつお菜チェックをしていたのだが、まったく出てこなかった。姿を見せたのは前年同様、一月も下旬にさしかかってからである。
生産者さんの納入時間帯はだいたい把握しているのだけれど、近頃はそれより早いか遅いかという時間にしかわたしがお店に行けていないため、なかなか話せないでいる。そうめんかぼちゃを見つけたときは思わずお礼言っちゃったもんなあ。当たり前だがとても驚かれた。
そんなわけで、入手してきたかつお菜を、今年もいただくことにする。
毎年あるとは限らないから、食べられるときに食べるのだ。
葉っぱはちぢれているから、全体をしばらく水につけておいてから振り洗いして、さらに流水で洗う。ちぢみ菜はほうれん草や小松菜でもおいしいけれど、洗うのが面倒である。でもここで手を抜くと口の中がジャリッと大惨事になることを思えば、面倒でもやるしかない。
今回は、なんと宮島醤油の粉末うどんスープがあるため、ご当地風の味付けができるのである。
とてもおいしいあごだしスープ。滅多に出てこないからと買いだめしておいてその存在を忘れ去るという、とんでもないことをした。かつお菜を買ったことで思い出してよかった。
賞味期限は過ぎていたけれど。
大根とにんじんを短冊に、しいたけを適当な薄切りに、かつお菜は二センチ幅くらいにザクザクと切り、大根、にんじん、分量の水を鍋に入れて火にかける。
沸騰したら豚肉としいたけを加えて再沸騰後に灰汁をとり、かつお菜の茎に近い方、葉っぱの順に入れたら、粉末スープとゆでうどんも一緒に入れて煮込んで出来上がり。
生の高菜はまだ手にした経験がないのだけれど、おそらくそちら寄りと思われる独特の香りがする。同じアブラナ科でも、ほかの野菜とはなんだか違う。でも、嫌いじゃない。
あごだしにかつお菜の苦味がマッチしていて、これはおいしい。お雑煮に入るというのも頷ける。お味噌汁にもよいといわれるのもわかる。この辺りの味噌だと味噌が勝ってしまうから、合わせ味噌の方がいいかもしれない。
今回の誤算は大根。煮すぎというほど煮ていないのに、口に入れたらとろけてしまった。切るときはあんなに手応えがあったのに。
作物の不思議である。
手に入るうちは、食べたい野菜のひとつになった。




