あぶないところだった
「野鳥の雛を拾ってはいけない」
知識としては知っていても、実際目の当たりにすると大きく動揺するものである。
と、実感した。
もっとも、現場がよそのお宅のカーポートだったため踏み込むわけにもいかず、結果として放置となったのではあるが。割と精神的にくるものがある。何度あっても慣れない。
いつもきれいにされているお宅のカーポートに、黒っぽい小さなほわほわが落ちていた。風に吹かれてふわふわと、表面が揺れている。
なんだこれ? 石ならこんなに表面が揺れるはずはない。というか、石ならこんなところにあるのは不自然だ。
そんなことを思いながら少しだけ近寄ってみると、どう見てもホコリではないことに気づく。ホコリなら風が吹いたら飛ぶし。
少し眺めていると、上部が動いた。えっ、動いた?!
思わず凝視する。あれ、これもしかしてくちばし? 黄色いし。
鳥の雛だわ、これ。
カーポートの屋根も含めて周辺を見回してみるが、見える範囲に鳥の巣はない。こういうのを見つけるのは早い方なのだが、それでも見当たらない。隣の家の反対側の端までいかないと植木もないし。向かい側に家はない。
親っぽい鳥は見当たらないが、このコはちょこんと落ちているだけにも見える。
町内会レベルで隣町までいけば動物病院はあるものの、ここは犬猫専門だった気がする。この辺で鳥も診てくれる病院って、居住地の反対側の端に近いところしか知らない。ここは移転する前はもう少し近いところにあって、先代クサガメさんを診てもらったことがある。そのときと変わっていなければ診てくれるかもしれないが、今の場所だとだいぶ遠いな。
それになにより、今日のわたしは時間の縛りがある。どうしても○時のバスに乗らねばならないのだ。
きょとんとした顔でこちらを見ている雛鳥にごめんねーと声をかけ、後ろ髪を引かれながらその場を離れた。
めちゃくちゃ暑くなる前に避難できるといいのだけれど。
帰宅時、どうにも気になったので同じ道を引き返すと、カーポートには既に車が停まっていた(夕方遅いんだからそりゃそーだ
あらためて調べてみると、巣立ち雛の可能性が高い。下手に手を出さなくてよかったパターンなのではあるが、猫もよく見かける地域だけにやっぱり少し気にはなっている。とはいえ、それも含めて自然の一部。
背中側からしか見ていないから鳥の種類はわからないが、もしかしたらつばめかもしれないなと思った。でもつばめってもっと大きくなってから巣立ち準備を始めると思っていたのだけれど。あんなにほわほわで巣から出てたかな?
でも近くに巣がないということは、巣から落ちた雛とも考えづらいのだ。
なんにしても、弱っていたわけではなかった(ように見えた)から、うっかり拾わなくて正解だったのだろう。うちのアパートだとたぶん不可だし、保護しても面倒をみることができない。
それはあまりにも無責任だ。
こちらを見ていた雛の顔が、めちゃくちゃ可愛かったけど。
めっちゃ見てたけど。たぶん見てただけだけど。ぅぅ。もしかしたら怖がられていたのかもしれないけど。しくしく。
無事に親鳥と合流できたと思おう。
自然のものは自然に。トリさんは頑張って見守ろうとあらためて思った。
だって拾ったら絶対ほだされて手放せない。




