ねじ
眼鏡のねじがなくなった。
しかも夜。
おまけに時間がない。
終電を目指して駅へ急ぐ道すがら、汗を拭いて眼鏡をかけようとしたらテンプル(眼鏡のつる)が片方ぽろり。
「え?」
いつのまに緩んでいたのだろうか。
普段から汗を拭くのに眼鏡の着脱回数は多いため、緩みやすくはあった。家を出る前に締めたんだが。
この日は普段とかばんが違っていて眼鏡用のドライバーが入っていなかったのと、人と会っていたからねじのことなどすっかり頭から抜け落ちていたのとで、気づくのが完全に遅れた。
落ちたのはたぶん店。でもたぶん見つからないだろうな。
さて困ったぞ。とりあえず見えねえ。
帰宅せねばならんのに。
片方のテンプルが外れた状態でかけてみる。ズレる。視界が歪む(乱視矯正分
外れたテンプルを差し込んでかけてみる。普通に外れる。眼鏡が落ちるぅー。
どの案も却下である、余計に危ない。
色はわかる。輪郭はわからない。まあどうにかなるだろう。
夜だけど。電車だし。階段の境界線さえ間違えなければ。
座ってスマホを取り出す。こちらはまったく問題ない。
さすがローガン。
問題は、最寄り駅を出たところにあった。
街灯のないところがまじで見えねえ。
さすがにタクシーを呼んだ。
そしてミラクルが起きた。
普段この辺を走っていない人がきたー!
ナビを使い慣れている人でよかった。住所で帰れた。
道案内してくれと言われていたら(よくある)詰んでいた。車の中からだと明かりしか見えないんだもん。
雑談ついでに訊いてみたところによると、普段は繁華街方面で走ってらっしゃるとか。それが仕事とはいえこんなところまで。大変だ……。距離が短くて申し訳ない気持ちになった。
その流れで眼鏡の話をせざるを得ず、めちゃくちゃ同情された。そして「え、それでこの道を歩くつもりだったんですか……?」衝撃を受けられた。
ええ……まあ……。
実家へ行く週だからその前に眼鏡屋さんへ行かなければならないのだが(徒歩二十分)、天気が悪すぎる。台風め……。
家の中はいいのだけれど、外に出ると見えないのはネックだな。眼鏡はかけてもかけなくても見た目がそんなに変わらないらしいから(そういうデザインを選んでいるのもある)、かけずに出てもばれないといえばばれないのだが。
予備の眼鏡はない。
眼鏡屋さんもしばらく行っていないから、ずっと担当してくださっていた人の良さそうなオジサマはまだいらっしゃるのだろうか……不安だ。




