ようやくラタトゥイユ
長い間ラタトゥイユのつもりでカポナータを作っていたわたし。
「気がつけばカポナータ」回以降もカポナータは作っていた。しかしやっぱりラタトゥイユを食べたい。ようやく「今度こそは」と重い腰をあげた。
よっこいしょっと。
だが、しかし。
思い付いてから実行するまでに時間がかかりすぎて、実にこの数週間は愉快なことばかり起きていた。
一気に材料を揃えたところ、帰宅後にやる気が家出をする。湿度に敗けてバテバテだったともいう。その材料たちはそれぞれ別の料理に化けた。
ならばと別々に買い揃えようとするも、どれかを買って帰るとどれかがない。メモをとれ、そして持ち歩け。メモ魔の名折れである。紙が湿度でヘタったのを干していたら存在を忘れたのが敗因であった。
まあ、書いても普通に忘れていくのだけれども。
あらためて材料を買ってきたところ、仕舞うために冷蔵庫の野菜室を開けて「あれ、なすがない」となる。おかしいな、記憶では二本あったはずなのだが。
「昨日のパスタに入れたー」そのパスタはわたしも食べていたはずなのに、加熱しすぎで崩れてわからなくなっていた模様。
なすを買ってくれば今度は「にんにくどこいった?」「昼に食べたー」。そういえばチャーハンに入っていたな。
いたちごっこである。
気を取り直して、なんとか材料を揃える。
ズッキーニ、なす、パプリカ、ピーマン、玉ねぎ、トマト、にんにく、オリーブ油、塩。
あれ、トマトが一個しかない。今回もか。
これ以上先送りにしたら作る気が完全になくなってしまう。それだけは避けたい。
食べたいのだ、わたしが。
なら、どうするか。
トマト缶のストックはないが、箱買いしたトマトジュースがある。濃縮果汁還元ではなく、ストレートタイプのシーズンパックが。とても強い味方である。
買うやつ間違えて一本あたり一六〇ミリリットル入りだけれども。一九〇ミリリットル入りのものを買ったつもりでいた。
もはやなにからなにまでミラクルである。斜め方向へ向けた。
気を取り直して。
にんにくは粗みじんに、玉ねぎ、ズッキーニ、なす、パプリカ、ピーマンは大きめに、トマトはざく切りにする。
本来は素材ごとに別々に炒めるところを、いっぺんにすませる。オリーブ油とにんにく、ローレルを熱し、香りが立ったところにズッキーニ、玉ねぎ、なす、パプリカとピーマンの順に加えながら、素材を入れる度に塩をひとつまみずつ入れながら炒めていく。
ある程度火が通ったところでトマトとトマトジュースを加え、蓋をして煮る。
そこへしょうゆを垂らす。
どうにもやめられない。これくらいは許されると信じている。
日本人だもの、と言い訳をしながら。
とにかく水分の多い野菜ばかりなので、ひたすら煮詰める。
なすが崩れてしまったが、まあ仕方がない。味をみて、足りなければ塩を足す。ラタトゥイユの塩は少し薄いくらいがちょうどよいように思う。
これでようやく、シンプルなラタトゥイユだ。
あたたかくても、よく冷やしてもおいしい。濃い味が好きな人にはかなり物足りないとは思うが、こういうのが食べたいときもあるのだ。
野菜もたっぷり摂れるし。




