台風がくると
大きい台風が近づくと、一九五九年九月二六日の伊勢湾台風を体験した人たちの話を思い出す。
まず、母。二十歳ほどの娘であったと思われる。「おかあさんの昔話」で出てくる育った家にいた。この地はそれほど台風の影響が大きくないところである、今も昔も。
だからかな、とくに大きく対策をするでもなく、一枚ガラスの扉がたわむのを眺めていたという。
「あんなにすごい風なのに、そう簡単に割れるものじゃないのねガラスって」
妙に冷静である。
そら数年前の台風時にきょうだいが大騒ぎしながらガラスにガムテープ貼っていたのを止めようとしたわけだ。あの人言うこと聞かないからあとから剥がすの大変だったらしいけど。
「やるなら板の打ち付けだよなあ……無理だけど(賃貸だから」
窓にテープは貼らない方がいいんたよね、たしか。
話を聞いたときにうっかりつぶやいて呆れられたのは記憶に新しい。
次に、子供会の役員をしていたときに町内のかたから体験談を寄稿された。当時小学生だったというこのかたは、名古屋市でめっちゃ被災されていた。貯木場から高潮にのって木材が流出したんだよね、たしか。
当時の気持ちを綴られた、割と重めな手記だった。当事者の話って重要。
でも小学校低学年さんには少々難解だったかもしれない。
ので、まんま会員宅へ配った。
台風について家族で考えて話してみましょうということにして。
残念ながら反響はなかった。御礼文にまとめて返却したかったのだが。たぶん通じなかったなあれは。
とりあえず受け取った経緯をメモして役員の引き継ぎのときに分かりやすいようにしておいたけど、どうなったか。
そして、台風の日に出掛けていたので、そこでバスを待っていたら行き合った老婦人たち。おそらく母より少し下くらいの年代と思われる。
台風の日に出歩くとか元気だな。人のことは言えないが。
和気藹々とお喋りしているからてっきりご友人だと思っていたのに、なんとほとんどが初対面。対人スキル高すぎだろご老体。
……ちゃっかり混ざってるから人のことは言えないが。
「こんな天気の日に出歩くなんて~」いやそれ全員お互い様だからな?
「この程度の風なんて、たいしたことないわ~」と笑っているご婦人がいちばん飛んでいきそうな件について。
「伊勢湾台風に比べたら、ねえ(笑」
「そうよねえ、たいしたことないわよねえ(笑」
「傘なんてさしたら」
「ぱぁーーーーっと飛んでっちゃってねえ(笑」
「「「「そうそう(笑」」」」
なんでそんな楽しそうなの、老婦人たち……。
当時中高生だったんかな……と謎の逃避を始めるわたし。
「この辺、そんなに台風の影響ないですもんねえ(山切り拓いた土地だし」
「「「「「そうそう!!」」」」」
え、皆さん昔からこの辺の人?
さっき違うっぽいこと言ってなかった??
謎が深まるばかりであった。
そうこうしているうちに乗るバスが来ちゃったので(いかんのかい)離脱したけれど。あの元気ばーさんたち無事に帰れたんかな。
何年か経つけれど、たまに気になる。




