おかあさんの昔話 9
それは、我が家が生協で頼んでいる米が「レンゲ栽培米」である、というところから始まった。
レンゲ栽培米とは、昔からあるレンゲ農法というものを用いて、稲刈りの済んだ秋にレンゲの種をまき、春に咲いたレンゲを田おこしですきこんで肥料にする手法で育てられた米である。レンゲは窒素を根に取り込み、しかもそれを溜め込む性質をもつため、土にすきこむことで田んぼの土に窒素を含ませることができるのだ。
昔の人の知恵すごい。
というわけで、またそろそろSNSで「田んぼに入ってレンゲをとるな」という旨の文言が流れてくるようになるのだな。
時代が変わっても、子どものやることはそう変わらない。現在は大人が率先して子どもを唆すという、頭を抱えたくなるような事態も起きるけれど。
大人なら田んぼは地主さんに許可をとってから入りましょう。許可してもらえなかったら素直に諦めろ。勝手に入るんじゃねえ。
母の通っていた小学校は、現在(というか、わたしが物心つく前に)はでっかい国道(当時はバイパス)が引かれてしまって見る影もないが、周囲一帯が田んぼと畑だったという。
「○○川(一~一.五キロほど先)の辺りまで、見渡す限り田んぼでねえ、春になるとレンゲがきれいに咲いててねえ」
それはさぞかし見ごたえのある風景だろう。彼女たちには見慣れすぎて当たり前の光景だったろうけれど。
「学校からすぐの田んぼに友達と入り込んで、レンゲ摘んで遊んでたんだわ」
ぉぃ。
やっぱり、そこにある光景も当たり前なら、子どものやることも当たり前だった。当時わたしも同じ年頃なら、たぶんやっている。やったことがないのは、できる地がそこになかったからだ。
「そうするとね、○○川の方からおじさんが『こらぁーーーーーっ!!』って」
クスクス笑って言うけれど、そりゃ怒られるわ。でも摘みたい気持ちもわかる。
一緒に田んぼに入り込んでいたお友達の中に、おじさんと仲の良い駅前のお店屋さん(おじさんと仲が良いのは店主)の孫がいたそうで。
「おじさんがさあ、『□□(お店の名前)のじーさんに言うぞーーーっ!!』って怒鳴るんだわ。よく見えてるよね」
たしかに。昔の人って視力どれくらい良かったのだろうか。そんな距離で個体識別するとか。一キロ以上向こうだよなあ。
だから、怒れるおじさんがこっちに到着するより先に、小娘たちは脱兎のごとくあぜ道に上がって走り去っていくのだ。
多少のお目こぼしはあったのだろうと思うが、その年の作柄にも影響することを思えば、おーるおっけーで野放しにするわけにはいかない。
きっと子どもたち自身も、どこまでなら許される、というラインをギリギリのところで攻めながら綱渡りしていたのだろうね。
あれ、もしかして子どもの頃にやらかして近所のおじさんやおばさんに叱られていたのって。
……血筋?




