その娘、詐欺師
娘と呼ぶには年齢的に無理があるが、立場としてはそこにある現実。
実家へ行く際、家へ直行できる(家に上がる)ときはできるだけ惣菜を作って持参することにしている。わたしが食べるものにやたら制限が多くなったことも理由にあるが、実家で食事の支度をしていると食事の時間が遅くなってしまうからだ。
家へ向かっても、家に上がることなくその足で病院に行くお迎えバージョンだと、家に戻ってくるのが何時になるのかわからず、惣菜を持ったままうろうろするのには抵抗があって、持参しないことにしている。
食べる人がご老体だから。
自分だけなら平気で持ち歩くのだけれど。自分の作ったものでアタるのって、原因不明のさばの味噌煮だけだったし。最近克服できた気もする。
それはさておき。
ある日の持参惣菜に、豚肉の紅茶煮があった。かなり簡易バージョンの、表面を焼き付けてから紅茶で煮るタイプである。
ご老体が食べやすいようにと、少々手を加えてあったりするのだが、それを伝え忘れて供したところ。
「この肉、こんなに柔らかくなるまで煮るなんて、大変だっただろう?」と、父。
とても感心している。しかし、そこには罠があった。
慌てて説明をする。褒められたのはうれしいが、そこに正解がないのは心苦しいのだ。
「ごめん、説明するの忘れてたけど、これ塊肉じゃなくて豚こまなんだわ……」
「ええっ?」と、驚く父。
「またそんな手間をかけて……」と、呆れる母。
豚こまを広げて適度に重ね、塊肉風に切り分けたら、片栗粉をまぶして焼き付ける。フライパンの余分な油を拭き取って、煮込む調味料を注いだら汁気がなくなるまで煮る。
豚バラ肉の薄切りを重ねて同じように煮る角煮を作ったこともある。これは家族に出したがネタばらしをするまで気づかれなかった。彼らの場合はあまり頓着しないから気にしていないだけ、という可能性も高い。
「いやあ、こっちの方が箸で切りやすいか、なー……と、思って……」
笑ってごまかせ。ごまかされてはくれない人たちだけれども。勢いでごまかせ。
塊肉でもお茶で煮ることで箸で切れる程度にほろほろにはなるのだけれど、現在歯医者通いをしているご老体にはちとかたいかなと思ったのだ。
虫歯が神経までいっちゃってる疑惑だったし。その後神経までいっちゃってることが判明して、現在がっつり治療中である。
結局、なるほどねえ、と納得したようなしていないような雰囲気のまま、食事を終えたのであった。
いやほんと、ダマすつもりはなかったんだけどなあ。
事前説明は大事よ、ほんと。




