電話がかけられない
わたしは子どもの頃から電話を苦手としている。受ける方も、かける方も。
現在でこそ携帯電話を所持しているが、実際のところは不携帯電話である。家の中では特に顕著で、起床時に枕元から手に取ったらLDKのテーブルの上に置き、放置する。
最初から入っていた歩数計アプリの反応がない所以である(「スマホの歩数計」回)。
電話が鳴ると、まずビクッとする。反射なだけに、自分でもどうしようもない。それから、画面を確認して出るかどうかを決める。電話恐怖症を起こすと電話が鳴るなり投げ捨てるという謎行動に出るため、それがなくなっただけ御の字である。
かける方はといえば、相手の都合をまず考えてしまい、躊躇する。繋がってしまえば応対はできるのだが、それまでがひと苦労もふた苦労もあるわけだ。
今回は、相手が美容室。
以前は行ったその日に次回を決めてきてしまっていたので、予約を取るのにまったく苦労することがなかったためすっかり忘れていたのだが、一人親方な店なのと、ウデがよくて人気店であることから、本来は予約を取るのが難しいのだった。
――お店に勤めていた頃より予約を取るのが難しくなっているのでは。
少し前の予約取りに難儀したことから要らん考えが頭をよぎってしまい、また電話がかけられない状態に陥る。どうしても髪を切りたいのに。
そう、前回は本来の営業時間を外れたところにねじ込んでくれたのだ。いいよ~と言ってくれるけれど、それは付き合いが長いからであって、いくら客だからといってもあれはさすがに申しわけない気持ちが大きかった。お仕事の都合などでそこでないと入れられないお客さんにされるべき対応だと思っている。
ので、ずっと見送り続けていた美容系の検索・予約サイトの会員登録をすることにした。もともとご家族の都合などでお休みを入れる不定休のお店だから、ここで休日を確認した方がいいのかもしれないとは思っていた。以前は本人から直接聞いていたのだ。
行く頻度が下がった弊害である。
そうしたら、案の定思った日がすべて埋まっていた。
そらそうだよなー、年末だし。
「電話するのに躊躇してしまって~~……。お邪魔にならないかなあとか」
「電話してくれていいのに」
「で、このようなカタチに(予約サイト経由)」
「電話してくれていいのに~」
当日、お店で笑われた。だって電話ってかけ手優位だから相手の都合お構いなしではないか。施術中にかかってくる電話とか、ちょっとどころでなく申しわけない。
「で、今回はどうします?」
「見てお分かりの通り(外はね)寝ぐせではないので、どーにもならなくて。耳を出そうかなと思いまして」
「そっちいく?? そっちいっちゃう????」
もうね、好きなだけ刈り込んじゃって!
そうお願いして、また笑われる。だって毛先の散り具合によっては「うぱ♡」て言われんのよ? 寝ていると、頭の周りにねこだんご(三英貿易のぬいぐるみ、だんごフレンズのねこバージョン)たちをまとわりつかされるんよ?
揺れる髪にうずうずするねこの図、とかいって。
「いや直しに来なさいよ」
「どうにかなるかなと思って……。ならんかったけど」
頭洗います、タオルドライします、ドライヤーかけます、とりあえずまとまります、部屋に戻ると既に外はね?
で、叱られた。
実はカットした当日からだったから……。
こうしてめでたく無事に刈り込まれたのだが。
「まだ(これ以上)刈り込まないとは、言ってない」
やっぱりこの人、ソフトモヒカンを諦めていないのかもしれない。
「うぱ」は、ウーパールーパーの外えらの意。ひらひらしてるから……。




